善悪
ホントにダメなんだからね、こういう事しちゃ!
「「「「じゃーんけーんポーン!」」」」
「あ、じゅん君の負け、悪の大王ね!!」
「「「じゃーんけーんポーン!」」」
「あつしが正義のヒーローね!」
「じゃあ俺とのりおがさらわれた一般人か。」
「そう君悪人にしか見えないのに!!」
近所の空き地で、四人組の子供たちが遊んでいる。
土管の上で、仁王立ちしているのは悪役か。
その手前には、手を取り合って怯える二人。
三人に対峙しているのは、片手を上に、かっこいいポーズを決めた、ヒーロー役。
「はっはっはっ!!正義のヒーローあつし仮面登場!善良な市民の皆さん!もう大丈夫ですよ!!」
「何をこしゃくな!やっつけてやる!!」
「あつし仮面!がんばって!」
「あつし仮面!あつし仮面!!」
雑草がちらほら生えそろった、砂ぼこりが舞うステージ。
四人の演者が、各々の役柄を楽しんでいる。
そこへ、くたびれた親父がやってきた。
子供たちのステージに、無断でずかずか踏み込んでゆく。
「おいおい、いい年してヒーローごっこか?」
ヒーロー役が、悪役に翳していた、長めの枝をぴたりと止めた。
「善悪を決めつけて戦うなんざ、意味がねえんだよ。」
悪役が、土管から降りる。
「悪には悪の正義がある。正義には正義という思い込みがある。」
ヒーロー役、悪役、一般人役が、一列に並ぶ。
「大人になればわかるさ。くだらない遊び、してんじゃねーぞ。」
「「「「はーい。」」」」
くたびれた親父は、子供たちのステージから去った。
子供たちは、途中で演技を奪われてしまった。
演目の失われたステージで、四人の子供たちが集まる。
「善悪が判らない大人になるとだめだな。」
「子供の遊びに堂々介入してきて自分の正義を振りかざして。」
「自分の悪に微塵も気が付かないとか。」
「やだやだ、あんなふうにはなりたくないね。」
「まだ悪役の方が自分の信念持ってるよ。」
「一般人にもなれんな、助けたいとも思えないし。」
「ああいうのは近づかないのが一番なんだって。」
「「「まちがいない。」」」
演技をすることがばかばかしくなった子供たちはステージから立ち去った。
悪にすらなれないクソみたいな屑は、自分の正義を子供たちに見せつけることができたと独り言ち、薄汚ねぇ道をのたのたと歩いて行った。




