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就寝
ビールは分針が半周を終えた頃にはなくなっていた。
大人二人が飲む速度にしては遅いのだろうか。
酔いが回ってきたのか疲れていたのか、急に睡魔が襲ってきた。
グラスに一口残ったビールを飲み干し、静寂な時を終える。
「僕、眠くなってきたから寝ますね」
彼女は酔っているのか、頬がほのかに赤く染まり、瞳は霞を帯びていた。
「じゃあ、私も」
返事を聞いてグラス2個と空になったビール瓶を持って立ちあがる。
「片付けは私がやるから、先に寝てて」
「あ、ありがとう」
困惑を含んだ感謝を伝え、寝室に向かった。
毛布とベットの間に身体を入れて安らかな気分になる。
次第に瞼が重くなり、思考の矛盾がおき始めた頃。
意識を手放そうとしていた時に寝室のドアが開いた。
ゆっくりとした足音を立てながら僕が寝ているシングルベットまで近づいて、そして潜り込んできた。
僕の背中に彼女は抱きついて
「おやすみなさい」
息が混ざった声で囁く。
僕は思った。
人間の慣れというものがどれだけ凄いのかを。
だって僕は、彼女の名前すら知らないのだから
「愛しています」
その声はとても冷たく聞こえた。
終了




