裏の裏のそのまた裏。 千里vsホムラその④
「詩葉……良襖は大丈夫なのか⁉」
「ああ大丈夫だ今は近所の診療所で休んでいる。それよりもだ…………」
「……………………」
黒ずくめの男性型アバターに見下ろされ、化け狐は妙に黙り込む。
「その、良襖への対処の理由だが…………ほんとにそういう理由か?」
「…………」
「どういうことだよ詩葉? まだ事態には裏があるってのか?」
「ああある。さっきの話も間違っちゃいないんだろうが全てじゃない。だから信じるなよそいつの話を。情に流されてそいつに負けたが最後だ」
「その言葉をそのまま返してやろうか」
目を細め、化け狐は嘲る。
「部外者になにがわかる。貴様になにが知り得ると言うのだ?」
「『知り合い』が全部話したよ」
なんてことないように放たれた、言葉がホムラを深く抉る。
「ビジネスパートナーの管理はよくやっておく事だな。奴の話だとホントの理由は二つある。一つは、さっき良襖をさらった手品に関わる話」
「…………!!」
場の険しさが一気に増す。
どういことかと千里が訪ねようとする。
「そしてもうひとつはーーーー」
それより先に。
ボフッ!! と。
ふいに詩葉の体が獄炎に包まれる。
「ぐふっ…………………ッッッッ!!」
「な、なにぃーーーー!?」
苦悶とともに、焼失していく詩葉のアバター。
驚愕に染まる千里とは裏腹に、化け狐の対応は淡白なものだ。
「外野の分際で……語りすぎじゃわい小童め」
「今の……テメェの仕業かホムラ⁉」
「左様。罵倒したくばすればよい」
ギリリと奥歯を嚙みしめて、言葉は吐き出される。
怒りが吹き荒れる。
「テメェ……やっぱなんか隠してたんじゃねぇか! あと何枚捲れば『真相』って奴にたどり着くんだ!?」
「たわけめ。そうそう奥の奥までたどり着けるものかよ。第一」
すう、と息を吸い込むのが伝わった。
「たどり着かれたところで儂は止まらん!! 我らは必ずこの世界の未来を掴む、そのために突き進む!!
ーーーーさあ問答は終わりだ小童よ! 打つべき手は打ち切ったであろう、大人しくターンを明け渡すがいいッ!!」
「ぐぬぬ……ターンエンドだコノヤロー!!」
「うむ! 儂のターン、カードドロー!!」
支配権が移る。
ギア5に特化した《サムライ・スピリット》の5ターン目。
恐怖が始まる。
のだが。
(あいつの手札は三枚、センターのギアは2。……大丈夫だ。大したことができるわけがない。このターンはろくに動けない!)
千里は冷静に分析しているつもりでいた。
だがやはり見落としはあった。
ホムラは五枚ものアシストカードをため込んでいる。
「儂はギア3、二枚目の《夜馬車の黒棺》を呼び出す! 更に手札から《千夜城の財宝》を発動!」
「千夜城……財宝?」
ジャララッ!! と景気のいい音を立てて小判の雨が降る。
聞きなれない、しかし嫌な予感しかしないカード名に、千里は恐る恐る詳細を確認にかかる。
そして絶句する。
《千夜城の財宝》
ギア3アシスト サムライ・スピリット
【使用コスト・場札四枚を疲労】
◆自分はカードを三枚引く。
「おまっ…………これ…………!!」
「毎度お馴染みのドローソースというわけじゃよ。残念だったのぉ削り戦術が打ち消されて」
あんまりだという心情を無視し。
とはいえ、とカードを引きながらホムラは語る。
その言葉には確かな愉悦が滲んでいた。
「お主の戦術も無駄ではなかったと言えよう。なにせこのカードを使わざるを得なくなったがために、儂の切り札の着地を一ターン先に延ばすことになったのだからのぉ!! …………では、ひとまず地ならしと行こうか?」
前方よりの圧が爆発する。
ギア3を起点とした、手札四枚分の可能性が押し寄せる。
かくて口上は述べられる。
「ーーーー担い手は西へ東へ。饗宴を背負い牝馬は駆ける。輝きを撒け!! 荒ぶる魂を掻き立てよ! 夜をかき消し眠れぬ國に薪をくべよッ!!」
幾たびも生まれ変わる牝馬の武装が、これまでで最も賑やかなものになる。
輝かしい黄金の馬鎧を纏い、巨躯をゆらして戦場に金色を撒く。
その名は。
「ーーーー駆けよ疾走の原典。我が愛騎《競轟王サクラ》ッ!!」
《競合王サクラ》✝
ギア4マシン サムライ・スピリット ATK14000 DEF9000
◆【このマシンの登場時】山札の一番上を裏向きのまま、アシストカード扱いで設置する。
◆【自分のカード一枚が破壊されるとき】場のこのカードを代わりに破壊できる。
◆【使用コスト・場札を五枚疲労】発動後次のターン開始時、山札からギア5一枚を選んでセンターに呼び出す。
「ちっきしょ……進化の土台用のマシンか……!!」
「左様!! お主が場を乱したおかげでその効果はつかえなんだが……それはまあ良い。楽しみはまだまだあるからのぉ!!」
化け狐の展開は止まらない。
次の一手で本人が来る。
「ーーーーわが刃は鞘に収まらず。獣の摂理に反旗翻し、終わりなき神話の世界へ汝を誘わん。
刮目せよ! 幻想を抱き水面に沈め! 誘いの使徒に血肉なき身を委ねるがいい!!」
金色の毛並みが舞い散る。
降り注ぐ輝きが、降り立つ者の壮大さを証明していた。
影は九と一つ。
神話の妖狐が君臨する。
他ならぬ、宿敵の現身。
「ーーーー出でよ我が分身!! 《試練の与え手ホムラ》!!」
ーーーーGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNN!!
疾風、轟音。
咆哮とともに、真なる化け狐が戦場を支配する。




