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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
Episode.2 ローグとの邂逅! 〜センリvsシルヴァ!〜
8/190

日常/非日常!!

それはある対戦の結末。


このゲーム《カードレース・スタンピード!!》は自身の走行距離100を削り取っていくことでゴール……勝利を目指すゲームだ。


その上で、その結末を見届けてみよう。




千里残り走行距離……20→0=GOAL!!


或葉残り走行距離……()()()



「ウイニングランだっ!!」


「あんまりにござる!?」


いったい何をどうすればこんな圧勝が出来上がるのか。


ともあれ、先駆千里のバトルセンスは本物だった。






そして、時間は流れウェストミンスターの鐘が鳴り響く。


それは学び舎へと幼子を縛り付ける嘆きの鐘の音である。


それでも食事を終え、つかの間の休息を得るこの時間では救いでもあった。


市立摩耶小学校5年1組。


その一角、後方の聖域にて、囚われた四人の子供達の会話が交わされていた。



「どうかしら。機嫌は直った?」


一人はダウナーな少女。赤く焼けた短髪に見合い肌の血色も良い。

半開きの眼が世間を斜に睨めていた。


名を鳥文良襖(ラフマ)。不思議な引力を持つ少女である。



「うむ、もう問題ござらん。何者も飢えてさえいなければ荒れ狂う事は無い故」


一人は少女に見えない少女。黒く適当な長さのボサついたおかっぱ頭に、若干病的なほど白い肌。

世界に押しつぶされそうな、歪に丸く弱々しい目の下にははそばかすが浮かんでいた。


少女の名は丁場或葉(アルハ)。そそっかしい人物である。



「なんだ朝食抜いてたのか? 重要よ、ちゃんと食べんの」


一人は目立つ要素の乏しい少年。妙に長い髪で目が半ば隠れ、茶色の頭髪との組み合わせが帰って「地味」の記号を増幅していた。

時折覗くその目は優しく、一方引いたところから愛でるようだった。


少年の名は風間傍楽(ボウラ)。ただただ当たり前を貫く少年である。


そして。



「おうよ。食うのってマジ大事なんだってよ」


最後の一人は。


「んでだ。ウチのアニキが健康に良いクッキー趣味で焼いてんのよ。めっさいっぱいあるから放課後にでも食いにこね?」


「マジでかよ行くわ!」


「ヨシ、拙者もいざ!」


「あたしパス」


「「「ナニユエ!?」」」


「今日の放課後はちょっと忙しーの。習い事とか色々ね」


「そりゃねーぜボロネーゼェ……」


「けど、お菓子だったらうちにも料理教室のお土産があるから後で交換にでも行こうかしら」


「僥倖にござる!!」


「この食い意地よ」


「じゃー放課後すぐ俺んち集合で! 待ってるぜ?」


「「「オーウ!」ウム!」ハーイ!」



どこまでも「ただの少年」……先駆千里(センリ)だった。





そして、時間は流れ。



電子の海、その内の菓子の山麓。


その高台。


幼げなバニーガールが、コースを駆けるレーサーたちを見下ろしていた。


頬に手を当てながら。


狂喜に満ちた笑みを浮かべながら。


「あぁ……みんな走ってる。『みんな』が戦ってる……なんて幸せなのかしら」


茶髪を揺らし、体をよじる少女。


そこには、確かな企みの影があった。


「これなら……そろそろ……」



「お前がYagami123か」



その背後に、黒い影が立つ。


「あら……? 誰かしら?」


「オレの名はシルヴァ。ま、しがない負け犬の一人ってところか」


男……シルヴァは嘲るように語る。


その対応に、Yagami123は微笑みと共に答えた。


「あら。それでこんな幼子捕まえて勝ち星を稼ごうと?」


「冗談を言うな」


シルヴァは呆れつつ答える。


桜並木の景色の中、彼らの周囲だけが暗く滲んでいた。


「現在このゲームにグランドクエスト……最終的にクリアすべき目標と呼べるものはまだ無い。

だがお前がこのゲームのラスボス筆頭候補ということはみんな知ってる。

そんな相手に勝ち星を稼げるとでも? あからさま過ぎるんだよお前は」


「へぇ? あなたこそ冗談がお上手なこと。……それで、それが事実だったとしてわたしに何をお求め?」


「なぁに、今後の事を語らうために、ちょいとばかりデートにでも誘おうかと思ったまでだ」


「まぁ!?」


「こんな所で立ち話もなんだろう。麓のカフェで仮想のお茶でも飲みながら、ゆっくり話そうじゃあないか」


「まぁ、まぁ……♡」


恍惚した表情で答えるYagami123。


しかしすぐ、落ち込んだような表情になる。


「嬉しいお誘いですが……わたしの成りで静かな場所など似合うはずもありませんでしょう?」


「なに?」


「であるなら……ほら。私達が語る方法は一つ」


少女が、仮想の祇の束をかざす。


「超速の世界で語り合う……それがこの空想世界の歩き方でしょう……?」


瞬間。


威圧と共に地にヒビが走る。


「……やっぱりそうなるか」


電子の大気が泣き叫ぶ。


世界のテクスチャが湾曲する。


足元さえグラつく中、それでもシルヴァはYagamiを真っ直ぐ見据えて問う。


「レースの前に一つだけ良いか? 理不尽な強さを誇るフリークエストの御旗チエカだが、()()()()()()()()()()。だが、何故か全ての必須カードを集めた奴は一人も居ない」


「へぇ……それで?」


「答えろ! もし七枚全て揃ったら何が起こる!?」


「さぁ? 強いて言うなら……見落としをさらってみてはよろしいのでは? この世界には、貴方が語る他にも何かがかけている……そうは思いません?」


「見落とし? 欠けている?」


「それより先はまた次に」


ーーーーッゴアアアアア!!


「チィ!」


彼らの足元から、黒ぐろとしたクッキーが湧き出る。


それらは規則正しく並んでいくと、眼下のメインコースへと向かう舗装路になっていく。


「さ。語らいましょう? 光さえ置き去りにした世界で、溶け合うように交われば……最早言葉など不要でしょうに」


彼女の足元に、ドラッグマシンと思しき躯体が現れる。


「……お生憎様。オレのレースは下手の横好きって奴でな。会話ならカフェで落ち着いて語り合うほうが得意なのよ」


一方シルヴァの足元には、骨で組まれた単車が這い出るところだった。


双方共に色無き卵(ホワイト・エッグ)からはとうに卒業済み。


ヘビーユーザー同士の戦いだ。


「だからだ。俺が勝ったら付き合ってもらうぞ。お前に似合わん場所とやらにな!」


「ははは……そう上手く行くとでも?」


「場合による」


それ以上、戦いなき言葉は口にしなかった。


そして。




「ったく、何度見てもスゲー出来のスゲー街だぜ」


「確かに。ここまで繊細と来ると、最早現実と見分けるのも困難にあろう」


彼らは桃色の街並みを進んでいた。


そこはまさしくお菓子の国。


ドロップの石畳を行けばチョコとビスケットの家が並ぶ街。遠くに佇むは飴細工の尖塔だろうか。桜並木は綿飴の花びらを散らし、あちこちに立つ街灯はりんご飴をチュロスで補強したようになっていた。


実際にはそこに降り立っていないのに、口の中いっぱいに甘ったるさが広がるようだった。


「しっかし、傍楽の奴今ごろチュートリアルのチエカに揉まれてるんだろうなァ」


「通過儀礼に故。これは避けられないにゴザル」


呑気な会話が今日を行く。


彼らは、今日起こる出来事を何も知らない。







ド ガ ン !!






「「!?」」


電子の世界での爆発。


なんのトラブルだろうか?


「トラブルにござらん」


「?」


「ここは電子の遊び場スタンピード。そのすべからくが戦場にござる」


黒煙上がる街並み。


無論周囲の人々は距離を取るが……その顔に悲哀は無い。


むしろ、これから何が起こるかに期待しているような眼差しだ。


なんなら、自分が出向くか……そんな意志さえ見受けられた。


「つまり…………あれはこの世界の日常って訳か」


「どうするにござる?」


「決まってら」


言葉一つ、千里はマシンを走らせる。





燃えさかる街角。


「どうしたお前ら? オレを止められる奴は居ないのか? えぇ!?」


焔の中で男が吠える。


戦いを求める声が響く。


そして、それに答える声も。


「だったら俺が相手になるか?」

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