こころ
私は心を無くしました。
こころのない私は、ただの人。
毎日命をつなぐだけの、ただの人。
毎日同じことを繰り返しても何も思わないただの人。
毎日違う事をしても何も思わないただの人。
こころ、こころ。
私が持っていたはずの心。
想う気持ち。
思う気持ち。
愛おしい気持ち。
求める気持ち。
向ける気持ち。
私の気持ちは、私の心だったのでしょうか。
こころ、こころ。
あの人の言葉。
あの人の視線。
あの人の動き。
あの人の拒絶。
あの人に心があったから、私は心を無くしたのです。
あの人に心があったから、私を否定したのです。
あの人は心を無くさず、笑っています。
あの人は心を無くさず、怒っています。
あの人は心を無くさず、私をただ追及します。
私には心がありません。
私は心を無くしてしまったのです。
感情を無くしてしまったのは、心を無くしてしまったからでしょうか。
意志を無くしてしまったのは、心を無くしてしまったからでしょうか。
私は今、生きているのでしょうか。
私はわたしを生きているのでしょうか。
あの人の思うままに生きている私は、わたしではないと思うのです。
あの人の思うままに生きている私は、あの人だと思うのです。
あの人が生きたかった人生を、私が生きているのです。
あの人が思い描いた人生を、私が生きているのです。
あの人は、私を否定したのです。
あの人は、私の心を否定したのです。
あの人が私の心を握りつぶしたのです。
あの人は、私の心になろうとしたのです。
あの人は、私の心になることができると思っていたのです。
あの人は、私の心を握りつぶして、私の心になりました。
私は、私の心を、失くしてしまいました。
私の心は、私が生きていくうえで不要なものだと言われた時に消えました。
私の心は、あの人の思い描く人生に不要なものだと知りました。
私の心は、あの人がいる限りどこにも存在できないと知りました。
私は心を無くしました。
私はあの人がいなくなった今も、心を無くしたままです。
あの人に握りつぶされた心は、あの人が消えても戻っては来ませんでした。
私の心は、もう私には戻ってこないのです。
何が起きても、何一つ揺り動かされる感情は得られないのです。
私がなくした心は、今頃どうしているでしょうか。
一人ぼっちで悲しんでいるでしょうか。
一人ぼっちで寂しがっているでしょうか。
一人ぼっちで楽しんでいるでしょうか。
私には心がないのです。
こころのない私は、何も考えることができません。
ただただ時間を過ごすために、いろんなことを考えて過ごしています。
ただただいろんなことを考えて、過ごしています。
考えたことは、ただの結果なのです。
こころがないので、何も残らないのです。
こころがないので、何も生まれないのです。
失くした心は戻りません。
こころを無くしたまま、私は人生を終えるのです。
こころを無くした私が人生を終えた時、心は戻るのでしょうか。
こころを無くした私は、人として生まれることができるのでしょうか。
こころを握りつぶしたあの人は、今頃二つ分の心を持って生まれているのでしょうか。
こころを持って生まれた方がいいのでしょうか。
こころは人に必要でしょうか。
こころは必要ですか。
こころは必要ですか。
こころは本当に必要ですか。
こころを無くした私は、毎日普通に生きています。
こころがなくても生きています。
こころを無くして生きる私は、心を無くしていないあなたから見て、滑稽ですか。
こころを無くした私を、心のあるあなたは笑いますか。
こころを無くした私を、心のあるあなたはどう見ますか。
私は心がありません。
あなたにはある心が、私にはありません。
こころのあるあなたは、心を持ったまま、あなたの人生を生きると私は考えています。
こころを持つあなたは、心を握りつぶされたら、私のように生きることができるでしょうか。
こころのない私には、それがわからないのです。
心がつぶれそうだと叫ぶあなたの気持ちがわからないのです。
心がつぶれそうだというあなたは、心を持っているのです。
心を無くした私が、毎日生きていることを、知っておいて欲しいのです。
私には心がありません。
私に心が無いから、私はわたしの人生を生きてゆくことができるのです。
私に心が無いから、私は心を無くしてしまったわたしの人生を生きてゆくことができるのです。
