近道
着実に歩みましょう。
こちらの作品は、カクヨムさんにて連載中の「オカルトレベル(低)の物語をどうぞ。」にも掲載しています。
あいつ、相変わらずきちんとした道を歩いてんな。
幹線道路をまっすぐ歩いて仕事場へ向かう親友を見かけた俺は、昔を思い出した。
「じゃあさ!山の神の神社まで、競争しよう!!」
「いいぜ!!勝ったらどうする?」
「白い店の飴引き四回やって、一番でかいのもらえることにしよう!」
「よーし!さん、に、いち、スタート!!!」
町の中にある、小さな山の頂上には、俺たちがいつも遊んでいた神社があった。
寂れてはいたが、子供たちが集まって遊ぶには格好の場所だった。
行く道の途中には、白い店という名の駄菓子屋があり、みんな30円持ってきて、そこでおやつを買った。
10円の紐のついた飴を引くくじが、とりわけ人気だった。
夏は、凍らせた棒ジュースが売り出され、一本十円で毎日買っていた。
裸のドーナツも売っていたな、梅雨の時期に買ったら、カビが生えていたのも、笑える思い出だ。
神社までの道のりは、三つあった。
一つは、普通の道路を行く道。これは15分かかる。
一つは、裏山を抜ける道。これは、険しいうえにテクニックが必要になるが、10分で行ける。
一つは、人の家を乗り越える道なき、道。これは、人様の家の屋根に登ったりする、危険極まりない道だが、5分で行ける。
俺はやんちゃなクソガキだったからな。
いつも進んで…道なき道を行ったさ。
でっけえ飴は、俺のものってね!
塀を乗り越え、屋根に飛び移り、忍者トットリ君も真っ青の身軽さで神社を目指した。
たまに住人が出てきて、こっぴどく怒られることもあったな。
かーちゃんと謝りに行ったっけな。
トタン屋根ぶち抜いたときはホントヤバかったわ。
俺はいつも、一番に神社にゴールしてたんだ。
俺の次に来たのは、良治。
山道から来たのか、葉っぱだらけで、ウケる。
良治の葉っぱをはたいて落としていると、何やら半泣きの幸太がよたよたとこっちに向かってきた。
山道の谷のところで転んだらしい。
コーちゃんはさ、おっちょこちょいなところがあるからさ、気を付けろっていつもみんなが言ってるのにさ!
コーちゃんの膝小僧を水で洗って、ばんそうこうを社務所でもらって貼ってたら、なんだか荷物をいっぱい持った勇次郎がいそいそとこちらにやってきた。
…ゆうちゃんはさ、真面目なんだよ。絶対危険は侵さない。普通の道路を歩いてきたはずだ。
あの袋は、白い店の袋だ。先にお菓子、買ったのか?飴引きどうすんだよと思ったら。
「なんか歩いてたらじいちゃんいたからさ!お菓子買ってもらっちゃった!みんなで分けよう!!」
人が歩くために作られた道路を、きちんと真面目に歩いて神社に向かったゆうちゃんは、おじいちゃんに出会って…、思わぬお宝にありついたんだよな。
やっぱりさあ、近道して出し抜こうとするとさ、いろいろと弊害ってもんがさ、出てくるんだよな。
今になってわかる、着実な歩みの、必要性、ってね。
俺はゆうちゃんのおじいちゃんの買ってくれたというおやつをぱくつきながら、普通の道も捨てたもんじゃねえなって思っていたわけさ。
その時食べた、昆布のお菓子のすっぱかったことと言ったらもう。
だけどさ、やっぱり人の性格ってのはさ、生まれ付きってのもあるかもしんないけど、なかなか変わらねーんだわ。
どうも俺は、近道、手抜きってのを、やめられなくてね。
常に、トップを目指して、突っ走って、きたわけさ。
後ろのやつらを振り返りながら、お前ら俺に、追いつけねえだろって、優越感に、浸ったりしてさ。
いやあ、近道しすぎるのも、大概にしないとな。
今は、俺、結構反省、してるんだけどな。
俺は、頭の上の輪っかをちょいと触って。
雲の、上に…、消えた。