幸運
案外、幸運って、あちこちにあるもんです。
こちらの作品は、ノベルアップ+さんにて連載中の「恋のお話を、いくつか」にも掲載しています。
思わぬところで、当たりを引いた。
商店街の、福引コーナー。
まさかの一等当選だ。
へえ、商品券5000円分ね。
さて、何を買おうか。
美味いもん食うかな。
近くの喫茶店に入る。
「この商品券、使えますか。」
「使えますよ。」
僕はランチを食べた。
1000円分が、俺の腹の中に消えた。
腹も膨らんだし、服でも見ようか。
ふうん、アウトレットセールね。
一枚1000円のTシャツか。
「この商品券、使えますか。」
「使えますよ。」
僕はTシャツを買った。
1000円分が、俺の身を包むことになる。
あそこに見えるのは、古本屋か。
うわ!! この本、初版のやつじゃん! マジか!!
一冊3000円?! 買いだ!!
「この商品券、使えますか。」
「すみません、使えないんですよ。」
財布の中にはちょうど3000円。
ああ、給料日まであと三日。
過ごせるか…?
いや、まて! まだ商品券があと3000円分残ってるじゃないか!!
「買います!!!」
現金はすっからかんになったけど、僕のテンションは最高潮だ!
「これ、福引券。良かったらどうぞ。」
初版本見つけただけでもラッキーなのに!
今福引やったら、特等とか出るんじゃないのか。
ハイテンションな僕は、急いで福引所に向かった。
が。
「はい、残念賞のポケットティシュです。」
まあ、そんなにうまいこといくわけないわな。
当たりはしなかったが、僕のテンションはまだまだ高い。
家に帰って、お気に入りだった、長編推理小説の初版本を開く。
この本を読んでいたあの頃。
僕の横には、文学少女だった先輩がいつもいた。
少しはにかみながら、でも力強く、この本の主人公への愛を語るその姿に見とれたものだ。
告白をしたものの、家の都合で引っ越して行ってしまい、そのままだった。
…返事すら、もらえなかった、僕の、恋のトラウマ。
今も僕の連絡先に残る、先輩の電話番号。
かけることのなかった、電話。
切ない思い出に、少しだけ浸って、本をめくる。
……ん?
しおりが、挟んである。
手作りのしおりのようだ。
前の持ち主が、挟んだままにしてたんだな。
しおりのページを、開く。
「第五章:運命」
ああ、僕の好きな章だ。
すべてがひっくり返る、起承転結の、転の部分。
前の持ち主も、この章が好きだったんだなと思い、しおりを手に取る。
…しおりの裏側には。
―私も、あなたが好き―
運命って、あるだろうか?
運命という言葉に、縋ってみても、いいだろうか。
運命というものがあるならば。
5年。
5年の月日が、何かを変えているかもしれない。
5年の月日に、何かを期待したいと願う自分がいる。
5年の月日を、何とか今の自分に、繋ぎたい。
今日。
僕は幸運に恵まれていたじゃないか。
大丈夫。
深呼吸をして、僕は電話を、かけた。
僕は3000円分の商品券を握りしめて。
5年ぶりに先輩に会うため、喫茶店へ向かうことに、なった。




