妬み
ひでぇ話やでしかし。
どうにもこうにも、妬まれやすい。
初めて気が付いたのはいつのことか。
保育園、オルガンを親せきからもらった時か。
近所の友達が遊びに来て言った。
「あーちゃんばっかずるい!」
オルガンを独り占めできる私に腹が立つんだって。
「じゃあ、あげる。」
オルガンをあげる約束をしたけど、もらってもらえなかった。
小学生、写生大会で特別賞をもらった時か。
絵が得意な友達が言った。
「私の方がうまいのにずるい!」
自分の方が上手なのに、選ばれなかったのが許せないんだって。
「じゃああげる。」
表彰状とトロフィーを渡したら、突き返された。
中学生、進路希望調査の後推薦をもらった時か。
同じクラスの同級生が言った。
「私に推薦譲らないなんて、ずるい。」
自分の方が頭がいいのに、推薦貰えなかったのが許せないんだって。
「じゃああげる。」
私は一般入試で高校へ進学した。
同級生は、どうなったのかはわからない。
ずるいずるいと言われてきた私、よく人生交換してといわれがちだった。
本当に、交換して、いいのかな?
私がものに執着しないのは。
集めた宝物を捨てられる日々が当たり前だから。
描いた絵など、一枚も残っていない。
認められた証など、一つも残っていない。
机の上には何もない、そんな生活が常だったから。
ものに執着できない人生が、そんなにうらやましいのか。
ものに執着しない私は、何でもかんでも、すぐに手放して生きてきた。
欲しいと言われたものはすべて差し出し、欲しいと願われた言葉はすぐに伝え。
そこに、私の心は、おそらく存在していない。
何もないまま、流されるように生きてきた。
人というものは、良くわからない。
一瞬の、イメージで、人を決めつけてうらやましく思う。
どんな人生を歩んできたのか、知らない人が、人の人生を羨んで妬む。
人の人生に、いろんな面があることに気づかない人の、容赦ない、妬み。
どうせ私はあんたみたいにできないから。
どうせ私はあんたみたいに認めてもらえないから。
どうせ私はあんたみたいに幸せじゃないから。
どうせ。
どうせ。
どうせ。
私に真正面から妬みをぶつける人に出会うたび、いつも思うのは。
私を妬む心が持てる、あなたがうらやましい。
私が持たない、感情を持つあなたがうらやましい。
私は誰かを妬むほどに、人に執着できない。
妬ましいほどに、あなたが、うらやましい。
どうせ。
妬んだところで。
すぐにその感情は、手放してしまうんだけど、ね。




