原罪との対決。駆けよ反逆の疾走者!!
(今のあの人に、ワタシの権能は通じません。別なワタシの体に引きこもってますから)
(別なワタシって……よくわかんねーが、わらわら居る味方なら裏切り対策用のなにかが使えるんじゃねーか?)
(あー、粛清的なアレですか。それも使えませんねー、なんせ『人間が操るアバター』が重なってますから)
(うげ)
チエカと千里は秘密裏にやり取る。
不穏なワードはこの際目を瞑る。
(でもってあのおじいちゃんをワタシの体から締め出す方法は一つ。『御旗チエカにゲームで勝つこと』)
(…………!!)
(それしかありません。あの状態じゃあユーザー追放コマンドと同族粛清コマンドどっちも使えませんからね)
(細かいところはスルーして一番重要な事効くけどよ……ああまでやれるバケモノに勝てるのか?)
(何言ってるんですか)
チエカは。
(ワタシはアナタを信頼しています。この世界のいろんなゴタゴタが霞むくらい、アナタの心は輝きに満ちているとおもうので)
平然と、なんてことないことのように言ってのけた。
(…………!!)
「さっきから……なにをごちゃごちゃと言っとるかァ!」
と、ここで狐ジジイが痺れを切らす。
背面に広がる九つの尾をしならせ、前方に叩きつけにかかったのだ。
もはや彼は、カードで決着を付けるつもりすら無いらしい。
振りかざされる脅威に対し、両者は散開を余儀なくされる。
影が墜ちる。
大地が割れる。
轟音が遅れて響く。
世界が崩れる。
暴君の在り方だ。
災いの中心、チエカを乗っ取り、ゲームマスターの座を乗っ取り、世界を乗っとらんとする老害が。
吠える。
「……確かに、儂はAi-tubrを名乗った。じゃがここでその責務を果たすとは言っとらんわっ!!
まどろっこしい駆け引きはもーうんざりじゃて! うぬら小兵の相手などいちいちしていられるものかァ!」
手が振り下ろされると共に、ビルを叩きつけるような衝撃が電子の世界を襲う。
その後には、アバターを焼き尽くす青い炎が広がっていた。
あれに飲まれたらおしまいだ。
「先駆千里! うぬはもうもう用済みじゃ! そこなキナ臭い看板娘共々、世界の外に墜ちるが良いわ!!」
言葉と共に、二撃三撃。
一人を潰すために、世界を壊す嵐が吹き荒れる。
圧倒的な暴虐に呆然としながらも、手近な鳥居の影に隠れる千里。
廃墟と化しつつある和の景色の向こう側、矢倉の中に潜む本来のチエカが見えた。
全力で叫ぶ。
「それでよォ! あの暴れジジイをどう嵌めるってんだ⁉」
「ワタシにいい考えがあります。あなたは手持ちのマシンで突っ込んでください!!」
「……!? 雑だなオイ⁉」
「あとはワタシが合わせます! 彼を戦場に引きずり込んだら……あのアンポンタンさんを必ずカードレースで叩き潰して下さ……」
遮るように烈風が来る。
視界塞ぐ土煙が質問の権利を奪った。
やるしかない。
そう認識した上で。
「…………くそったれ」
吐き捨てるようにぼやく。
「ああもうくそったれ、くそったれくそったれくそったれくそったれくそったれッ!!! マトモな選択の権利もねぇなぁチクショー! 流されっぱなしじゃねーのか俺はァーーーーッ!?」
思えばいつだってそうだった。
兄にゲームを紹介され、級友の心を守るためにゲームにのめり込み、頂点を目指すも全てはゲームマスターの思惑の内だった。
挙げ句そのマスターへの反逆の権利すら奪われ、新たな敵との対決を余儀なくされてしまった。
そもそもプレイヤーである時点で、運営に背くこと事態がおろかなのかもしれない。
一旦後方に引き、櫓の頂点に座す狐を睨みつけながらそう重い知る。
「……だがよ」
それでも自由意思はある。
膨大な可能性の欠片くらいは握っている。
「俺にもあんのよ意地くらいはヨォーッ!『何で』決めるかくらいは選ばせてもらうぜ!
俺の手持ちで信頼できるって言ったら……コイツだよなあ!」
自分の手持ちの中でもっとも信頼に足る愛機を思い浮かべる。
引き入れる。
繰り出す。
睨めつけ吠える。
「おいジーサン!! さっきから好き放題言ってるよーだが舐めてんじゃァねーぞ!
用済みだろーがなんだろーが、俺がやりたいことは俺が選ばせてもらうぜ! ましてそれがテメェ個人の自分勝手だってーんなら……」
そして切り札は呼び出される。
「そのくそったれな野望は、俺が纏めてぶっ壊す!
ーーーー来やがれド有能!! 《グレイトフル・トレイン》!!」
大地が『内から』割れる。
世界に競りだす衝撃。
巨大な顔面を掲げた列車が、地のそこから現れ出でる。
《グレイトフル・トレイン》✝
ギア3 スカーレット・ローズ/マシン ATK10000 DEF10000
◆《自分のマシン一枚を捨て札に》コストカードのステータスを自身に加える。
「行くぜぇ相棒ッ!」
列車の上に跨がり顔面に足をかけ、宿敵へ向かい空の線路を駆ける。
悪意は笑みを崩さない。
「ハッハッハ小手先千番!! 言ったろう我はAi-tubr!! その体は超性能のマシンカードと同義! そんな毒にも薬にもならんしもべなぞ相手にならんわっ!!」
宣言の通りだった。
仙孤の本質。九尾の狐の力は、先駆千里の操るマシンを大きく越えていた。
《試練の与え手ホムラ》
ギア4 ステアリング/マシン ATK11000 DEF14000
《??????》??????????????????
《??????》??????????????????
防御型のステータス。効果までは記憶していなかった。
だが効果抜きの優劣は明確だった。
「このゲームのルールを忘れてはいまいな! マシン同士のバトルは攻撃側のATKと防御側のDEFを比較、下回った方を破壊する!
この場におけるうぬの破壊は、則ちアバターの死を意味すると思え!」
化け狐による一方的な宣告。
確かにこのままでは、防御側14000vs攻撃側10000のバトルとなり敗北。千里のアバターは電子の風となって永久に消えるだろう。
だが関係ない。
最早引くものか。
「だからどーした」
戦士は。
愛機に跨がり凶悪な敵にめがけ駆ける先駆千里は吠える。
「細かい事はサッパリだけどよ……お前に好き勝手させちゃいけないってのはスゲーわかる。
だからぶっ勝つ! 『あの時』みたいにぶっ飛ばして終わりじゃねーぞ。テメェをレースの場に引っ張り出して必ず勝ってやる!」
「ハッ!! やれるものならやってみるがいいわッッ!!」
視線が交錯する。
敵意が爆裂する。
反逆の照準が、静かに化け狐を射抜く。
狐が刃を構え。
千里が更なるカードを取り出し。
そして咆哮は放たれる。
「「ーーーー行くぞォ!!」」
激突が、始まる。




