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空気
入院した時の心細さ。
※こちらの作品は、ノベリズムさんにて連載中の「誰かのため息は、ずいぶん蒼くて…重いらしい。」でも公開しています。
フシュー、フシューと、機械の音が、白い部屋に響く。
この部屋の中は、消毒薬の香りが染みついた、空気で満たされている。
満たされた空気を吸い込み、私はひとつ、ため息を、ついた。
目の前には、空気を吸えなくなった人が、一人。
空気を、吸えなくなった、人であった肉体。
肉体を維持するために、空気を自動的に、送り込まれて、いる。
この機械は、人だった肉体を、無理やりこの世に、繋ぎ止める、呪い。
無慈悲な一撃で、根こそぎ抉られた、記憶。
無抵抗な人から、根こそぎ奪われた、命の機能。
目を閉じてしまうと。
在りし日の姿を思い浮かべてしまう。
動かない肉体を、まっすぐ、見つめる。
見て、おくのだと。
私と同じ空気を吸えるのは、あとわずか。
私と同じ空気が送り込まれるのは、あとわずか。
私の愛する人が。
世界から消えるまで。
あと、わずか。
 




