青
わたしのたんじょうびという、雑誌がございましてね(*´-`)
※こちらの作品は、ノベリズムさんにて連載中の「誰かのため息は、ずいぶん蒼くて…重いらしい。」でも公開しています。
発売日を楽しみにしていた雑誌があった。
おまじないがたくさん載っている、雑誌。
魔法にあこがれた私は、その雑誌に載っている、おまじないにのめり込んでいった。
好きな人が振り向いてくれるおまじない。
勉強が楽しくなるおまじない。
悩み事が解決するおまじない。
毎月おまじないがたくさん載っているのを見て、みんな叶えたい願いがあるんだなあと、思っていた。
私は、かなえたい願いがあるわけでは、なかった。
好きな人も、やりたいこともなく。
勉強も、嫌いではなかった。
おまじないの持つ、不思議な魅力に、はまっていただけだった。
誰かが願いを持ち、それが叶って喜ぶさまを、見たかったのかもしれない。
願いのない私が、できそうなおまじないを探した。
―あなたの空を手に入れよう!―
大きな空を、あなただけのものにしよう!小さな小瓶と、名前の数と同じだけのビーズ、青い絵の具を用意してね!絵の具はほんの少しでいいよ!お水を注いで、ふたをして、よーく振ったら、あなただけの空が、手に入るよ!毎日この空を見て、元気、もらっちゃお!!
毎日見ている、大きな空が、自分のものに。
自分の、ものに。
私は、自分の机の上にある、ビーズの入った小瓶に手を伸ばした。
手芸用に、少しづつ使っていた、ビーズの小瓶。
中身を、使わなくなったペンケースにあける。
手のひらサイズの空の小瓶に、キラキラしている、七粒のビーズを入れた。
机の引き出しを開け、青い絵の具を取り出し、ほんの少し、小瓶の中に垂らす。
キッチンに移動し、そっと水を注ぐ…。
空の色が、小瓶の中に、広がった。
私が作った、私だけの、空。
水色の中に、沈むビーズ。
私の名前と同じ数の、ビーズの粒。
この空の中には、私が、いる。
小さな空が、私の宝物になった。
小さな空を見るたび、心がウキウキする。
かるくふると、
小さな、音がした。
それが、幸せを運んでくれる、音に、聞こえたような気がして。
何日かすぎて、空が、濁ってきた。
もう、おまじないの効果が切れてしまったんだ。
私は新しく、空を作ることにした。
今度は、水色の絵の具で作ってみよう。
水色の絵の具は、水を注ぐまでは確かに水色だったのだけど、水を注ぎきったら、白く濁った。
これは、雲だ。
空では、ない。
でも、せっかく作ったんだから。
私は自分の雲を、机の上に置いた。
雲は、空ほどの感動を与えてはくれなかった。
私はたぶん、空が恋しかった。
雲は、空の装飾であって、私の願うものではないと、気が付いた。
雲が濁る前に、私は雲を、そっと流した。
机の引き出しの中には、もうひとつ、青があった。
藍色。
これも確かに、青。
この藍で空を作ってみたら、どうなるんだろう。
小瓶に、藍色を少し垂らして、水を注ぐ。
これは。
これは、海だ。
深い、深い、海の色。
小瓶を振ると、時折見える、ビーズ。
深い藍色の中に、自分が沈み込むような、不思議な感じがした。
しかし、それは不快な感情ではなくて。
深い海に沈んだ自分が、ほんの少しだけ顔を出すような、小さな、自己満足。
私はここに、ほら、いるんだよという、確認。
自分の海に、自分の居場所を、かさねたようにも、思う。
海は少しだけ、私には大人過ぎた。
ビーズが、隠れすぎてしまうから。
深い藍色の小さな海は、目を凝らさないと、ビーズを確認できない。
それはまるで。
自分を隠して生きてゆきなさいと、言われているような、気がしたから。
海は一度しか、作らなかった。
私は、空の青が、好きだったから。
何度も何度も、自分の空を、作った。
何度も濁り、何度も新しい空を手に入れた。
おまじないは、確かに効いていたのだと、今は思う。
毎日、元気をもらえた。
毎日、自分と向き合う時間ができた。
今でも空を見るたびに、あの日の手の平の、空を思い出す。
手の平にのる、私だけの、青。
独り占めできた、私だけの、空。
独り占めできない、大きな空の下で、小さな空を独り占めしていたあの時を、思い出す。
青い空の下で、あの日の小さな空を、思い出す。
お題、募集します(о´∀`о)ノ
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