表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
節目の決戦。千里vs魔王・夜ノ神!!
66/190

じぇjkd暴君jfじぇkqk惨劇kdyiollk

電子の会場は湧きに沸いていた。


もはや魔王の実力を疑う者は居ない。禁止級のコンボを、使用率の低いデッキで上から叩き潰したのだ。


創始者の名に恥じない実力。


それを、誰もが認めていた。


ただ一人を除いて……


「ざっけんなよ…………」


手をついて立ち上がる、銀髪の少年。


物言いは辛辣、かつ弱々しかった。


「あんなの……あんなのアルジの効果が『都合が良かった』ってだけだろ……

自分一人じゃなんにもできないって自分で証明してんじゃねぇか!!」


吐き捨てる。


一人のユーザーの必死の叫びは。


「誰だって一人きりじゃ生きてけないから人に頼ったりするんだろ!?

だってのに……同格だの格上だのを認めなかったらよ! そんなの世界の壁に激突するまで突き進む羽目になるだろうよ!」


「んっんー。ちょっと勘違いしてるかなー?」


しかし、運営の長にはこれっぽっちも響かない。


「だってあたしはこのゲームの『世界の壁』そのものだもの。だから最強なのは当たり前。

……それに、アルジの効果の事なら、後半の走行効果は要らないわよ?」


「んだと……?」


意味がわからなかった。


激戦の中で、少年は過酷過ぎる駆け引きの全貌を把握できていなかった。


「運命の四ターン目。あたしは《ゴールデン・ハイウェイキッド》一体での走行をサボった。ハイウェイキッドの走力10がムダになったの。

更に、あたしは《赤塗りのパトライド》の使い方もサボった」


残酷にもほどがある種明かし。


それは少年の意思を無視して続く。


「マスター・フォーミュラーの走行の時、走力を足すタイミングを敢えて最後にした。しかも手札のを含め二台のパトライドでも走れたのにそれをやらなかった。

これで5×3の無駄づかい。後は簡単よねぇ?」


ただの掛け算だと言う。


「アルジの効果分の走行は25。だけどあたしがムダにした走行距離は10+5×3=25。

……あっれれーおかしーわねー? 都合が良い効果なんて無くても走りきれたわね?」


「じゃあ、お前は手を抜いて俺に勝ったって言うことか……?」


「言い換えれば、あたしの圧勝ってことね?」


嘲る声がかん高く響く。


ただ一人、千里のもとにだけ。


「あなたもわかってるはずでしょ? カードゲームは最強の力を手に入れてからが本番!

プレイングは確かにすばらしいけど…………環境トップとの殴り合いがまだ足りなかったみたいねぇ?」


『場数』は足りてた。


『質』を伴ったものは乏しいと言っているのだ。


「それに一人じゃ生きれないって? わかってるわよよーっくね。だから、忠実な部下を『常に』侍らしている」


「常に?」


その言葉に引っ掛かる。


白衣の少年の影がいやにちらついた。


「おかしいと思わない? なぜ『彼』が習い事がある筈なのに、合宿に参加できたのか。

なぜ何故常に私の側に居たのか、なぜ過剰なまでの備えを常備していたのかァ!!」


「まさか……」


自分を構成する全てが砕け散るような気がした。


「風間傍楽」


千里の級友。


あの気の弱い彼が。


「彼が私の忠実なる部下……七天のAi tubaだからよっっ!!!」


「嘘だ……嘘をつくなあああああああああ!!」


崩れ落ちる。


あの日仲間だと思っていた面々。


その大体が、敵二人と過ごしていたって?


「さて、ここから大変ねぇ千里?」


魔王は玩具を弄ぶように続ける。


「あなたは級友・或葉のためにこのゲームの攻略に挑んだ。

だけれど彼女は本当に貴方の味方かしら? 彼女が好きなのはうちの看板娘チエカよ?」


状況の整理を続ける。


千里が立つ足場を、がりがりと削り落としていくようなものだ。


「あなたにいつまでも靡いていると思う? 彼女はとっくに『絡めとって』いる。

そして彼女の姉、詩葉は妹のために人生を捧げている。芋づる式こちらに引摺り込める」


削って削って、もはや尖塔のよう。


千里を支えるものは、ちょっと蹴飛ばしただけで崩れ落ちるものだ。


「もうわかったでしょ? あなたの側には誰も残らない! 味方なんてどこにも居ない!

下るしかないのよあなたは! 『私』の軍門にね!!」


絶望的な事実。


それを突きつけられ、千里の心が軋み……





「まだあたしが居る」




七色のサーキットに。


現れたのは、桃色の短髪姫だ。


千里が呻くように絞り出す。


「ユリカさん…………」


「ちょーっとやり過ぎじゃないの魔王さん」


上司への苦言。


否、大人から子どもへの説教か。


「勝つのはいい。容赦なくコンボを叩き込むのも良い。

……だけど敗者をさらになじり罵り追い詰めるのは上手くない。それは心をへし折る行為よ」


「…………」


「とはいえ、ボスとしてキャラクターによってはそれもありかもだけど。

塩梅を学びたいなら……どう? 弟子入りなら感激するけれど」


社会との渡り方を学べ。


この短髪姫は暗に、そう言っているのだ。


「千里、ごめんなさい。彼女の監視はあたしの仕事なのに。

大人として、ケジメは着ける。彼女はあたしが止める。だから貴方は下がって。これ以上貴方を傷つけさせない」


そこには、紛れもない大人が立っていた。


間違えた子供を正さんとする、凛とした大人の立ち姿がそこにはあった。


「さぁ…………楽しい楽しい遊びはここまで。表に出るなら立ちまわりに気を使わなくっちゃ」


「…………」


幼女魔王は沈黙していた。


大人の言葉が染みたのかと思ったが。


「…………ふふ」


「?」


違う。


彼女の手元に、青いエフェクトが灯る。


「……あなた、タギーの命令であたしたちを見張ってたんだったわよね…………」


「え」


「それも、今日でおしまい。ユリカ、いままでありがとう。そして……」














すぱっ。








「ヘ     っ     kは」







ころころころ。








ころん。







「は」


首が。


桃色の髪を讃えた首が。


文字通り、斬って落とされた。


「う、あ、うああああああああああああああああ!!」


「さようなら! 『あたし』を支え『私』の敵となる女!!」


甘かった。


もはや誰かの言葉で揺らぐほど彼女は脆くはなかった。


狂おしい情熱によって、粘り強く鍛えられた刃がそこにはあった。


流石にオーディエンスにも動揺が走る。声が届かないぶん理解が追い付かないのだ。


千里が、切り落とされ転がったユリカの首へ向かう。


「おい……斬られたのはアバターだよな? あんた自身じゃないだろ。

だから返事してくれよ。なぁ……なあ!! 返事してくれよおい!?」


「ムダだってのに」


幼き魔王はあざけ嗤う。


無知な少年を尚も追い込む。


「今のはね、確かに演出よ。彼女は生きている。会いたければ会いに行けば良い。

ただし、彼女は二度と戻ってこれないわ」


「んだと……?」


「出資者タギーは私が暴走しないように、何重ものプロテクトの設置を要求した。

……だけど甘いわ。毎晩夜なべして、気づかれないようコツコツプログラムを書き換え。ついには私に全ての権限が戻った」


夜桜色の空の下、魔王は弄ぶように指を振る。


「まさか……お前まさか!」


「そ・の・ま・さ・か。彼女には永久BANを突き付けた。《極上の乗り手ユリカ》はもうカードだけの存在よ!!」


つまりは追放。


目障りな彼女をゲームから締め出したのだ。


「他のアバターで戻ってこようとしてもムダ。私特製の声紋認証が絶対に逃がさない。

彼女は二度と《カードレース・スタンピード》に関われない!!」


「…………、」


「これぞ頂点! これぞ最上! もはや敵など居ない!

すでに十二分に成熟しているのよ! このゲームも、私もね!!」


この世の終わりのような演説を聞き終えて。


「…………てめー、自分でなにやったかわかってんのか?」


「あん?」


絶対零度の、問いかけが始まる。


「ユリカは……遥さんはお前たちの管轄の報酬として多額の給料を得ていた。それをあの喫茶店の資金に当てていた。

だがお前はそれを永久に不可能にした。これがどういうことかお前……わかってんのか?」


「まぁ……違約金たっぷり請求されるでしょうねぇ役目を果たせなかったんだから。

店も閉店。店員たちは店を追われ、遥さんは借金まみれの不幸な人生にまっしぐらってところかしら?」


「わかってたんだな……わかっててやったんだな……?」


「ええ、まぁ」


信じられない答えばかりが飛ぶ。


彼女はちっとも悪びれていない。


「彼女は己の意思こそあれど、その本質はタギーのワンコで監視カメラよ。

それをいつまでも側に置いて置くと思う? ここらが縁の切り時だったのよ」


それに、と彼女は続ける。


「敗者を罵るなですって? ええ、ただの敗者なら健闘を讃えようじゃない。

でもあたしの領域に踏みこんだやつには情け容赦尊厳あらゆる事柄を否定してやるわ! 『あたし』をなじり『私』の敵となるなら滅ぼすのがベストだものねぇ!!」


自分の同格以上を認めない。


それを、独裁者と呼ばずなんと呼ぶのか。


「だってそうじゃない? このゲームはあたしが作った。他の誰にも再現できない!

だから私は頂点に立つ。誰よりも強くあることで頂点に在り続ける!!

この世界は!! 隅から隅まで私の下にあるのよ! ひは、はははははははははははは!!」


「…………………………」


千里は。


千里は。


先駆千里は。


カードゲームを愛し、理不尽な難易度をも称え、ゲームに意識を絶たれようともその愛を貫いた先駆千里は。


「…………………………………………魔王、夜ノ神」


「あん?」


「お前は」


始めて。


明確に。











「お前は…………この世界に居て良い奴じゃない」


相手の存在、全てを否定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ