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反映ーreflectionー  作者: たかさば


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一文字書くのって実はかなり難しいんです。


こちらの作品は、エブリスタさんにて連載中のショートショート集「引き出しの多い箪笥は、やけに軋みがちである」にも掲載しています。



こちらの作品は、カクヨムさんにて連載中の「オカルトレベル(低)の物語をどうぞ。」にも掲載しています。

「はい、それでは今から、心という字を書いてみましょう。」


今回の書道教室の参加者は6名。

若い男子に、年頃の女性、中年男女に初老男性、あとは…黒い人。


「筆の使い方がわからない人はいますか?いたら手をあげてね?…はい、伺います。」


黒い人が手をあげている。

講師は、黒い人のもとへ。


「書は、あなたたちの化身です。心という文字に、あなたの心を込めて。書けたら、手をあげてくださいね。」


講師は黒い人のそばについて、筆の持ち方を指導している。


「書けました。」

「伺います。」


中年男性が手をあげている。講師は、黒い人の横を離れ、中年男性のもとへ。


「拝見しますね。」


中年男性は、自分の書いた文字を見つめている。

講師が中年男性の書いた文字を評する。


「ずいぶん丁寧な筆運びですね、随所に心配りがあり…少々形にアンバランスなところがありますがよい文字です。少し墨が少なかったようですね、かすれているのが気になりました。次に書くものは、もう少し墨を多めにすると宜しいと思いますよ。」


中年男性は照れて自分の書を見ている。

…そこに、初老の男性が顔を出した。


「けっ!おかしな文字だな!墨の量もわかんねえのに筆なんか持つなよ!へたくそ!」


「自分の席に戻ってください。」

「俺はもう書いたんだ、ほかのやつの書が見たい。見ちゃいけないなんて聞いてねえぞ!」


初老男性は、講師の言葉を聞き入れない。


「書けました。」

「伺います。」


年頃の女性が手をあげている。

講師は、中年男性の横を離れ、年頃の女性のもとへ。


「拝見しますね。」


年頃の女性は、自分の書いた文字を見つめている。

講師が年頃の女性の書いた文字を評する。


「とてもやさしい筆運びですね、曲線の伸びが素晴らしい。点の打ち方に空間を美しく見せようとする心意気を感じます。ずいぶん線が細いのが少々気になりますね、次に書く時は、思い切って…もう少し力を入れてみてはいかがでしょうか。」


年頃の女性は照れて自分の書を見ている。

…そこに、初老の男性が顔を出した。


「けっ!ひょろっこい文字だな!筆の使い方もわかんねえのに筆なんか持つなよ!へたくそ!」


「自分の席に戻ってください。」

「俺はもう書いたんだ、ほかのやつの書が見たい。見ちゃいけないなんて聞いてねえぞ!」


初老男性は、講師の言葉を聞き入れない。


「書けました。」

「伺います。」


中年女性が手をあげている。

講師は、年頃の女性の横を離れ、中年女性のもとへ。


「拝見しますね。」


中年女性は、自分の書いた文字を見つめている。

講師が中年女性の書いた文字を評する。


「これは美しい文字ですね、筆の先端を生かしつつ、筆の持つやわらかさを存分に使いこなして強弱のある墨運びがなされている。少々大げさで勢い付いているきらいがありますね、次に書く時はもう少し一筆一筆を大切に書いてみてはいかがでしょうか。」


中年女性は照れて自分の書を見ている。

…そこに、初老の男性が顔を出した。


「けっ!派手過ぎる文字だな!文字の基本がなってねえな、読みやすい文字書けよ!へたくそ!」


「自分の席に戻ってください。」

「俺はもう書いたんだ、ほかのやつの書が見たい。見ちゃいけないなんて聞いてねえぞ!」


初老男性は、講師の言葉を聞き入れない。


「書けました。」

「伺います。」


若い男性が手をあげている。

講師は、中年女性の横を離れ、若い男性のもとへ。


「拝見しますね。」


若い男性は、自分の書いた文字を見つめている。

講師が若い男性の書いた文字を評する。


「ああ、とても整った文字ですね、お上手です。バランスもいいし筆運びも几帳面で…ただ、いかんせん文字の大きさが小さいですね。次に書く時は、もっと大胆に、紙という世界を存分に使って書くと宜しいと思います。」


若い男性は照れて自分の書を見ている。

…そこに、初老の男性が顔を出した。


「けっ!ちっせえ文字だな!こんな紙のもったいない書き方しやがって!へたくそ!」


「自分の席に戻ってください。」

「俺はもう書いたんだ、ほかのやつの書が見たい。見ちゃいけないなんて聞いてねえぞ!」


初老男性は、講師の言葉を聞き入れない。


「書けました。」

「伺います。」


黒い人が手をあげている。

講師は、若い男性の横を離れ、黒い人のもとへ。


「拝見しますね。」


黒い人は、自分の書いた文字を見つめている。

講師が黒い人の書いた文字を評する。


「初めての書ですね?たどたどしさの中に、きちんと書き上げなければという強い意志を感じます。形は少々不格好ですが、ちゃんと文字になっているから安心してください、あなたはきっと次に書く時には、必ず満足のいく文字が書けるようになっていると思いますよ。」


黒い人は照れて自分の書を見ている。

…そこに、初老の男性が顔を出した。


「けっ!ただのへたくそな文字じゃねえか!こんなんで満足するとは単純でいいねえ!」


「自分の席に戻ってください。」

「俺はもう書いたんだ、皆へたくそばかりだったな!!俺が一番うまいじゃないか!見ろよ、俺の書を!!そして全員で俺を褒め称えろ!!」


初老男性は、講師に自分の書いた書を見せつけた。


「かなり強引な筆運びですね。文字はこうあるべきという信念が現れています。少々の間違いは気にしない…この文字は心ではなく必になっていますね。テーマは心なので、それを守らないのはよろしくない、…バランスはいいですが汚れが多いのと、紙からはみ出しているのが気になり・・・「うっせえ!!」」


初老男性は、講師の言葉をさえぎった。


「…おい、何クソみてえな感想言ってんだ?俺はな、褒め称えろって言ってんだよ!!」

「ここは、書を評する場所ですよ。」


初老男性は、講師につかみかかった。


「所詮あんたが評してるだけじゃないか。あんたなんかに俺のすべてを否定してほしくないね。偉そうに。俺の魅力もわからないやつが書を評する?ばかげた話だ。」

「書に、あなたのすべてがあらわされるんですよ。」


初老男性の書いた書が、床に落ちた。


「クソみてえな文字を褒め称えて俺の書をコケにするなんざ、わかっちゃないねえ!…交代だ!!こんなクソ講師は今すぐに消えろ!!おい!!お前!こっち来い!!」


私は、床に落ちた初老男性の書を拾った。


「こちら、どうしますか。」

「まずはこいつを早くどこかにやってくれ!!胸糞悪い!!俺の書は返してもらおうかな!芸術の分からんやつにさわらせるわけにはいかんからな、ははは!!!」


私は、初老男性に書を手渡した。


「素晴らしい作品を、お返ししますね。」

「はいよ。」


初老男性は、書を受け取るとスゥと消えた。


「お騒がせしましたね、皆さんの書は確かにいただきましたよ。皆さんの心、確かに受け取りました。」


講師はすべての書を集め、胸に抱えている。


私は、光り輝く玉を五つ取り出した。

若い男性、年頃の女性、中年男女、黒い人にひとつづつ手渡す。


「あなたたちに命を差し上げますね。皆さんなら、きっと良い人生を歩むことができると私は信じています。」

「心を無くしてしまったときには、ここを訪れてください。一枚だけなら…お返しすることができますのでね。」


黒い人が、手をあげている。


「はい、どうしましたか。」

「・・・あの、きえたひとは。ぼくもきえますか。こわい。」


黒い人は光輝く玉を持ったまま、震えている。


「あの人は命がないのに、心を返されてしまったので消滅しました。…あなたは、初めて命をもらう魂ですね?心配になるのは、当然です、怖いものを見せてしまってすみませんでした。」


黒い人以外、全員が心配そうな顔をしている。…みんな優しい魂の様だ。


「あなた方魂は…命を終えた後、心の成長を見せるために、ここに来ます。」

「私たちは、その心を見て、受け取り、命を渡すという役目を持っています。」


ここは、生まれ変わるための、最終確認の場。


「あの消えた人は、心に問題が多かったので、命を渡せないと思っていたのです。…ほかの命を、破滅に追い込みかねない。」

「自らの心だというのに返ってきた衝撃で魂自体が消滅してしまったんですよ。…よほど攻撃性のある、破滅を願う心だったんでしょうね。」


このところの、不出来な心の持ち主の暴走がずいぶん問題視されている。


「あなた方の心はちゃんと受け取りましたから。」

「あとは安心して、生まれたらよろしいですよ。」


黒い人はほっとしているようだ。


「お疲れ様でしたー!光る玉をもらった方は、私についてきて下さーい!」


教室の入り口に、出生課の係がやってきた。


「「皆さん、良い人生を。」」


今回の参加者は、一名を除いてすべて無事に生まれることになった。


「いやあ、ちょっと修羅場でしたね。」

「まさに現代日本って感じだったね。」


講師は受け取った心の文字の書かれた書をファイルに挟んでいる。


「まあ、無事消えてくれてよかったですよ。」

「ゴネられて玉を奪われても困るからなあ…。」


このところ…先の初老男性のような人間が増えて、心を失くしてしまう魂が続出しており、提出してもらった心を返すパターンが頻発している。

いつ心を渡してほしいと願うものが来ても焦らないように、すぐ対応できるようにしているくらいなのだ。


「さ、それじゃ次のグループ、呼びますかね。」

「次は荒れないといいけどねえ。」


講師が書道セットを机にセットし始めた。


「では、皆さんお入りください。」


私は次のグループを、教室内に招き入れ…。


「おいおい!なんで俺がこんなとこで文字書かなきゃなんねえんだ?!」

「ちょっとー!このおっさんめっちゃうるさいんですけどー!」

「黙れよ!!」


ずいぶん、難しそうな団体だ…。


私と講師は、憂鬱な顔を、見合わせたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 106/106 ・あぁー、これは大変なお仕事ですね。 [気になる点] ギャル?が気になる。 [一言] やっぱり現実にいそうでこわい
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