逆転からのチェックメイト!! 千里vsホムラその⑧
掃射ののち戦塵が晴れる。
地獄の向こうを、望遠鏡をのぞき込むような感覚で見据える。
幻影を介した視界の先、確かに立ち上がる影があった。
「……………っ!! はひゅ……はひぃ!! 死ぬかと、思った……!!」
「む」
うまく凌いだか、と思い見やる。
煙の向こうで、巨影もまた起き上がる。
《試練の与え手ホムラ》は無事だ。
「やっぱり、なんかの手で生き延びたな?」
「当然ぞ……サクラの効果……場のカードが破壊されるとき、代わりにこのカードを破壊できる……!!」
「そっか。それで? そのあとどーする気よ」
「む?」
千里は揺るがなかった。
ホムラは肝心な事を忘れていた。
「今の手を打ったせいでセンターががら空きになったんだぜ? それに夢幻列車砲の効果が…………」
「あっ」
間の抜けた声が出る。
そう、夢幻列車砲には「センターがギア4でないならステータスを半分にする」効果がある。このおかげで、センターのギアが下がってもギア2として場に残れるのだが、裏を返せば……
夢幻列車砲…………ギア4→2
ATK11000→5500
DEF11000→5500
「しまっ……」
「流石に、ゴロータイにはイレギュラーが響いたか? プレイングミスが悪目立ちしてんぜ」
「…………確かに、少々手痛いミスをしたか」
自覚はあった。
「もし儂が馬鎧をサクラに装備しておったら……サクラが肩代わりした破壊を更に無効にできた。儂の盤面を貧弱にせずに済んだ……か。
じゃが、未だ我が本丸は健在ぞ。これしきのミスで揺らぐものか」
「いーや残念、お前の布陣は今からボロボロになる」
去勢を張るホムラに対して、既にその手には、次の一手が握られていた。
「ーーーー白く流るるは希望の浮雲。夢へと至る足掛かり。導け未來、撃ち抜け願い。魔性の鋼よ楔となれ!!」
「そ、その口上はっ!?」
「おーよ来やがれド有能! 《魔弾の撃ち手マアラ》!!」
綿雲に乗って、頼もしい援軍が駆けつける。
その雄姿は、白い少年の姿をしていた。
《魔弾の撃ち手マアラ》✝Magic_bullet_MARA…
ギア4マシン ステアリング POW 0 DEF 0
【デミ・ゲストカード(このカードは自身の効果でしかセンターに置けない)】
【拘束(このマシンは場に疲労状態で置く。また、リペアフェイズにこのマシンは回復しない)】
◆【自分マシン一枚を破壊】このマシンを回復する。この時コストでセンターを破壊していた場合、このマシンをセンターに置く事ができる。この効果は一ターンに二回までしか使用できない。
◆【このマシンを疲労状態に】以下のうちから一つを選択して使用する。ただし各効果は一ターンに一度ずつしか選べない。
●カードを二枚ドローする。
●相手マシン一枚を選択して使用する。対象をターン終了までPOW-15000/DEF-15000で補正し、走行を禁止する。
●相手のDEF10000以下のマシン一枚を選択して発動する。そのマシンを破壊する。
●このマシンが走行可能であったならば使用できる。自分の残り走行距離を6減らす。
◆【常時】このマシンによる走行距離はゼロになる。
ホムラと同じAi-tubrのカード。
その性能は厄介ながら超絶大だ。
「マアラの効果発動!! センターの《ガイルロード・ジューダス》を破壊!!」
「!?」
「そして効果発動、DEF10000以下の相手マシン一枚を破壊する!! 言っただろ、街路樹は勝利を目指さずってな!!」
ドゥン!! と放たれた弾丸がジューダスを喰らう。
役割を終えた悪魔を食らい、魔弾に力が装填される。
貫通した魔弾は弧を描き、そのまま夢幻列車を打ち抜く。
衝撃が響く。
「んぐぅ!?」
列車は悪魔の大樹とともに崩れ落ち、轟音と共にホムラは大地へ叩きつけられる。
炸裂。
爆散。
「チィ!?」
ホムラは馬車を伴い火の海から転げ逃げる。
しかしこれで、ホムラのマシン置き場はギア3一体のみ。
千里の攻勢は止まない。
「まだまだ行くぜ、手札から《当然のマニュアライズ》!!」
ここで発動されたのは、これまで何度も千里を助けてきたカードだ。
《当然のマニュアライズ》✝
ギア3サポート スカーレッドローズ
◆山札から、ランダムにギア1のカード三枚を手札へ加える。
「それは……マアラの弾丸要員かッ!!」
「おーよ知ってるか? 俺はそこまで運には頼らない。さーてカードドローだ!!」
新たに三枚のカードを引き入れる。
何が手札に来ようと、彼の最初の手は決まっていた。
「……俺はギア1の 《シルバー・スワン》を場に呼び出す。コイツを破壊する事でマアラを回復!! トーゼン、マアラの効果を使い……今度は走行距離を6減らす!!」
「チィ!!」
絶望的な差を詰め始める。
わずかな隙に喰らいつき、宿敵の元へと駆けていく。
千里残り走行距離…………20→14
確かな結果に、しかし戦士は冗長しない。
「さあ残りも来やがれ、《グリーン・タートル》!! 《アイアス・シールド》!!」
《グリーン・タートル》✝
ギア1マシン スカーレッドローズ POW 0 DEF7000
《アイアス・シールド》✝
ギア1マシン スカーレッドローズ POW 0 DEF5000
【お互いのターン開始時】このカードの上に置かれているマシン一枚に【進路妨害(相手は進路妨害持ちが存在する限りそちらを攻撃しなければならない)】を与える。
大した戦力でもない彼らも確かな詰め手になりうる。
全ては塵も積もればだ。
「レッツライディング! タートルとシェルで走行!」
千里残り走行距離…………14→13→12
ひたむきな走りに、ジリジリとホムラの内面が追い詰められていく。
そこから逃れるように叫ぶ。
「無駄だ……無駄だ無駄だ無駄だ!! もう決着は着いているんだ! 絶望的な差を見せられてなぜそうも立ち上がれる……!?」
「なんでって……そーさな。俺は一人じゃないって言ったろ?」
遥か後方から追いすがりながら千里は答える。
「或葉と詩葉、遥さんにチエカ。きっと良襖だって……傍楽だって。色んな奴に背中を押されて俺はここに居る。
俺一人だったらとっくに折れてたよ。でももうそーはならない。俺は折れねぇ!!」
そうして問答を超え、満を持して切り札を切る。
「行くぜ手札から《必勝・ウイニングチェッカー!!》を発動!!」
「なっ!?」
いわゆる必殺の一枚。
繰り出された切り札は、前のターンからずっと使いたかった呼び札だ。
《必勝・ウイニングチェッカー!!》✝Winning_ran_checker…
ギア1アシスト ステアリング
【三枚のマシン置き場それぞれからギア1を一枚ずつセンターに重ねる】
《勝利の導き手チエカ》一枚を作成し、センターに重ね呼び出す。その後このカードをセンターの下に重ねる。この効果は《勝利の導き手チエカ》の効果として扱う。
「ーーーー現れい出るは彼の日の陽光。彼方に輝く千遠火! 夜明けを見よ!! 地獄に伏した目を覚ませ!!
決着は来たれり。楽観を以ってこの瞬間を味わいやがれ!!!」
再びの口上。
新たなるAi‐tubrが現れる。
やっとこさ、希望の象徴が参戦する。
「……来やがれ看板ド有能!! 《勝利の導き手チエカ》ッッッ!!!!」
金色の輝きを纏い、看板娘は光の渦より現れい出る。
溌剌美麗。陽光を凝縮してもなお足りない輝きを放ち金髪碧眼の美少女が躍り出る。
「っぷはーーーーっ!! 御旗チエカ、待ちに待たせてただいま参上です!!」
「おう、待たせたなチエカ!! なんかホムラに言いたい事とかある?」
「ええもちろん! ホムラさん、あなたは立派な犯罪者です!! 近いうちに法整備されて裁判沙汰になります!! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さいッ!! いいですねっ!!」
「良くないわっ!!」
こんな時でもユーモアを失わないチエカを後目に打つべき手をもって積み込む。
勝利の法則は決まっていた。
「さー総仕上げだ。行くぜ? 勝利の導き手チエカで走行!!」
「あいあいさー!」
「ッ!! させるか儂自身の効果!! 相手マシンが行動した場合、自身を倍のステータスで場に呼び出し迎え撃つ!!」
天を突く巨獣が実体を得る。
絢爛たる刃を構え、可憐なる勇姿を出迎える。
「おーや、来ますか!」
「ーーーーキェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
列白の気合いとともに、巨獣がチエカのをマシンごと両断する。
WIN ホムラDEF28000vs14000POWチエカ LOSE
ドガンッッッッ!!!! と凄まじい音を立ててチエカが砕け散る。
それに伴い、千里も一瞬中に浮く。
が。
「ハン!! ざまぁない……」
「ここでチエカの効果発動!!」
「え?」
撃墜の余韻に浸る間もなく戦況は加速する。
「センターに重なったカード二枚を取り除いて復活する!! 俺はマアラとウイニングチェッカーを捨て札へ!!」
「あっ!!」
その時ホムラは思い出した。
御旗チエカがどういう類のバケモノだったのかを。
砕け散った光の粒子が再集結する。
《勝利の導き手チエカ》✝
ギア4マシン ステアリング
【デミ・ゲストカード】【二回行動】【このマシンがバトルに勝利した時】このマシンをセンターに移動できる。
【このマシンの破壊時/センターに置かれたカード二枚を取り除く】破壊されたこのマシンをセンターに呼び出す。
再生した体には、傷ひとつない。
「ふふふ……ワタシ、ふっかーつ! ダメですよー一回倒したくらいで勝った気になっちゃ?
『いくらでも替えがきく』のがワタシの一番の特徴なんですから♪」
粗製濫造、氾濫無尽。
最初の最初からずーっと提示されていた、バケモノの特徴を改めて思い知る。
「さあリターンマッチだ!! もう一度チエカで、今度はホムラを攻撃!!」
「いっ!?」
のけぞるのも無理はない。今度は洒落にならないのだ。
standby ホムラDEF14000vs14000ATKチエカ standby
あくまでも居合い。
ホムラのステータス倍増能力は、呼び出された直後のバトルのみ適応される。再びバトルを仕掛けられたら素のステータスで受けるしかない。
結果は相打ちだが、その場合チエカのみが一方的に復活し追撃が来る。
このバトルには損しか詰まってない。
「お、おのれ!? 退け儂!! 効果で再びアシストカード置き場に移動!!」
「ハン!! だったら遠慮なく行かせてもらうぜ! チエカで二回の走行だ!!」
「くぅ……」
ホムラは再び幽体化して逃げた。
このターンの彼らを阻むものはもう居ない。
霊体を突き抜け、二回行動を存分に活かし、我が物顔で最速の世界を駆ける。
端末のホムラに迫る。
追い越す。
「ではでは、お先に失礼♪」
千里残り走行距離…………12→8→4
「ま、待て……!!」
金色の軌跡を追うことすらままならない。
勝利が遠ざかるのを感じた。
怖気が走る。
金と銀の髪が踊り舞う場所に手が届かない。
「これで……俺はターンエンド。さあお前のターンだぜ」
「わ……儂のカードが無事だというのに随分と余裕じゃのう?」
「お前の本体は走行には使えない。だろ?」
「!!」
虚勢はすぐに見破られる。
「試練の与え手ホムラを場に出すには、あくまでも俺の行動が必要だからな。
……それに、呼べたところで設置場所はセンター、お前の自機の上だ。二回行動も持ってないオマエじゃあ距離は稼げない!」
千里はただ真実のみを語る。
「チエカはさっき取り込んだ《アイアス・シールド》の効果で進路妨害を得ている。更にお前の手札はゼロ、オマエの唯一のマシンはギア3ときた。さーて残り5キロをどう走りきる!!」
「…………」
「おやおやどーしました? なんなら今コーサンしても受け付けますが」
冗談じゃない。とんでもない。
ホムラにも譲れないものくらいある。
(ふざ、けるな…………)
思い返すのは、創業した会社を手放し全てを明け渡したかの日。
(ふざけるな…………儂がどんな思いでこの会社を創り、託し、そして今ここに立っていると思っている…………!!)
全ては自業自得だというのか。
このゲームを「マシンのギアの数だけ走行する」仕様にしたのは他ならぬホムラだ。
このままでは自分の業に潰される。
それが運命だというのか。
くそくらえだ。
そんなもの笑い飛ばして蹴り飛ばせ。
地を舐め、泥水を啜りながら、会社を背負い持ち上げ続けたあの日々に比べれば全てがマシと思い出せーーーーーーー!!
「…………よか、ろう……もはや与えられた力になぞ頼らん……!!」
再び、ホムラの瞳に炎が灯る。
「この程度の状況!! 幾度となく乗り越えてきた壁に比べれば!儂にとっては小石にも満たんものだと思い知れッ!! ……儂のターン、ドローッッッ!!」
渾身。
迫真。
ドス黒く輝く瞳が引き当てた未来とはーーーーーーーーーーーーーー。
 




