意味
意味を追及すると深みにハマる場合がございます。
まったくもって意味が分からない。
いきなり、僕のこめかみ辺りから、おかしな角が生えてきた。
「なんだこれは。悪魔みたいじゃないか。」
鏡を見ながら、僕はぼやいた。このまま出勤したら目立っちゃうじゃないか。
「ああ、悪魔の証生えてきましたね、もうじきあなた魔王になりますよ。」
鏡の向こう側から声がする。
「僕は、魔王にはなれないな。」
「その角が生えたことに意味があるんですよ、魔王さん。」
右こめかみの、おかしな角、これが魔王の印だとでもいうのか。
「魔王って呼ばないでよ。」
「いえいえ、その角、そのあふれる力。魔王です、決定です。」
鏡の向こう側から赤い鬼が出てきたぞ。不法侵入だ、けしからん。
「力なんかあふれてないよ…。」
僕は歯ブラシを立てているアクリルキューブを握りしめ…。
ぱんっ!!
・・・。粉砕したぞ。マジか。
「ほら!!その力!!魔王様のご誕生だ!!万歳!!」
「マジか!!万歳!!」
「「おおお!!!」」
鏡から小さな鬼どもがわんさかと!!!
「おい、ここは定員僕一名の洗面所だ、即刻出て行け。」
「「「「まあまあ!魔王ともあろうお方が何を細かい!」」」」
あかん…これは厄介な案件になるぞ。
僕はこめかみの角を握りしめ、力を込めた。
ぽきん!!
こめかみの角が、根元から折れた。ちょっと痛いけど、まあ我慢できないことはない。そしてその折れた角を、赤い鬼の額にくっつけた。
ぐん、ぐん、ぐん・・・
赤い鬼はみるみる大きくなって、僕と同じくらいの大きさになった。…地味にイケメンじゃないか。
「じゃ、お前が魔王という事で。」
僕はイケメンの肩をポンと叩いて、歯ブラシに歯磨き粉を絞り出して口にくわえた。
「ちょ!!あんたに角の生えてきた意味!!」
「ふぉんなものふぁ、なひ。」
しゃっこしゃっこ・・・ぶっくぶっく・・・。
「「「おいおいどうすんだ。」」」
「俺が魔王?!勘弁してくれよ!!」
なんだ、結局みんな魔王なんてやなポジションなんじゃん…。
ぶくぶくぶく。
「「「おまえがやるしかない。」」」
べえー。
「結局誰がやってもおんなじなんだって。まあがんばれ。」
僕はふかふかのタオルで口元を拭きながら呆然とするイケメンを慰めた。
「魔王の角は自ら生える場所を選んでですね?!」
「魔王の角が生えた僕がお前を選んだんだ、堂々胸を張っていたらいいじゃないか。」
「魔王の角があなたを選んだ意味は!!」
「だからそんなんただのランダムだって。」
僕は髪を整えて、鏡の前でにっこり笑う。よし、今日もごく普通だ。…それにしても小鬼どもが邪魔だな。
「はい、選ばれた人…いや鬼は早々にあっちに行って!小さい皆さんも早々にお引き取り下さい!」
僕は狭い洗面所で、イケメンと小鬼どもを無理やり鏡の向こうに押し返した。
「アアっ!!殺生な―!!」
「「「魔王様、行きますよ!!」」」
よし、邪魔者は消えたな。じゃあ、僕も早々に出勤するか。
…おや。
大きな鏡に背を向けた時、僕のおしりに見えたもの。
…しまった、しっぽを隠すのを忘れていたよ。
もう一度全身チェック…。翼も牙もしっぽも爪も…OK。
さ、今日もピチピチの魂を刈って…美食三昧と洒落込みますかね。
「行ってきます。」
僕は部屋の鍵をしっかりとかけて、ごく普通に、会社へと出勤していった。




