無色
サイダーが大好きです(*´-`)
※こちらの作品は、ノベリズムさんにて連載中の「誰かのため息は、ずいぶん蒼くて…重いらしい。」でも公開しています。
色を持たない私は、誰かから色を分けてもらおうと旅に出ました。
私は、赤い色を持つ人に出会いました。
赤い色を持つ人は、とても熱意のある人で、色を持たない私に燃えるような情熱を分けてくれました。
私は、青い色を持つ人に出会いました。
青い色を持つ人は、とても冷静な人で、色を持たない私に落ち着いた心を分けてくれました。
私は、黄色い色を持つ人に出会いました。
黄色い色を持つ人は、とても眩しい人で、色を持たない私に輝かしい未来を分けてくれました。
私は、いろんな色を持つ人に出会いました。
いろんな色を持つ人は、とても好奇心にあふれた人で、色を持たない私に知識欲を分けてくれました。
私は、色を持たないという人に出会いました。
色を持たないという人は、黒い色を持った人でした。
私も、色を持たない身です。
私は、透き通った、透明な色を持つ、無色。
私は、色を持たないといった人は、黒い色を持っていると思いました。
けれど、黒い色を持っている人は言いました。
「この黒い色は、ほかの色をかき消してしまうから、色を持っているとは言えないのだよ。」
私は少し、悲しくなりました。
自分の色に、誇りを持ってほしいと願いました。
私は、自分の透明な身に、ほんの少し黒い色を分けてもらいました。
私の透明は、一瞬黒く染まったものの、透明に溶けて、また透明になりました。
「あなたの黒は、私の透明をかき消すことは、なかったよ。」
私は黒い人に言いました。
黒い人は、怒りました。
「ほんの少しの黒を盗んだだけで、何を言う。お前は本当の黒を知らない。」
黒い人は、黒を容赦なく私に分け与えました。
私の透明が、黒く塗りつぶされていきました。
私は、黒になりました。
私の目の前には、無色がありました。
無色は、これからいろんな色を手に入れるために、たくさんの色と出会いたいそうです。
私は、自分の黒を大切にしようと誓いました。
私は、赤い色を持つ人にほんの少しの黒を与えて、新しい落ち着いた赤を生み出しました。
落ち着いた赤は、熱意のある、控えめな真心を持ちました。
私は、青い色を持つ人にほんの少しの黒を与えて、新しい落ち着いた青を生み出しました。
落ち着いた青は、深みのある、包容力を持ちました。
私は、黄色い色を持つ人にほんの少しの黒を与えて、新しい落ち着いた黄色を生み出しました。
落ち着いた黄色は、趣きのある、味わい深さを持ちました。
私がいろんな色を持つ人に黒を分けている時、透明になった人は、いろんな色を奪っていました。
赤をよこせ。青をよこせ。黄色をよこせ。色を、よこせ。
色は、すべて、俺のもの。
いろんな色が混じった透明は、濁ってしまいました。
透明は、この世界から、消えてしまったのです。
私は、自分の黒を、濁った人に返そうと思いました。
あの時、黒い色を持っていた人は言いました。
「この黒い色は、ほかの色をかき消してしまうから、色を持っているとは言えないのだよ。」
黒い色がほかの色をかき消してしまうというのであれば。
濁った色を、黒に染めることができるはずだと思ったのです。
私は濁った色に、黒をすべて分け与えました。
濁った色は、黒い色になりました。
私はまた、無色になりました。
黒い色を持つ人は、黒くなったことに、何を思ったのでしょうか。
黒い色を持つ人は、無色になった私を見て、何も言わずに立ち去りました。
私は、いろんな色を少しづつ分けてもらいながら、時折、透明に色を落として楽しんでいます。
染まりきるほどの色はいらないのです。
ほんの少し。
ほんの少しが、ちょうどいい。
いなくなった黒い色を持つ人を心配しながら、今日も私は、いろんな色を分けてもらっています。
いなくなった黒い色を持つ人を、みんな心配しています。
黒を分けてほしいと願う色は、たくさんいるんですよ。
さあ、早く。
帰って、おいで。
私たちは、あなたの帰りを、待っているんですよ。




