ささやき
世の中におせっかいがあふれますと。
こちらの作品は、エブリスタさんにて連載中のショートショート集「引き出しの多い箪笥は、やけに軋みがちである」にも掲載しています。
こちらの作品は、カクヨムさんにて連載中の「オカルトレベル(低)の物語をどうぞ。」にも掲載しています。
午後のお茶の、ひと時。
今日のお茶は緑茶にしようかな。
ぱかっと、茶筒を開けると…ずいぶん、香りが落ちている。
―――いいじゃん、煎っちゃえよ。
そっか、ほうじ茶にしよ。
…キッチンで茶葉を焙煎し始めると、香ばしい薫りが漂いはじめた。
少し時間に追われ始めた、まだ明るい時間帯。
渡ろうとしたら、点滅し始めた信号。
この信号、待ち時間長いんだよね…もう赤に変わるけどどうしよう。
―――いいじゃん、行っちゃえよ。
そうだな、走ればいいか。
…赤に変わった歩行者信号を走る私に、失礼な暴走車がクラクションを鳴らした。
ずいぶん混みあう、夕方の忙しい時間帯のスーパーのレジ。
レジ係がもたもたしていて、いらいらする。
こんなこともスムーズにできないの?…未熟な子を働かせる店にも、ひとこと言ってやりたい。
―――いいじゃん、言っちゃえよ。
「へたくそ!!店長呼んで。忙しいのに時間とらせないで!!」
…一言だけでは済まなくなった私の苦言を聞いて、後ろに並ぶ人たちがはけていった。
夕食も終わって、一人でのんびりお風呂に浸かる。
今日は本当に腹立たしい事ばかりあった、疲れるな。
なんでみんな人に迷惑かけて平気な顔してるんだろ?…生きてくのって辛いわー。
―――いいじゃん、逝っちゃえよ。
「なんで私が。」
―――なんでここは逝かないの?
「そんな気軽にあの世に行けるわけないでしょ。」
―――なんで、躊躇するの?
「そりゃ好き勝手にいろいろ放り出していくわけにもいかないし。」
―――全部、やりたい放題にやってきたのに?
「他人が全部私の快適な生活を邪魔してきたから、行動しただけの結果であって!」
―――他人を言い訳にしなくていいんだよ。
「言い訳?違うわ、原因よ。あいつらのせいで私は我慢しなくちゃいけなくなる。」
―――我慢すること、ないんだって。
「人の中で生きるという事は我慢の連続なんだから…生き続けるしか、ないでしょ。」
―――僕が、逝かせてあげるよ。
「私は生きるって言ってるじゃないの!おせっかいね!」
―――あんただって言わなくていいこと、言ってあげたんだろう?
―――僕だって、逝かなくていい人を逝かせてあげたいと思うんだよ。
「勝手な押し付けをしないでよ?!」
―――あんたは言いたいこと、言っただろう。
―――僕も、逝かせたいから、逝かせるんだよ。
「やだ‥やめて!!私はもっと生きて…!!」
―――あんたは、誰かの心の声に、耳を傾けたかい?
―――あんたは他人の心のうちなんか微塵も気にしなかっただろう?
私は浸かっていたお湯からざばと立ち上がり…!
―――僕も、同じ…ただ、それだけの、事さ。
ザンッ!!!!!!!!!!!!!!
―――魂、捕獲、完了。
私は。
私は?
―――お前は、ただの。
……。




