疾風迅雷
大惨事だったやもしれぬ。
緑に囲まれた、ゆるい勾配の続くランニングコース。
週に一度の、10キロラン。
社会人になってから、仕事中心になりがちな俺の、とっておきのストレス解消法。
市街地の大きな公園二つををつなぐ緑道は、ランニングコースとして人気の場所なんだ。
公園には広い駐車場が完備されているので、そこに車を停め、ランニングをする人は少なくない。
ばたんと車のドアを閉め、軽くストレッチを始める。
腰にランポーチ、ペットボトル、小銭、ティッシュ、車のカギ、スマホが入っている。
スマホアプリを起動して、いざ、ランへ。
公園内を一周ぐるりと回る。
ウォーキングの人たちを華麗にかわす。
かわいい犬を、華麗によけて。
タッタッタッタッ…
アスファルトの固い感じが、心地いい。
ざっざっざっざっ…
ウォーキング中のご婦人たちをよけて芝生に逃げると、土の柔らかさが伝わってくる。
…どのグラウンドでも、心地よく走れるものだ。
俺は公園からつながっている、緑道へと向かう。
緑道は、道路をよけた作りになっていて、信号がほとんどないので立ち止まることなく走る事ができる。それがランナーたちの間で、人気となっているんだ。
緑道というだけあって、コースには木々があふれている。
足元を見ると、赤い痕跡が。
ああ、桜のサクランボがもう付いてきたのか。
ついこの前、桜吹雪の中を走ったと思っていたんだけどなあ。
少し長いトンネルの上は、幹線道路。
ここを抜けた後は、少し長めの下り坂が続く。
よし、俺は、今から。
風に、なる!!
抑えていたスピードを上げる。
早い!
俺は、速い!!
俺は今!!
風となっている!!
飛び切り速い、そう、疾風だ!!!
風になる喜びにノリノリの俺!!
俺!!!
ピッキーーーーン!!
ん?
うん・・・?
え、ちょ、ちょっとまって…。
ぐるぅうううぅぎゅるる…
きゅ、急に、腹の具合がっ…
グルルルルルルルルギュルルルルル…
う、うおぉおおおお!!!
腹!!腹が!!いてえええええ!!!
ヤバイ!!
これは急降下パターンのッ…う、グっ…!!!
足を止めてはだめだ!!決壊する!!!
俺は誰よりも早く走った!!!
走った!!!走った!!!走ったああああ!!!
疾風迅雷とはっ…このことかっ!!!
俺はごろごろと鳴り響く腹を抱え、ピキピキと轟く痛みに耐え!!
春一番の風よりも早く!!!
トイレを目指してぇええええ!!!
…間に合ったと、思います…?
ねえ。
間に合ったと、思います?!
っ、うわああああああ!!!!
 




