食事
リビングのテーブルにカバンを置き、ジャケットを脱いでいると
「今日は、遅かったね」
整った顔立ちの彼女が微笑みを浮かべ、問いかけてきた。手にハンガーを持っていたので僕はジャケットを渡しながら疑問に答える。
「まぁ、残業してきたから」
「そっかぁ、大変だったね」
彼女は相槌をうって慣れた手つきでジャケットとカバンをクローゼットにしまった。
「それじゃあ、お腹すいてるでしょ?お風呂の前に、ご飯食べちゃって」
そう言って彼女はキッチンからラップがはってあるお皿を持ってきた。ほうれん草の和え物や漬物、お刺身などがテーブルに運ばれてくる。
(僕も手伝ったほうがいいな)
座ろうとしていた腰をあげる。
「お仕事で疲れてるんだから、手伝おうなんて思わなくていいよ」
見透かされていた。
小さな返事をして品が揃うまで大人しく椅子に座って待つことにする。
最後にご飯と味噌汁が運ばれてきて
「さぁ、召し上がれ!」
テーブルの横で胸を張っている方から食事の許可がでたので、両手を合わせて
「いただきます」
と感謝を込める。
最初に味噌汁を味わい、白米の入った茶碗を左手で持っておかずを食べ進める。
「どう、美味しい?」
向かい側に座っている彼女はニコニコしている。テーブルに両ひじをつき、両手で顔を支えている。
上目遣いで聞いてくるのはずるいと思う。
「とても、美味しいです」
率直な感想を述べると彼女の笑みが1段階上がり、顔を傾け
「ありがとう」
と幸せを噛みしめているような笑顔を浮かべる。
その笑顔と仕草で自分のほうが恥ずかしくなり、ご飯を食べる手が止まった。
「どうしたの?」
固まっていたのを不思議に思った彼女が、僕の顔の前で手をひらひらとしている。
「えっ、ああ、いや、なんでもないです」
なんとか絞り出した言葉だが動揺を隠せていない。
「そう、ならいいんだけど?」
何もかもわかっていますよ、と言いたげな笑顔をしている。テーブルの下では足が機嫌よく前後に揺れていた。
自分の単純な思考は見透かされていると諦め、羞恥心からご飯を口いっぱいに頬張る。
そんな僕を彼女は優しく見守っていた。




