ひつじの群れ
何匹数えたところで。
どうにも、こうにも、眠れない。
明日は、五時起きだというのに。
いま、23:00ちょうど。
まずい。
今すぐ寝ないと、仕事がきつくなる。
寝よう。
眠れ。
寝るんだ。
眠れない。
……。
そうだ。
ヒツジを、数えてみよう。
眠れない時は、ヒツジを数えるものだ。
ヒツジが一匹、ヒツジが、二匹。
俺はあまり想像力が豊かでないから。
ヒツジが三匹、ヒツジが、四匹。
目を閉じた俺の脳裏には、ヒツジはいない。
ヒツジが五匹、ヒツジが、六匹。
目の前は真っ暗だ。
ヒツジが七匹、ヒツジが八匹。
真っ白なヒツジを思い浮かべなければならないというのに。
ヒツジが十匹、ヒツジが、十一匹。
頭の中に、羊の群れが見当たらない。
ヒツジが十二匹、ヒツジが、十三匹。
いないヒツジを読みあげるだけ。
ヒツジが十四匹、ヒツジが、十五匹。
いないものを数えるなんて。
ヒツジが十六匹、ヒツジが、十七匹。
意味あんのかな。
ヒツジが十八匹、ヒツジが、十九匹。
意味ねえな。
めんどくせえ。
もういいや。
俺はスマホを手に取って。
読みかけのネット小説を、読み始めた。
気が付いたら、外が明るい。
ああ、今、夜明けって、早いのな。
カーテンを開けて、ぼんやり外を、眺めてみる。
雲が、朝日を浴びて、もこもこと空に浮いている。
俺はベッドに転がったまま、空に浮かぶ、ヒツジを眺めた。
ヒツジが一匹、ヒツジが、二匹。
ヒツジ雲かな。
ヒツジが三匹、ヒツジが、四匹。
うろこ雲かも。
ヒツジが五匹、ヒツジが、六匹。
わた雲もあるかな。
ヒツジが七匹、ヒツジが八匹。
今日は晴れそうだ。
ヒツジが十匹、ヒツジが、十一匹。
羊の群れかあ。
ヒツジが、十二匹、ヒツジが、十三匹。
のんびり、してそうだよなあ…
ヒツジが十四匹、ヒツジが…
いいよなあ・・・。
・・・。
・・・。
・・・?
・・・!!!
今、何時だ?!
慌ててスマホを手に取るが、昨日小説を読みすぎたためか、充電が…ゼロ!!
しまった!!充電器にセットするのを忘れてた!!!
という事は!!!
アラーム!!!
アラームもならなかったってことなんじゃ?!
サーっと体温が、下がってきた。
ヤバイ。
ヤバイ。
とにかく、まずは、充電だ。
テレビ、テレビを、つけるぞ、つけないと!!
ぶぃん
……ごくり。
ゆっくり、テレビの、画面に映る、時刻を、見る。
ぎょーーーーえーーーーー!!!!
9:36だとおおおおおおおおお?!
もう、ダメだ。
詰んだ。
会社に連絡を入れようにも、充電ができていない。
一人暮らしの俺は、スマホしか電話をかける手段がない。
そもそも、スマホの中にしか、連絡先が入ってない。
「ま、仕方なかんべ。」
開き直った俺は、コーヒーを入れて、充電を待つことにした。
窓の外は、雲一つない、青空。
今朝がた数えた、空に浮かぶ羊たちは、すでに皆、出勤したようだ。
「まったく勤勉な奴らだよ。」
社会人としての自覚が欠落した俺は、真っ青な空を見上げて、悪態をついた。




