晩酌
洗い物が終わった彼女はエプロンの紐を解く。
「お風呂、入って来ちゃって」
「あ、わかりました、お言葉に従って」
椅子から立ち上がると
「着替えとかは私が持っていくから」
考えが読まれていた。ここまで見透かされていると、本当に読みやすい思考なのだと自分自身に呆れそうだ。
「あ、ありがとう」
そこまでやらなくても、という思いから苦笑を浮かべてしまった。
何故、そこまで尽くしてくれるのか、僕にはわからない。
お風呂上がり、すっきりとした気持ちで息を吐く。
髪をフェイスタオルで拭きながらリビングの扉を開けると椅子に座っていた彼女が立ちあがる。
「湯加減はどうだった?」
そう言うとキッチンへ向かっていった。
僕は椅子を引いて
「良い湯加減でした」
と感想を述べながら腰を下ろす。
すると一つの疑問に思うことがあった。
僕がお風呂に入っている間、彼女はなにをしていたのだろう。
テレビを見ていたわけではないようだし、お茶を飲んで一休みしていたわけでもない。
フェイスタオルで髪の水気を取りながら考えていると、テーブルに瓶ビール一本とグラスが2つ置かれた。
「飲みましょ?」
隣に座った彼女が潤んだ瞳で訴えてくる。恥ずかしいのかこちらに顔を向けずに流し目でこちらの様子を窺っている。
彼女は何がしたいのだろうか、僕は彼女に何をしたのだろうか。
そう考えていると瓶に結露が浮かび上がってくる。
「お酌をお願いします」
少し照れくさそうにいうと彼女は満面の笑みで大きく頷いた。
気恥ずかしいがグラスにビールを注いでもらう。お返しに僕も彼女のグラスに注いだ。
乾杯の合図としてグラスを顔の高さまであげ、互いに見つ合う。
微笑んでいる彼女に1つ頷いて、お風呂上がりの乾いた喉に流し込んだ。
会話は特になく、流れる時を感じていた。グラスを口に運ぶ以外の音は時計の針だけだった。
時折、彼女の横顔を窺うと微笑を浮かべ、一点を見つめている。
この静かな雰囲気に酔いしれているのだと思う、僕もそうなのだから。
この世に二人しかいないような時間に。




