コピー
コピー機に忘れ物したこと有りすぎるのは私です。
こちらの作品は、カクヨムさんにて連載中の「オカルトレベル(低)の物語をどうぞ。」にも掲載しています。
目の前には、ずらりと広げられた。コピーの、山。
「やあやあ、お疲れさまでしたね、今回はまあまあ長かったね。」
「うーん、やっぱりキモはあのメールだったみたいです。」
ここはいわゆる、天国。
無事に人生を終えた人が、その軌跡をふり返って、確認する作業の真っ最中。
人生には、実にたくさん、岐路がある。
右に行くのか左に行くのか。
普通に生きてる分には、基本道筋は一本なんだけど、時折、人生の行き先を変えてしまうような道が発生するんだ。
それを、僕の人生担当者は上から見ていて、それまでの人生を、コピーする。
分かれ道ができる度に、そこまでの人生をコピーしてたり、するんだな。
…だからさ、分岐点が多い人ほどこの作業は難航してだね!!
「次はどこ攻めようか。ええと、この山はメールを無視した道ね。こっちは知人の言葉に影響されない道…どうする、小学生辺りも潰していかないと厳しいかも。」
人生を完遂した後、ここにきて、選ばなかった方の人生を選んで…また人生を終える。
僕という人生を、隅から隅まできっちりと堪能し続けるようナビゲーターとなってくれるのが、目の前の担当者。
「どこでこの太い道につながってるかわかんないですもんね。…一回小学生のやつ行ってみて、つながる道を模索してみようかな。でも破滅パターン潰しも気になるな、どうしよう。」
「多分ね、破滅は全部この…孤独死ミイラにつながってると思うんだよ。あと二回かな、それで潰せるはず。でも私はどっちかっていうと、左上のひらけた空間が気になってて。多分ここに、大成功の道が伸びてるはずなんだ。」
僕の担当者は、一回り大きな紙を出して、まだ何も道筋のない空白の部分を指し示す。担当者も大変なんだよね。僕がこの人生を途中で放り出してしまわないよう、言葉を選んで励まして。…やる気を持たせて、すべての道筋を埋めなきゃいけないから。
「そうですね…じゃあ、このところ青年後期ばかり行ってたけど…久しぶりに少年期に行ってみます。」
大きな、多数枝分かれした木のような模様。先端に赤い印が付いているものは完了した道。数えきれない赤い印だけど、枝の先がない部分は、かなりある。担当者の指示した部分は、人生の縮図の左上部分。確かに、ずいぶん空間があって…まだまだしばらく、この人生から卒業できそうにないな。こんなんじゃいつ美少女に生まれ変われることか。
「わかった、じゃ、このコピー持って巻き戻り課へ行ってね。私はちょっと完了したところをまとめておくので。ちょっと縮図が大きくなっちゃったからね。次に来る時までに枝切りしとくんで。じゃあ、いい人生を!成功の道、見つかるといいね!!」
「ええ、たのしんできます。」
かくして、僕はコピーを持って、巻き戻り課へ行き、人生をやり直すことに、なったのだが。
ドガシャアアアアアア―――――ン!!…ぶちゅ。
「わあ!!何、もう終わっちゃったの?!」
「右行ったら、トラックが突進してきて…。危うく異世界に飛ばされるところでしたよ…。」
「まだ机の上も片付いてないのに!!まあいいや、もう一回、作戦会議だ!!…うわぁ!!」
慌てた担当者の手から、大量のコピーがこぼれ落ちた。僕も一緒になって、コピーを拾い集める。
ああー、廊下を行くほかの天使の皆さんも拾うのを手伝ってくれてる。なんかすみません…。
…なかなか、前途は多難な、様子に。
僕はちょっとだけ、ため息をついた。




