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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 8 本当の悪の目覚め。???vs良襖&千里vs???
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バーサスの開始。化け狐の陰謀を討て!

「さて……どうするかの?」


化け狐ことホムラは、選択肢を転がすように嘲る。


「ここでお主の申し出を受ける道理は儂にはない。なにせ今日の儂は非番じゃからの。はてさてどうするか……」


「その手は喰わねーぞ」


千里は臆さず詰め寄る。


「だってアンタはさっきAi-tubaを自分で名乗った。つまり染み付いてるってこと。アンタにとって、このゲームが大事って事だ」


「であれど。いやなればこそ」


獣は嘲笑うように答える。


「いきなり出合って即決戦など興が冷めるわい。儂と戦う前に、お主はまだやるべき事が残っておろう」


「やるべき事?」


「左様」


仰いだ天には、丸く輝く銀色の月があった。


「このゲーム……カードレース・スタンピードは七人のAi-tubaを撃破する事で最後のステージを呼び出す。だが最後の決戦までにお主が倒すべき相手はまだ四人もおる」


「四人?」


千里は首を傾げる。


千里は既に七名中四名のAi-tubrを打倒している。残りは三名のはずだが。


「このゲームのクリア条件は『七枚の必殺技カードを集め』『招待状を手にすることで』最後のクエストを呼び出すこと。さーって、招待状はなにから作るんだったかのう?」


「招待状……?」


思考を巡らせる。確か最終ステージの招待状の材料は……。


「チエカの、必殺技カード……‼」


忘れもしないマアラとの決戦。あの日提示された攻略条件には確かにチエカの必殺技《必勝ウイニングチェッカー!》をくべる事が必須条件となっていた。


「そうとも。必殺技カードは各Ai‐tubaの専用クエストをクリアすることでのみ入手できる。なれどチエカのカードは『二枚』必要となる。つまり」


ふと、狐があさってのほうを見やる。


そこには。


「つまりは試練とは別口のクエストが必要というわけじゃよ。……のう、御旗チエカ」


「……ばーれた」


物陰から出てきたのは、うっすらと冷や汗をかいた金髪ロング碧眼のレースクイーン。


御旗チエカ。このゲームの看板娘にして『第一のバケモノ』だ。


「やはり監視をつけておったか。覗き趣味は関心せんのぉ」


「でしょーねぇ。なのでできれば、気づかれないようにしたかったんですけどね」


彼女は設定上、はじまりの町シュガーマウンテンと自身の管理区域スカーレットローズにしか生息していないことになっている。


こうして出てきた以上、それは閉塞感を軽減するためのブラフだったのか。


「ですがま、気づかれちゃったものはしかたありませんし。やることはやっていきますよAi-tubaホムラ。……いいえ、出資企業タギーの会長さん?」


獣が笑みを深める。


そう、彼の獣の中身は。


「ご老人の暇つぶしにしては随分と派手にやらかしちゃってますねぇ?

……あなたを幹部の列に加えるのは契約に入ってましたが、こんな権限までは与えてませんよぉ?」


「ふぉほぉ、人に借りを作るとはこういうことよの。いいように操られたくなくば己が足元を固めることじゃの」


「ゴコーセツ痛み入りますが……職権乱用以上のことしてるのは変わりませんからね?」


化け狐の中身は『かぐや姫の難題』の一件でさんざん千里達を妨害したタギーの頭目だった。


会長の名は知らない。


だがその性根は知っている。


「……まー予想してたが。やっぱりろくでもねーのな」


「ふん。人の上に立つと言うのに腐らずにいらいでか」


獣は悪怯れることなく悠々語る。


「そんなことよりお主はどうじゃ御旗チエカ。のうのう? のけ者にされるのは寂しかろう。お主とも戦わねばならんというのにの」


「なーに訳のわからないことくっちゃべってくれてます?」


彼女は、指鉄砲を構え語る。


「どんな手段で『その権能』をてにいれたかはサッパリですが……アナタがやってるコトはどう考えてもやり過ぎですって。ですのでここらでちょっと……休暇でもいかがですか?」


チエカの腕に、青い炎が灯る。


千里はその炎に見おぼえがあった。


「その炎、良襖と同じ……!!」


「ええまあ。てゆーかこの炎もワタシからの『レンタル品』ですし」


チエカは獣に向き直り、突きつける。


「あなたはとっくにご存じでしょうが、この炎には触れたユーザーをゲームから追放する力があります。

あなたには与えられていない権能。あなたに抵抗する手はありません。」


「確かに」


獣は否定しなかった。


その上で。


「じゃが儂にはそもそも、おぬしとまともに取り合うつもりはない」


「?」


「現れよ《勝利の導き手チエカ》!!」


「なっ⁉」


獣が、九尾の狐がぷっと吐き出した一枚のカード。


それはチエカの姿が描かれた彼女自身のカードだ。


そこを起点にぽふんと場違いな小爆発が起こり、生き写しの金髪少女が現れ出でる。


二人目のチエカだ。


彼女はまるで()()()()()()()()()()嬉々として口上を述べるが。


「----いやはや呼ばれて即参上!! Ai‐tubr御旗チエカで……アレ?」


「ふん」


ざくぅっ。


「ひぐっ⁉」


生まれた意味を知る暇すら与えない。


狐の爪が生まれたてのチエカを貫き、蝕んでいく。


困惑するのは眺める二人だ。


「どうなってんだアレ……お前の目の前で、別のお前が……⁉」


「見たまんまですよ。まったく何度見ても……()()()()()()()()()というのは見ていて気持ちのいいものではありませんねぇ」


そうこう言っている間にも、獣は浸食を深めていく。


苦悶が漏れるなか、状況に似合わぬ呑気な声が獣から発せられる。


「いぎゅ、いげびりぉ…………」


「んー、思えば長ったらしい名前じゃの。今日からは《導くチエカ》で十分じゃて」


浸食されゆく少女の隣、耀き浮かぶカードが書き換わる。


「何を……何やってんだよ、オマエ⁉」


「それはまあ、ゲームの簡略化じゃの。シンプルプランとでも呼ぼうかの。以前からあらゆる事がややこしいと思っておった」


《勝利の導き手チエカ》から《導きのチエカ》へ。


それに伴い、ステータスさえ削られていく。


ゲームそのもののリ・コントラクト。


もはや彼らが知るスタンピードとは訳が違う。


そして、少女への浸食が完了した。


いいや少女だけではない。彼らが知るスタンピードはもう壊されてしまったかもしれない。


全て目の前の老けた獣のせいだ。


敵意をよそに、獣はチエカの背に潜り込む。


尾てい骨に尻尾を残し、頭蓋から耳を生やし。


虚空から巫女のような羽織まで降り、看板娘のシルエットを別物へと変えていく。


そうして戦局に佇んだ敵は、仙狐のごとき狐少女だった。


もはやチエカの人格は跡形もない。


あるのは老人のエゴだけだ。


「……んー、このような若く柔らかい容姿は久しぶりじゃわい。

どこもかしこも頼りないが……お主の『権能』に強力な耐性を持つのはまちがいあるまい。でないと自滅してしまうからの」


「確かに。呆れるほど有効な戦術ですね」


「そうじゃろうそうじゃろう。そして……」


呆れ語る本来のチエカの前で、獣チエカの姿が消え。




千里の背後に。




「へ。」


「お主はもう用済みよのぉ!」


油断の死角から斬りかかる。


それをすんでのところで止めたのは、千里のかたわらに居たチエカだ。


両者は共に青い炎を剣のように振りかざしつばぜり合いをする。


最中の問答。


「ハンッ! そこを退かんか看板娘! この場で唯一脆弱なるはそこな少年! 早々に退場させずなんとする!?」


「お断りですねぇメッキの老害さん! 彼はダイジなユーザーなもので。アナタに手出しはさせませんよ!」


一閃、二閃、三閃。


幾度かの斬り合いの果て、両者は距離を取り向かい合う。


「ハンッ! 全能同士ではアイコにもならんか! このまま世界が終わるまで斬り会うか!!」


「ゴメンですね! 老人のオユウギに付き合う義理はありません!」


「いいおるわ小童が! ならば解決を示して見せよ!」


言いながら、数尺先で獣チエカがふたたび炎の剣を取る。


チエカが背後で守る千里に声をかける。


(……このままじゃ埒があきません)


(……?)


眼差しは真剣だった。


彼女は、しごく真剣に彼に頼むのだった。







(頼まれてくれますか。アナタの力が必要なのです)

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