激突! 化け狐ホムラvs先駆千里!
現在、Ai-tudrホムラは管理用量産型アバター(仮定)である御旗チエカの内部に篭っている。
2つのアバターを利用したバグ技で、本来のチエカの運営専用コードを回避する……そんな彼をゲームに拘束するには、ゲーム上の物理演算でぶっ潰さなければならないらしい。
だがホムラは、高スペックのマシン同然のパワー、防御力を誇る。
だからそこからはルールに則った勝負だ。
こちらもとびきりの切り札で挑みにかかる。
彼らの法にはこうある。
『マシン同士のバトルの際、攻撃側のPOWと防御側のDEFを比べて負けた方を破壊する』。
Standby ホムラ14000vs10000トレイン Standby
両者は激突する。
剛烈たる人面列車が、仙孤と化した畜生に衝突する。
空間が泣き叫ぶ。
世界が軋む音が鳴る。
しかし、ひび割れゆくのは列車のほうだ。
「…………ッ」
千里の表情は優れない。相棒の様子がよろしくないのだ。
悲しみにくれる獣のような咆哮が聴こえる。比較値4000分の差が出始めている。
「ハッハッハ! 所詮は凡百のアンコモンカード! この《試練の与え手ホムラ》の前に立つにはふさわしくなかったというわけだ!」
「ち……はたしてそーかな」
早くも上がる勝鬨に、千里はふてぶてしく切り返す。
「ここでグレイトフル・トレインの効果! 場のギア1マシンを吸収することでそのステータスを得る!」
……という効果だが、千里は手持ちのカードをトレインに向ける。
「ここまで乗り回して来たが……もう一仕事だぜ《パイクリート・ライド》!」
千里がここに来るまで乗って来たバイクがある。
それがひとりでに飛び出し、トレインの前に現れ出でる。
《パイクリート・ライド》
ギア2 スカーレットローズ ATK8000 DEF8000
《ダブルギア1(このマシンはギア1としても扱う。またいつでも、場にあるこのマシンをどちらかのギアのみに変更できる)》
『自機がギア2でない』このマシンのATKとDEFを半分にする。
「こいつのステータスを吸収する! 喰らいやがれトレイン!
ーーーーバクン! バキガキボキグシャァ!!
トレインステータス……ATK&DEF10000→18000
Low ホムラ14000vs18000トレイン high
味方を喰らい、より凶暴な力を以て突き進む。
「これでパワーは逆転! 潰れるのはお前よォ!!」
勢いを増す。
重圧をかけるように、斜め上方から力かかる。
刃を握るホムラの手に力がこもる。
熱量がぶつかりあう。
「……………ッ」
「この……っ!!」
このまま押しつぶせる。
そう思って居たのだが、甘かった。
「…………ふんッ!!」
という声ひとつとともに、異変が起こる。
ホムラステータス……DEF14000→28000
「は!?」
爆発するような衝撃。
橙色のオーラとともに、シンプルに相手の力が倍加した。
「嘘だろ……!?」
「ハハハ……それしきで儂を倒せると思うてか」
グン、と刀の押し返す力が増す。
トレインの顔面が更に崩れゆく。
騎乗する千里の額に汗が浮かぶ。
「ちょ……今なにしやがったテメー……!?」
「たわけめ!! 散りゆく者に語る事など無いわ!!」
「ちくしょう!?」
問答無用の未知ロジック。
ルールそのものと化した彼に、もはや彼の力は無力なのか?
追い込まれた千里の内は荒れていた。
(たく毎度毎度ガチすぎるんだよ……相手にする奴みんながよっ!! それが有効ってのはわかるが……なんで「ただ楽しく遊ぶ」相手に恵まれねーんだよチクショァー!!)
心中毒つき、相手を心底苛立った眼差しで睨みつけたところで。
「ーーーーちぇーすとーっっっ!!!」
御旗チエカによる、強烈な踵落としが狐を蹴り抜く。
「ンボォベェラアアアアア!?」
「うっへ、強烈なの来やがった!!」
珍奇な悲鳴を上げて苦悶する化け狐ホムラ。
その隙を見逃す彼らではない。
健闘ありがとうございます! あとはこのまま突っ込んじゃってください!!」
「おーよ隙アリだ!! 押し込めグレイトフル・トレインッ!!」
「ヌォッ!?」
彼の愛機、巨大な顔面列車に号令を出す。
前へ。
ひたすら前へ。
ただ前へ突き進む力が仇敵を圧しこむ。
そして。
Lose ホムラ28000vs32000トレイン&チエカ WIN!!
「ヌゥゥワぁああああああああぁぁぁ!!」
「ーーーーてめーは紐なしバンジーの刑だッッ!!」
前哨戦の雌雄は決した。
彼方に吹き飛ぶ篝焔を見据え、千里は突きつけるように言ってやるのだった。
「はいすきありー」
「……むっ!?」
遥か彼方、小さなクレーターの上でのできごと。
墜落し、意識が朦朧としていたホムラの腕にガシャン! と閃光のワッパーがかけられる。
みやると、その位置だけは乗っ取りに伴う変化が起きていなかった。
「ブレてましたよ、ミスタープレジデント」
数瞬の間を置き、チエカが勝ち誇るように語る。
「早い話、そのコスプレ形態は二種類のアバターを同じ座標に重ねただけ。そーんなバグ技で完全な合体になるわけないでしょうに」
「ムゥ……」
「だから強い衝撃をぶつければどーにかなるとは思ってましたが……まさかアナタがああも粘るとは」
木を揺すってリンゴを落とすようにシンプルな作戦。
そこへ、このゲームのギミックがかち合えばこそ長びいたのだ。
とはいえホムラの疑問は収まらない。
「き……貴様らの策はわかった。だが、なぜあの場で勝利をもぎ取れた!!
儂の『力』は、ゲームカードとしての性能は小僧のグレイトフル・トレインを圧倒していたハズだ!」
「そんなこともわからなくなっちゃったんですかお爺ちゃん?」
「ムッ!!」
体だけはチエカと同じまま、老害ホムラが顔をしかめる。
「このゲームの法にはこうもあります。『バトルのさい、攻撃側はマシン同士で連携できる』。
だからワタシが連携を組んだんです。高スペックマシン同然の性能を誇るこの《導きのチエカ》が」
《導きのチエカ》
ギア4 ステアリング/マシン ATK14000 DEF11000
チエカのATKは14000。グレイトフル・トレインのATK18000と足して32000。
だからこそ、DEF28000に化けたホムラの撃破ができたという訳だ。
チッと舌打ちひとつ、ホムラは気まずげに視線を逸らす。ルールの支配を語った彼にとっては皮肉もいい所だろう。
そんな彼の前へ立ち、先駆千里は言ってやる。
「……まーあれだ。これで勝ったからってよー。それだけで何かが解決するって訳じゃあないのはスゲーわかるよ」
千里は状況を過大評価しなかった。
その上で。
「だがな。おかげで少しだけ……ほんのちょっぴりだが……
『スカッとした』ッ!! それだけでも頑張った甲斐はあったぜッッッ!!」
「貴様ァッ!!」
激昂するホムラに、追い討ちをかけるように畳み掛ける。
「さーて『本番』を始めよーぜクソ運営様よ! アンタがかんがえたさいきょうのルールとやら、俺が攻略しつくしてやる!!」
宣戦布告は、速やかに果たされる。
そして両者はレースにつく。
互いに閃光の手錠で繋がれスタートラインに並びいでる。
双方が『カードレースで倒すことでしか消滅しない』状態のチエカを手元に置いている以上、もはや決着はゲームでつける以外にありえない。
土埃舞う城下のサーキット、その先では世界の番人が旗を握り構えていた。
「……儂のルールを攻略してやると言ったか若造」
腕を縛られ、千里を睨みつけるホムラ。彼が自由かつ安全に離脱するには、やはり相手を葬るしかないのだ。
「であれば貴様で新ルールの『試し』と行こうじじゃあないか!!
この儂入魂の『シンプルプラン』……一朝一夕の代物では断じて無いと知れ!!」
「ああ、よーく知ってやるよ。……それと勘違いしているよーだから言っとくが」
「?」
何もわかってない老人に千里は通達する。
「あんたの作ったルールがどんだけスバラシしかろうと、それはそれとしてアンタは全力でぶっ飛ばすからな?」
「…………ッハ」
ホムラはここに来て、彼の本質を見た気がした。
ある意味では機械的な『ゲームの世界を良くしようとする執念』。
細かい枝葉を掻き分けて、本質のみを射抜く圧を彼から感じ取っていた。
銃口は今、ホムラに向いている。
心臓が早鐘と化す。
呼吸が高まる。
信号代わりの鬼火が、天に灯り出す。
彼にも誇りと呼ぶべき物はあるのだ。
だからこそ、威圧するように言ってやる。
「であれば、やってみるがいいわい……電子の合言葉の準備は良いか!」
「オウッ!!」
返答とともに、エンジン音は響きわたり、
そして。
「疾走に情熱を」
「Passion for Sprinting!!」
信号鬼火が青に染まる。
両者は走り出す。
決戦が始まる。
文字通り、電子の世界の『神』を賭けた一戦だ。




