勇気
エアコンの温度は、28度でお願いいたします(電気屋より)
人は、いつもと違う事態に、非常に躊躇しがちだ。
例えば。
普段目の前に繰り広げられている光景と、違う何かを見た時。
いつも通りに、踏み込めない。
例えば。
毎日もらっていたメールが、突然とまってしまった時。
いつも通りに、メールが出せない。
例えば。
普段ぼっちで過ごす僕の周りを、人が囲んだ時。
いつも通りに、言葉が出ない。
そんな場面に遭遇した時、発揮せねばならないもの。
それこそが、勇気なのであるが。
勇気を出す、勇気ってのがさあ…。
なんかこう、メンドクサイっていうかさあ…。
もうさ、戦わなくて良くね?みたいなさ…。
無気力な僕に、勇気という言葉は、ほぼ必要ない。
おかしなことにはかかわらない。
おかしなものには近寄らない。
平々凡々、つまらない毎日の中にこそ、穏やかな生活があるってもんだ。
夏休み。
平和に暮らす僕の日常は実に穏やかだ。
朝方までパソコンを嗜み、日の出とともにベッドに入り。
昼少し過ぎたあたりで目を覚まし。
飯を食って近所に散歩に出かけ。
クーラーのスイッチを入れてシャワーを浴び。
涼しい部屋で、割り振った分の宿題に着手し。
腹が減ったら飯を食い。
そのあとどっぷりネットの世界にダイビング、と。
この穏やかな生活の中のどこに、勇気を出す瞬間があるというのか。
「洋平!これご飯置いとくからさ!行ってくるわ!!」
そういえば今日はかーちゃん、出かけるとか言ってたな。
ま、飯があるなら、何とでもなるか。
毎日暑い日が続いているからか、あんまり食欲が、ない。
めんどくせーな、夕方に食うか。
僕はかーちゃんの飯を食わずに、散歩に出かけた。
じわじわじわじわ、ジャワジャワジャワ…
さすがに、八月は暑いな。
だが、それが…いい!!
夏はさ、やっぱ汗かいてなんぼなんだよ。
僕は地味にインドアのくせに、外出することには肯定的なんだ。
ぐるりとウォーキングコースを一周して、家に帰る。
アイスも買っていくか。
コンビニでアイスを買って、食べながら家に帰る。
食べ切ったところで、ちょうど家に着いた。
エアコンのスイッチを付ける。
部屋の中はかなり気温が上がってるからな。
18度設定にしてと。
シャワーを浴びてリビングに来ると、ちょうどいい感じに部屋が冷えていた。
ぐうー。
ああ、腹が減ったな。
テーブルの上には、かーちゃんが用意していってくれた飯が置いてある。
ちょっと少ないな、ご飯とソーセージ入りの野菜炒めか。
…冷蔵庫に納豆あったな。あれも食うか。
冷蔵庫から納豆をワンパック持ってきて、ねりねりしてから、飯の上にかける。
ぐーぐー。
空きっ腹が、僕をせかす。
ワッシャワッシャと、飯をかきこむ。
・・・?
なんだ?なんか、違和感が。
納豆の味が違うような。
ま、いっか。
少々の違和感は、勇気をもって乗り越えたらいいんだって。
食えるもんは食っておくべし!!
僕だってたまには本気の勇気出すんだって!
…などと言っていた時がございました……。
僕は猛烈な腹痛に襲われてっ…!!!
う、ぐぅうううう!!!
腹、腹が痛てぇええええ!!!
僕は、這う這うの体で、トイレに、向かう。
ほんの小さな勇気でさえ、出したらこのざまだ。
たまに出したら、このざまだよ!
僕はもう絶対に! 勇気なんか出さないぞ…!!!
僕はクーラーの利いていない、クッソ暑いトイレの中で、悶えながら、誓った。
それは勇気ではなく、無謀なのですよ(ボソッ




