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反映ーreflectionー  作者: たかさば


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129/135

便乗

ああ、まずい、遅刻しちゃいそう。

先を急ぐ私の目に、男性の姿が映った。


道の真ん中を、ふらふら歩いている。

危ないなあ、もっと端っこに寄ってくれないと、轢いちゃいそう。


そんなことを、思っていると。


・・・ばた。


男性が、倒れ込むのが、見えた。


大変だ。

…助けないと。


私は男性の横に車を着けて、あわてて…駆け寄った。


「だいじょうぶですか。」

「ああ…すみません。」


手を貸すと、男性は目を合わせることなく、下を向いた。


…とても疲れているようだ。


「あの、よかったら乗って行きませんか。」

「いえ…けっこうです、ありがとう。」


ふらふらと歩きだした男性が心配ではあったが、私は車を発進させた。



再び先を急ぐ私の目に、男性の姿が映った。


やけに堂々と闊歩している。

…元気いいなあ。


そんなことを、思っていると。


・・・ぶん、ぶん!!


男性が、手を振るのが、見えた。


なんだ?

…なんかあったのかな。


私は男性の横に車を着けて、あわてて…駆け寄った。


「どうかしたんですか。」

「この先に行くんでしょ!のせてってよ!!」


男性は目も合わさずに、私の車に乗り込んだ。

…図々しいな。


「勝手に乗らないでくださいよ。」

「いいじゃん!!どうせ目的地は一緒でしょ!便乗させてよ!」


後部座席で寛ぎ始めた男性に苛立ったが、私は車を発進させた。



先を急ぐ私の目に、女性の姿が映った。


ものすごいフォームで全力疾走している、急いでいるようだ…。

すごいなあ、陸上の選手かなんかなんだろうか。


そんなことを、思っていると。


・・・ばた。


女性が、倒れ込むのが、見えた。


大変だ。

…助けないと。


私は女性の横に車を着けて、あわてて…駆け寄った。


「だいじょうぶですか。」

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・。」


手を貸すと、女性は目を合わせた瞬間、へっぴり腰で再び駆け出した。


…なんだ、元気、あるじゃないの。


「あのねーちゃんも乗ってけば良かったのに。」

「ね。」


私は車を発進させた。


車はすぐに目的地に到着した。


「おお、早かったな、ありがとさん!」


男性は礼を一言いうと、ドアを開け、車から降り・・・目の前にある、温泉に向かって、へこへこと歩いて行った。



今日も温泉は大繁盛だ。

一刻も早く温泉に浸かりたいと、たくさんの人たちが並んでいる。


私は並ぶ人たちの横を通り抜け、裏口へと、向かう。


「あ、おはようございます!遅かったですね。」

「うん、途中でちょっと、ね。」


制服に着替える私に、同僚が声をかける。


「…?なんか、人間臭くないですか?」

「うん、さっき車に乗せたから。」


…しまったなあ、窓開けて乗ればよかった。


「どうしよう、洗ってきた方がいいかな…?」

「大丈夫でしょ、どうせすぐに汚れるし。」


…この、温泉は。

人だったものが、命を終えて、その身を清めることができる、温泉。


人が、人に見切りをつけて別のものに生まれ変わりたいと願うとき、この温泉のチケットを手渡される。


―――次に生まれるときは、猫になりたい。

―――次は鳥になって、大空を自由に飛び回りたい。

―――次は大自然の中で、命の営みを堪能したい。


人に生まれ、人に絶望し、人でないものになりたいと願うものは…多い。


だが。


人は大変に・・・、魂が、染まってしまっているのだ。

人が、人ではないものになろうとするとき、人であった澱が、邪魔になる。


澱を落とすために、人は皆、汗をかき、力を振り絞り、気力を使い果たして…この温泉を、目指す。


途中で、全ての力を使い果たし、倒れる者も珍しく、ない。

すっからかんになってしまった魂を拾ってくるのも、私の仕事なのだ。


中身のなくなってしまった魂は、温泉を沸かすための、いい燃料に、なる。


ごっしごっし、ごっし、ごっし!!!


洗い場に行くと、さっき車に乗せた男性が、見習いスタッフにデッキブラシで洗われているのが、見えた。

…ずいぶん人間が残ってたからなあ、アレはちょっとやそっと洗った位じゃ汚れは落とせないな。


澱を落とせなかった人は、この温泉でスタッフにピカピカに磨き上げられる。

人であった時の愚かな思い込み、つまらない見栄、面倒な感情…すべて落とさなければ、人以外の生物には、なれない。


純粋な生き物に、人の名残は、もちこんではならないのだ。


見る見るうちに小さくなっていく、男性。


「あーあ、あの人なんでこっち来たんですかね。あれじゃ虫にしかなれないですよ。」

「虫も無理そうだね、ああ、あれ病原体にでもなるんじゃない?」


…せめて、ここまでの道のりを歩いていたらねえ。

多少は澱も落とせて、ゴキブリくらいには、なれたものを。


「あの人、私の車に乗り込んできたんだよ。」

「ええー!!何してんの、そんなことするからこんなことに!!馬鹿だねえ…実にバカだ…。」


しまったなあ、あんなにちっちゃくなっちゃうんだったら、初めからとっ捕まえてあのまま燃やせばよかったかも?

きっとよく燃えたに違いない。

でもなあ、あの汚れっぷりは・・・いい売り物になるし、どっちもどっちか…。


ここの排水は、地獄ではかなり重宝されている。


裏の山の向こうにある血の池地獄では、恨みやら妬みやらどす黒い感情と実に良い感じに混ざり合い、常にドロンドロンに沸き立つことで知られているし。

負の感情牧場でひしめき合ってる魂たちのエサとしても優秀で、しょっちゅう飼育員がポリタンクを持ってやってくるし。

水責めの時にもじゃぶじゃぶ使われているし。

わりと需要が多くてね…。


「バカゆえにいいものもゲットできたの!ねね、おやついる?さっきのおっさんから拝借したやつ。」

「ええー!イイんですかー!!頂きまーす!」


私は男性を乗せた時に、ちゃっかり乗車賃をいただいておいたのだ。


目的地が同じだからと言って無理やり乗り込んだ、その無神経さ。

隙あらば車を奪い取ろうとする、強欲。


道を歩いていたならば、落とすことができたはずの代物。

道の上で落としたならば、踏みしめられてかたまる事しかできなかったはずの代物。


・・・頂くことで、小腹くらいはね、満たせるっていうか。


「ポリポリ…うん、わりとねっとりしてるね。」

「もうちょっととがってないと、つまんない…パリ、パリ…。」


うーん、こういうの、人間界では、駄菓子って、言うんだっけ?


「すみませーん!湯上がり案内お願いしまーす!」

「はーい!!」


ああ、ずいぶんきれいに磨かれた魂が…二つ。


これはすれ違った、二人かな?


鳥になりたい魂と、イルカになりたい魂か。


二人とも頑張っていたもんねえ…。


「ええとー、この人はひよこで、この人は…ハゼかなー、はーい、こっちきてねー!」

「・・・。」

「・・・。」


希望する種族になれて、良かったね。


()()()に来る魂は、なかなか希望したとおりに生まれる事ってできないからさ、誇っていいと思うよ!


楽しく命を全うしてきてね!!


私は晴れ晴れしい気持ちで、二つの魂をボックスの中にいれ。



ぶしゅ!!



ボタンを押して。



見届けもせずに…自分の持ち場に、戻った

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― 新着の感想 ―
[良い点] 129/130 ・地獄の発想ですよ。さすが負の感情マスター。 [気になる点] 澱、でん? あか、かな? [一言] マッチョの心筋に転生してやる。
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