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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 9 愛ゆえのロンド。千里vsアルジ
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風雲急を告げる。霞城に挑め!!

「最初にはっきり言っておく。陸路でタギー社にカチ込むのは無謀だ」


遥の喫茶店にて。


きっぱりと言い切るのは、いつしか司令塔の役に着いていた丁場詩葉だった。


「俺たちが住むのは試される大地。一方タギー社のビルは、この国の首都にある。両者間の距離は1100kmもあるときた。

簡単に言うと、陸路だと片道16時間はかかる距離だ。飛行機を使う手が無くもないが……金銭的な事情を考えると無茶と言わざるを得ないな」


「うげぇ……」


「言えてるわ」


深刻な話を、店主の遥が引き継ぐ。


「あたし達Ai‐tubrの企画会議も、ゲーム上の街の中で済ませてたもの。そもそも物理的に会える距離じゃなくすることで、無闇やたらと会いに来れなくしたってわけね」


「つまり、面と向かって話し合うのは無理って事か?」


聞き返すのは先駆千里。男装禁止のキュアカフェのため、以前も挑戦した銀髪ロリータファッションを着込んでいた。……内面が成長したせいか、もはや馴染みすぎてダウナーな童女にしか見えない。


そんな彼に返すは、むしろボーイッシュだが女性らしい色が滲み出る詩葉だ。


「いいや、そうとは限らない」


「?」


「現実の世界で会う必要は無いって事だ」


言って、手元のタブレットに情報を映す。


「必要だからちょっと脇に逸れるがーーーー無料でダウンロードできるゲームにとって、儲かる方法は主に二つある」


映し出されたのは『カードレース・スタンピード』のゲームマップだ。


中央に座す円形の空間を軸に、勾玉型の世界が7つ、風車にも似た配置で並べられていた。


「ひとつは、お馴染みの課金要素だ。ゲーム内のアイテムをあれこれ買わせるうちに、気がついたら並のゲーム数本は買える金額を支払わせてしまうっていうあれだな」


「ガチャとか……スタンピードの場合はカードパックっすよね。でも、それと今の話となんの関係が……」


「重要なのは二つ目だ」


ここで詩葉は、ゲームマップの表示を縮小する。


そして、ある会社の名前を検索する。


「待て、詩葉お前それ……」


「もうひとつの儲け方は、ゲームの中に洪水のように広告を撒いて利益を得るやり方だ。

基本は他所の品物を広めて広告収入を得るんだが、場合によっては自社内で相互的に広告しあって知名度を維持したりする。このゲームの場合は……」


そうして並べて映し出されるのは、よく似た二つの図形。


ゲームマップの図形にそっくりなそれは…………宿敵、タギー社のロゴだった。


「あ……あああああ!?」


「……両方だ。見ての通りな」


ロゴならゲーム起動時に毎回見ているはずなのに、マップもよく見るはずなのに全然気づかなかった。


それでいて、すんなりと脳に入り込んでくる恐ろしさがあった。きっと外で同じマークを見かけたら、思わず目をやってしまうだろう。


『まー、いわゆる刷り込みってヤツですねー』


そんな様子をカンラカンラと笑って眺めるのは、タブレットの隅からひょっこり顔を出す御旗チエカだ。


電子を泳ぐ彼女は、タギー社を広める看板娘そのものだ。


『しれっとさりげなく広告入れてきますからねあの会社。人を動かすのが得意なんです。

敢えてワタシにロゴを刻まないのも、媚びすぎないようにするためってヤツです』


「マジか、怖……いや待てよ、結局タギー社への向かい方はさっぱりなままだぞ?」


「否」


ここで声を上げたのは、詩葉の妹にして千里の級友の丁場詩葉だ。


「そこまでの広告根性があるなら……広大な電子の市街、捨ておく手はあるまいよ」


「そういう事だ。そこをわかってないと……この事実に違和感を感じる。都合が良すぎるってな」


「? ん???」


千里の理解が追いつかない中、詩葉は再びタブレットを操作する。


タギー社のロゴを消去し、スタンピードのゲームマップを操作する。


ある街の範囲を拡大し3D表示に変更。見上げるような視点で、あるひとつの建物をクローズアップする。


その社屋はやはり七つの勾玉のエンブレムを掲げていた。


それが意味するのは。


「え……え? おいまさかコレ……タギー社のビルかっ!?」


『ええ。とっても有意義な使い方でしょう?』


皮肉たっぷりに語るのはチエカだ。


『それぞれの領域では、領域に対応したカードがたーんまり手に入ります。

このビルがある領域は、サービス開始初期の環境を取っていましたからねー? そこで会社を思うざま宣伝するのが目的だったんでしょう』


「へー……環境って言うとアレか、ドローと防御力の 《ラバーズ・サイバー》か? よく行ってたはずなのに、こんなビル見たことないけど……」


「ラバーズ・サイバーじゃない」


鋭く制したのは詩葉である。


「それよりも前に、ほんの僅かの間だけ環境を取っていた領域がある。

だがGMである良襖は、自分で使う 《スカーレットローズ》と母が使う 《ラバーズ・サイバー》に注力してしまった。

結果として、タギー社の思惑は綺麗にご破算になってしまったという訳だ」


「うっげぇ……それに社長がキレたのが過剰ノルマ供給の原因か?」


「万が一そうだとしたら大人気なくって無駄しかないが……まあそんな事はどうでもいい。

このタギー社屋は内部も作り込まれていて、一般人でも入場可能だ。そして最上階の社長室には、週に一度あるいは気まぐれで本当に社長がログインする」


「!!」


千里が生唾を飲む中、移動する視点が社屋に侵入する。


現代基準の内装を駆け抜け、最上階の扉を開ける。


心理的な理由を除けば、その九割が無駄としか言えない広大さが押し寄せる。


「これが……タギー社の天守閣って訳か」


「模造品だがな? だが機能は同等……いやそれ以上かもな」


視点を屋外へ。


そこにあったのは、先程までは見えずらかったクリアカラーのサーキットの一角だ。


「なるほど……ここでレースをするとなると、必ずここを通るって訳か」


「ああ。そしてお待ちかね……これがタギー社のある『領域』の全容だ」


パシっと。画面をタップし、一気に視点を回す。






そこは、風に満ちた『化学』の領域。






細やかな雲を散らした晴天が広がる。


都心的なコンクリートジャングルの上には、街路樹のように無数の風力発電のプロペラが回る。


それらを従え駆け抜けるは、日差しを妨げる事の無い硝子の道筋だ。


周囲には奇っ怪なドローンが舞い、コースを超える高さのビルが走行中に直撃する風景となる。


無論、もっとも目立つのはタギー社のエンブレムだ。透明なサーキットの中央で、領域全体のシンボルのように君臨している。


現代を極めた果てがそこにはあった。


『ーーーー領域の名を 《サイサンクチュアリ》』


チエカが静かに語る。


『スタンピード世界を牛耳るはずだった領域にして……Ai‐tubr 《化学の担い手アルジ》が管理する領域です』


「…………!!」


その名前には覚えがあった。


Ai‐tubr・アルジは、かつて良襖の部下として動いていた。


そして、その正体は。


「傍楽…………!!」


彼らの級友の一人。


風間傍楽。


ある時を境にめっきりと見かけなくなってしまった彼だが、それでも千里にとって大事な友の一人だ。


そんな彼が今。


牙を向く。


『…………だいじょーぶですか? 千里サン』


「…………ああ、大丈夫……」


くらり、めまいを覚えながらもチエカに対応した時だった。





ーーーーPrrrrrrrr!!





「「「「ーーーー!!」」」」


突発的な電子音に、チエカを除きその場の全員が飛び上がる。


『…………ま、仕掛けてくるでしょうねー』


「まさか……」


このタイミングで、鳥文家からの電話が来るとは思えない。


おそらくは。いやまさか。


深呼吸し、呼吸を整え、落ち着いてスマホの着信を確認する。


発信名は案の定。くらつきを堪え、意を決して通話を受ける。


「…………もしもし?」


『俺だ。どうやら、城に攻め入る算段は付いたようだな』


「…………傍楽」


やはりと言うべきか、相手はこれから向かう領域の番人だった。


ただの偶然とは思えないし、明らかにそうでは無い。


「お前の今の素性はもうよく知ってる。……どっかから除き見てたか?」


『いーや。電子の幹部Ai‐tubrには、自分の領域に関わる通知を受け取る権限がある。ゲームマップの検索者の探知もな。

……まあ、あまりにやかましくて普段は切ってるんだが……今ばっかりはな』


「………………………………おいこらオフタカタ」


近くに居る現職のAi‐tubr二人を睨む。遥は恥ずかしそうに頭を抱えるが、チエカは素知らぬ顔で口笛を吹いていた。おそらくはわざと黙っていたのだろう。


そんな隙に、或葉がスマホに近ずいて問いかける。


「傍楽殿か。近日の立ち回りは察して余りあるというもの。

なれど、友を捨ておく理由はこさえられまい。なぜ()()()()()()()()()()?」


『……相変わらず。話が早いったらありゃしないな或葉。そうさ、俺にとってタギー社から得られる『価値あるもの』は何も無い』


「ならなにゆえ」


『……………、』


辟易混じりの回答のあとは無言。


それを見て少女は一歩引く。


「……深入りはせん。話したくなったら話すといい」


それだけ語り、スマホから顔を離す。


再び銀髪の勇士が問う。


「……さてとだ。わざわざ冷やかしの電話かけた訳じゃあないんだろう? 要件はなんだ?」


『伝えるべきは二つ。一つは、俺の領域に来るなら覚悟を決めろって事だ。

こっちの大将にケンカ売りに来たとわかっている以上、俺はお前らに必ず挑みにかかる』


とくん、と。


わかりきっていた事実が彼らの胸を締め付ける。


『そしてもうひとつ。これは大将からの伝言だが……』


「なに?」


『「来るならどうぞかかってこい。なんなら今すぐ来たっていいい。俺は逃げも隠れもしない」……だそうだ』


大胆にして不敵な発言。


それだけ、自信があるということだろうか。


『ともあれだ……そんなに来たけりゃどうぞ 《サイサンクチュアリ》に来い。まずは俺が、お前たちの相手になる』


言うだけ言って、通話は切れた。


喧騒の中の沈黙。


しばらくの間の後。


「……どーするよ?」


「どうするって、まあ、なあ?」


「仕方があるまいて」


「やることはひとつよねぇ?」


『ええもちろん♪』


問われるまでもなく、その場は決まりきっていた。


喫茶店の一角にて、巨悪を睨む瞳が十つ。






ーーーー覚悟を決めよ、悪意の大将よ。


我らの反逆、誰も止める術を持たないと知れ。

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