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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
節目の決戦。千里vs魔王・夜ノ神!!
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qdnao龍顕現。千里、覚醒のjydkwo

「お前は…………この世界に居て良い奴じゃない……ですって?」


魔王はあざけ嗤う。


「だったらどーするって……」


いうのよ、とまでいえなかった。


千里のアバターの姿が消える。


「は?」


ログアウトしたか、と思ったが違う。


同じ場所にネコのアバターが出現する。


「?」


また消える。


今度は犬。


またまた消える。


とかげ男。


またしても消えて。


「……?????????」







コースを突き破り、龍の顋が君臨する。







「ちょっ……ッッッ!!?」


電子の世界が湾曲する。


大気が軋み悲鳴を上げる。


「なによこれ……なによこれ!?」


それは新緑の龍だった。樹木を動物と変えたような、若葉湛える双頭の龍だった。


瘤のような胴体を支えるは根のような脚。


世界樹を思わせる威圧感。


それがコースに根を張り、支配の域を広げていく。




ーーーーRuooooooooooonn!!




咆哮がこだまする。


その轟音と、蠢く根の触手を目の当たりにした観客たちからも動揺が出始める。


「……ちょっと待て、これこっち来るんじゃないか?」


「逃げろおおおおおおお!!」


逃げ惑う声が響く。


それに呆然とするのは魔王・夜ノ神だ。


「ちょ……まちなさいまちなさいまちなさいまちなさいまちなさいざっけんじゃ無いわよ!」


処理落ちしかけるが持ちこたえる。


支配域がこちらに迫る。


樹木の触手の直撃が来る。


来る!


「チィッッ!!」


魔改造バニースーツを奮わせ、ハイキックで蹴り飛ばす。


二撃。


三撃。


蹴り飛ばしても蹴り飛ばしても、いくらやっても……


「キリが無い……!!」


たまらず後ろ跳びで退却し、状況を観察する。


まさしく惨劇だった。


夜桜色の空の下。七色に輝くシークレットコースに、君臨するのは世界樹のごとき双頭龍。


電子の世界は根に蝕まれ、人工物を廃した自然へと塗り替えられようとしていた。


このままでは本当に世界から締め出されてしまう。


「くっ…………なんだってのよあのバケモノは!!」


「ーーーーお困りのようですねぇマイマスター?」


「アァ!?」


いらだちとともに振り返ると、そこには金髪碧眼に橙色の衣装のレースクイーンが能天気に立っていた。


ロングヘアを靡かせる彼女は、このゲームの看板娘だ。


「チエカ…………」


御旗チエカが、傍らに立っていた。


その声はいつも通り陽気だ。


「いやー、いきなりでてくるもんですからびっくりしちゃいましたよ!

何ですかアレ。少なくとも現在までに実装されているカードではなさそうですが」


「当たり前でしょ!! このゲームはカード『レース』よ! あんな動けそうにないカードを作るわけ……ああ結構作ってるか」


「イチバン近いのは《咎人の樹》でしょうか。近いものは感じますが、イマイチ罪人感足りませんよねー」


「ああもう兎に角アイツに挑んで来なさい! このままじゃこのゲームはおしまいよ!!」


「はーいなっと♪」


軽い調子で看板娘は跳び向かう。


その間にも侵食は迫る。


だがここで2つ、事実に気がついた。


ひとつ、観客席には攻撃を仕掛けない。


もうひとつ。


「泣いている? あの龍…………」


瞳という器官があるのかは知らないが、頭部から常に樹液のようなものを流していた。


それがチエカに降り注ぎ、進撃を止める。


「うっぷ!? 溺れる溺れる溺れる!」


まるでとりもちのよう。振り払えなくは無いだろうが、暫く時間がかかるかもしれない。


やむなく魔王もカードを構えるが……




ーーーーRuooooooooooonn!!




「けふっ!?」


手にしたカードを吹き飛ばされる。


咆哮だけで前に進めない。


もはや侵略の象徴。


膝をつく。本当に、ログアウトを余儀なくされるかもしれない。


と、双頭が他所を向いた。


向いた先にあったのは、先ほど魔王自らの手で切り落としたユリカの首と根元のアバターだ。


根の触手が迫る。


取り込むかと思ったが、そこから更に細かい植物が広がり彼女の首を繋ぎにかかる。


運搬、接着された首に花飾りのような植物を残し、根の触手は引いた。


そして。




「…………ん……んん、く?」




漏れた声を聞き、魔王は信じられないといった表情で凍る。


「ウソ……ユリカさんの首を治した……?」


アクセスが繋がっている。


切り落としだが筈の権限が復活している。


(嘘でしょ……あのドラゴン、アカウントの権限を操れる!?)


創造者の夜ノ神……魔王・鳥文良襖でさえその域には至っていない。


自分にとって重要な人物のアカウントから、プロテクトをバリバリ剥がしてキルスイッチを取り付けただけだ。


あのドラゴンは違う。


そもそも復旧なんて芸当が誰にできる。


なにかが、違う!


(認めない……『私』の管理が届かない事柄なんて『あたし』が認めない!!)


魔王は飛翔する。


面倒ごとはトライアル&エラーで乗り越えるタイプだ。


「チエカ! いつまでも寝てるんじゃないわよ!」


「はいはいなーっ!」


「はいは一回ッ!!」


黄金の看板娘は樹液より復活する。


このゲーム始まりの二人が並び立つ。


紅蓮の魔王と看板娘が未知に立ち向かう。


相手となるは、深緑のドラゴン。


その戦いは。


「べしっ!?」


「ぎゃふん!?」


一撃。


根の唸りのだけで振り払われてしまう。


吹き飛ばされ、転がる姿は、皮肉にも先刻自らが切り落としたユリカの首が転がる様に似た。


無様。


そう認識した自分を呪った。


「……っざけんじゃないわよ……」


倒れ付したまま、巨大な龍を睨む。


「ここは『あたし』が遊び『私』が統べる世界よ。あんな訳のわからないものにぶっ壊されてなるもんですか……!!」


未知という恐怖。


それが彼女を支配していた。


そして。


巨龍が更に体躯を増す。


まるで……それ自体が新たな世界と化すように。


「ちょっと……まだ大きくなるわけ!?」


冷や汗が止まらなかった。


チエカはなかなかどうして役に立ちそうにない。


その役者不足が、寝そべりながら情報を漏らす。


「……あの力、ワタシの権限に似たものを感じますね」


「なんですって?」


「無限に増殖して、いくらでも代えがきく。ありゃあ頭を砕いたって同じです。

貴方の権限ではモチロン! 出資者タギーが札束で殴っても同じことはできるかどうか……」


「じゃあ……アレなんなのよ……」


その問いに、チエカは虚空を見上げた。


「強いて言えば……ロマン?」


「は? なにそれ……」


「わからないというロマン。隠されればこそ求めたくなる。それがあの巨龍なんです」


まー、そんなこと言ったらワタシも謎の謎の謎だらけですけどねー★ という言葉を聞き流し。


ただの幼女は。


「…………はっ」


魔王・夜ノ神は馬鹿馬鹿しいと思った。


そんなものを、彼女は理解できなかった。





「ばっからし」





無情は振り下ろされる。


裁きの大樹が、彼女たち目掛けて墜落する。


そして。






ーーーーZugaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!





未知を否定する魔王は、未知によって討たれた。





「……カハッ!?」


リアル。


自室に帰還した魔王・夜ノ神……こと、鳥文良襖は息を切らした。


ぜえぜえと激しく呼吸を重ね、先刻の恐怖を思い返す。


ルールを無視した冗談。


あんなものは彼女の創造物ではない。


出資者タギーの手によるものかと思ったがすぐに否定する。タギーは良襖を制御したがっていた。あんな切札があるならもっと早く切っている筈だ。


正体不明。


先駆千里にはなにかの異常がある。


それがわからない。


「アレが……『未知というロマン』……?」


少女には理解出来なかった。


彼女が最も信頼するのは、実在性の薔薇スカーレット・ローズだ。空想に想いを馳せるのはもとより不得手……というよりは、想像の余地を残す能力がない。


だがアレは違う。


御旗チエカと同じ、魔王の手以外から産まれたバケモノ。


暴かなければ気が済まない。


だから否定されるのか?


「ざっけんじゃないわよ……『私』は魔王よ……あの世界は『あたし』の遊び場で……『私』の……」


と。






がちゃり、と音がした。


「は…………?」


扉の向こうに、立っていたのは。


「………………………………………………………………………………よ」


「千里……」


先駆千里。


絶対零度の勇者が、そこに立っていた。

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