表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/135

散歩

私、道に迷いがち。

散歩に出かけましょうか。


今日はどこに、行きますか?



あの道、この道、どんな道?


この道は、どこにつながって、いるのでしょうか?




ああ、この道は。


あの日通った、おせんべい屋さんへ続く道。


柿渋の塗られた、古い民家横を歩いていくと、突き当りに見える、小さなおせんべい屋さん。

パカラン、パカランと、網の上で一枚一枚、ひっくり返って。


香ばしく焼けてゆく、おせんべいのにおい。

時折香るのは、おせんべいからこぼれ落ちた、欠片が焦げる、におい。


…盆栽がたくさん入り口に置いてある。

この盆栽たちは、この香りの中、育ってきたのだな。

大切に育てられた、盆栽たちの雄姿を見ながら、散歩を続ける。





今度は、この道を行ってみましょう。


ああ、この道は。


あの日通った、神社に続く道。


竹林の密集した様子が、少し怖い。

枯れた竹と、青い竹の絡まり合う様子が、無遠慮に目の前に広がっている。

子供たちが恐れることなく、その中に身を隠し、かくれんぼうをしている。


ケガの無いように。

そう願う私は、ここで少女が指を切ることを、知っている。


大丈夫。神社の中に、やさしいお姉さんがいて、助けてくれるからね。

神社に続く道ではあるけれど、神社に行かずに、私は道を外れた。





今度はこの道を行ってみましょう。


ああ、この道は。


あの日迷った、都会の道。


初めて踏んだ、都会の地。

どこか薄汚れた、冷たいアスファルトの道。


通りかかる人は皆、どこか虚ろな眼差しで。

通りかかる人は皆、どこか冷たい雰囲気で。


どこに行ったらいいのかわからず、立ち尽くしたあの道。


私のすぐ目の前で、少女が一人、立ち尽くしている。


「何か、お困りですか。」


思わず声を、かけた。


少女は、泣きそうな顔で、行き先を告げた。

大丈夫。この乗り換えは、難しいけれど。

私が一緒についていくから。


中央線の横を通り抜け、見つけにくい地下鉄沿線への道を共に行く。

ここは、本当に分かりにくいところに、あるのよねえ…。


無事地下鉄の駅に着いた少女は、大喜びで、私にお礼を言って、改札口へと、消えた。


私はこの少女が、無事大学について、合格することを、知っている。




毎日出かける散歩道。


毎日歩いて、ふと気が付いた。

初めて通った道なのに、なぜか懐かしい、あの感じ。


それはきっと。


散歩に来た自分が、共に歩いているからなんだ。


散歩道は、時折未来の記憶に重なる。

散歩道は、時折過去の記憶に重なる。



今わたしは、この道を散歩しているけれど。

いつか記憶が、重なることもあると思うの。



毎日歩く散歩道。

毎日違う、風景があって。



いつの日か、この道を。


思い出す日も、来るのでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 17/17 >パカラン、パカランと、網の上で一枚一枚、ひっくり返って。 ↑溢れるリアリティ [気になる点] プチ・アカシックレコード感。常人にはこのくらいが丁度いいですねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ