治癒
癒してくれるのは、いつだって抱き締めてくれる、誰か。
※こちらの作品は、ノベリズムさんにて連載中の「誰かのため息は、ずいぶん蒼くて…重いらしい。」でも公開しています。
「さあて、今日はどの子をお手当てしようかな。」
ずいぶん傷だらけになったぬいぐるみを、僕は手に取った。
汚れて、縫い目がたくさんある。
当て布も、色がちぐはぐで、少し派手な感じになっている。
修復しても、あちらこちらから中綿がこぼれて、もはや初めのぬいぐるみの形を、見出せない。
ずいぶんかわいがられてきたぬいぐるみのようだけど、ここまでボロボロになってはねえ…。
「仕方がない、新しい皮をかぶせるか。」
同じ生地、同じ模様、同じ形の新しい皮をきっちりかぶせる。
新品同様のぬいぐるみになった。
ぬいぐるみは、持ち主の女の子のもとへと、元気にかけてゆく。
女の子が、そっとぬいぐるみを抱きしめると。
僕の作った、新しい皮が、ぺろり、ぺろりと剥がれていって。
また元の、みすぼらしいボロボロの物体が現れた。
女の子は、ぼろぼろの物体を愛おしそうに抱きしめると、僕の施した治療の残骸を踏んで、どこかへと、消えた。




