雷撃
おへそ隠します?
私の母親は、昔から雷が大嫌いだった。
雷が鳴り始めると、自室の奥で、うちわを持って部屋の明かりを消し、じっと待つ。
電気をつけていると、雷が落ちそうで怖いのだという。
私は、雷の音にはびっくりするものの、ぴかっと光る、瞬間が嫌いではなかった。
刹那の光に、憧れたのかもしれない。
懐中電灯のような、スピード感のない光とは違う、突き刺すような、光。
家中の電気を消されるので、私は豪雨が叩きつけられるリビングの窓辺で、一人、稲光を見ていた。
稲妻は、どこを目指して落ちているのか。
ぼんやり大きな窓の外の空を眺める。
落ちる場所は、決まっていない。
稲妻を目で追うものの、捉えられない。
稲妻を捉えようと、豪雨の空に、視線が飛び交う。
ごおおおぉおおおぉおおおおぉおおおおお……
豪雨の、容赦なく叩きつけられる音が、耳に痛い。
ドッピッシャァアアアァアアアアアン
光ってすぐに、雷が落ちた。
すぐ近くに、雷雲が、いる。
雷の、親玉が、頭上に。
あと、30分もすれば。
「ひぃいいいやぁああああぁあああああ!!!!」
母親の、パニックが、始まってしまった。
恐怖の針が振り切れると、母親は、一人、泣き叫んでしまう。
もう、ずいぶん昔から、私はこの雷撃アタックを、享受してきた。
あと、30分も、すれば。
長い、30分が、始まって、しまった。
私は豪雨と、雷の落ちる音だけに意識を集中する。
ごおおおぉおおおぉおおおおぉおおおおお……
「あぁあああああああああああ!!!!!」
ドッピッシャァアアアァアアアアアン
ごおおおぉおおおぉおおおおぉおおおおお……
ドッピッシャァアアアァアアアアアン
「ひぃいいいやぁああああぁあああああ!!!!」
ごおおおぉおおおぉおおおおぉおおおおお……
ドッピッシャァアアアァアアアアアン
悲鳴が、落雷と、豪雨の音に、混じる。
混じってしまえば、いい。
ごおおおぉおおおぉお……
「あぁあああああああああああ!!!!!」
ドッピッシャァアアアン
ごおおおぉおおおぉ……
ドッピッシャアン
「ひぃいいいやぁああああぁあああああ!!!!」
ごおおおぉおおお……
ピッシャアン
まずい。
豪雨と、雷に、勢いがなくなってきた。
こうなると。
私は、悲鳴が聞こえないよう、両手で耳を塞いで、窓辺をただ、見つめ。
収まりかけた外の嵐の轟音を恋しく思いながら、家の中の嵐が過ぎ去るのを、待った。




