針
マジで気をつけて。
おばあちゃんの裁縫箱は、宝物。
キラキラ光る、あめ玉みたいなものがいっぱい入っている。
カラフルな糸、指輪、小さなクッション、かわいい柄の布。
私はおばあちゃんの裁縫箱が宝箱に見えた。
針仕事をするおばあちゃんの横で、宝箱をのぞくのが大好きだった私。
おばあちゃんのいない日、内緒で宝箱を持ち出した。
どうしてもやりたかった事があったのだ。
宝箱の右上にいつもある、ドロップみたいな、まち針。
なめたらきっと、甘いにちがいない。
普段触らせてもらえない、針山の、宝物。
ドキドキしながら一本針山から抜いて、パクリとくわえる。…なにも味がしない。…別のなら、甘いかも知れない。パクリとくわえる。…なにも味がしない。…別のなら、甘いかも知れない。パクリとくわえる。…なにも味がしない。…別のなら、甘いかも知れない。
「きゃああああああああ!なにやってんの!」
見つけた母親が叫び声を上げ、パニックになった私はその場に針を撒き散らしてしまった。
裁縫箱の針を針山に戻す。
しかし、数が足りないらしい。
「針、飲んでるかも知れない。」
パニックになった母親に、病院につれていかれて、レントゲンを取る事になった。
暗く、無機質なレントゲン室に1人残される、怖さ。
小さな子供だった私は、じっとすることが難しかったようだ。
なにやらいやがって、泣いた記憶しかない。
結局針は飲んだのか飲んでなかったのか。
長年の謎だったのだが。
おばあちゃんの遺品を整頓してたら、あの宝箱が出てきた。
あの時なめたまち針は…どれだ?
「ねぇ、このまち針、私飲んだことなかったっけ?」
「飲んだと思ってレントゲン撮ったけど、あんた途中で気絶して大変だったんだよ!」
なんだ、気絶してたのか。
「変なのがいるとかお友だちがいるとかさぁ。さんざん騒いでパタリと気絶して…。」
なんだ、乗っ取られそうになったのか。
「あわてて準備してたら背中にくっついてたんだよ!」
なんだ、助けてもらったのか。
長年の謎が解けて良かった。
「この裁縫箱もらってくね。」
私は宝物がいっぱいつまっている宝箱を手に入れた。




