決戦開始。千里vs魔王・夜ノ神前編!!
「こんなところがあったなんてな」
連れられるように来た場所は、七色のサーキットだった。
いわゆる隠しステージに該当する、七つの領域を足したような戦場。
古今東西が入り交じったステージに、多くのオーディエンスが浮遊する観客席に乗って駆けつけていた。
ここが決戦の舞台。
悪夢を打ち破るか否かの境界。
千里は尚も語る。
「やっぱりスゲェな。こんなの誰もできねー。いや思い付いても実行できねーよ。
山ほどの時間を注いだと思う。情熱を込めたとも思う。それは立派だろうぜ」
褒めるところは素直に褒め称える。
だが言うべき事を言うのが千里だ。
「でも、だからって好き勝手していい訳じゃあねーだろ。
お前は、やっちゃいけない事を幾つもやった。早すぎる身空でゲームを運営し、遥さんを振り回し、詩葉に一服盛って倒れさせた」
静かに語る。
それは次第に熱を帯びる。
「だがな……今、俺がイチバン怒っているのは夢を壊した事だ。
俺や或葉が描いた夢を、お前は粉微塵に踏み砕いた!」
怒りがあった。
燃え盛るような怒りがあった。
「なぁ。俺たちは楽しいゲームをやりたいだけなんだよ。だってのになんでこんな目に遭わなきゃならねぇ?
知りあい一人『騙しきれないで』誰がゲーム運営なんてできるってんだよ!」
「それでも」
反論が飛ぶ。
語りはオーディエンスには届かない。ふたりぼっちの弁論だ。
「私には『才気』がある。これを腐らせるなんてとんでもない!
歴史には星の数ほどの『天才』が埋もれている。私はそうはなりたくない。
だから行動する!! 私が私であるために、絶対に止まらない!!」
「その道すじが最初ッから間違いだらけでもか!?」
「しらいでか」
悪びれもせず答える。
言葉は乾いていた。
「世の中の仕組みはシンプルよ。『見込みがあるものが評価される』。何がどこまで間違っているかなんてどうだっていいの」
「それが……答えかよ。お前の……スタンピードの!!」
憤慨は溢れていた。
止めどなく流れる怒りの奔流に、千里の自制心は外れかかっていた。
それは相手も同じだった。
「これ以上の問答は不要。この世界で対立した以上は戦うのみよ」
「……やってやる」
すでにレースようの信号は降りていた。
カウントが進む。
呼吸が早まる。
鼓動が加速する。
そして。
「疾走に情熱を」
「Passion for sprinting‼」
千里残り走行距離……100
夜ノ神残り走行距離……100
決戦は始まる。
深き夜をかける疾走だ。
即時速攻。
今日の千里は躊躇わない。
「まずはアメジスト・イーグルの効果で俺の先攻! まずはイーグルで走行だ!」
千里残り走行距離……100→95
《アメシスト・イーグル》✝
ギア1 スカーレット・ローズ/マシン
POW2000 DEF2000 RUN5
◆《エスコート(このマシンをファーストに置いてレースを始めた場合、自分が先攻を得る。相手も同様の効果を使う場合は攻守の合計が高い方を優先する)》
◆『このマシンをセンターから捨て札へ/レース中一度』相手マシンの行動一つを無効にする。
「続いて手札から《代車ガレージ》を発動!! これで俺はターン終了の度に場のギア1を入れ換える事ができる!
俺はこれでターンエンド! 効果で《バルキリー・シェル》を呼出しイーグルを戻す!」
《代車ガレージ》
ギア1 スカーレット・ローズ/チューン
《接地》このチューンは場に止まる。
『自分エンドフェイズ時』山札からギア1マシン一枚を呼出し、それ以外のギア1カード一枚を場から山札に戻す。
ターンは移る。
「なら私のターン、ドロー! あたしはセンターの《コズミック・エッグ》で走行!」
夜ノ神残り走行距離……100→95
「続いて《ゴールデン・ハイウェイキッド》を呼び出す! 隣にもう一枚呼びだし走行!」
《ゴールデン・ハイウェイキット》✝Golden_kid…
ギア2 スカーレット・ローズ/マシン
POW6000 DEF9000 RUN10
夜ノ神残り走行距離……95→85→75
スカーレット・ローズとしてはありふれた流れ。
だがそれで魔王が終わるわけがない。
「更に、接地チューン《マストカウンター》!」
「んだと?」
号令とともに、千里のマシンに平行するように。
文字通り、船のマストが競り出す。
《マストカウンター》
ギア2 ステアリング/チューン
◆《接地(このチューンは場に止まる)》
◆『相手がチューンを使用した時/このチューンを捨て札に』使用条件となったチューンを無効にして破壊する。
「はん。バケモノを世に送り出すってのに何の対策も付けないと思った?
このマストはあなたがチューンを使う時に叩きつける事ができる。戦術は吟味することね……ターンエンド!」
「くそったれ……エンドフェイズ時、再び代車ガレージの効果!! 自身を戻し《バルキリー・シェル》を呼び出す!」
《バルキリー・シェル》
ギア1 スカーレット・ローズ/マシン
POW1000 DEF6000 RUN5
《このカードをセンターの下から捨て札に》一度のみ、センターの破壊を無効にする。
ここでオーディエンスも気づき始める。
「バルキリーにゴールデングース?」
「なあ、アイツもしかして……」
オーディエンスがどよめきたつ。
この流れは有名だった。
「あなた……【重機王】を使うつもり?」
重機王。禁止級のコンボの名前だ。
それらパーツは11月末を以て全面的に効果の改修が行われる予定だが、今はまだ使える。
マナーも何も有りはしないが……それを世に送り出したのは他でもない、目の前の彼女だ。
「ああ。好き勝手災いを振り撒いたお前には、身から出た錆に埋もれるのが筋ってもんだぜ!」
言葉に出すほど自覚する。
彼女の罪は甚大だ。
「そうだよ……お前から始まってんじゃねぇか……」
確認するように呻く。
思えば彼女は全ての元凶だ。
「詩葉が駆けずり回ったのも! 或葉の夢が危険に晒されたのも! 遥さんが振り回されたのも! 俺たちがタギーに狙われたのだって!
ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ、お前のせいじゃねぇかよッッッ!!」
「あら? そうかしら」
とぼける魔王。
観客に届かない言葉は、目の前の悪にも届いていなかった。
許してはならない。
彼女はここで止める。
「俺のターンッッッ!! 」
力強くドローを引き入れる。
ドローカードは《当然のマニュアライズ》。
重機王を呼び出す準備は整っていた。
「……俺はセンターに《パイクリート・サイドライド》を呼び出す。更に《バラルライド》を呼び出す!」
ギア2からギア3へ。
まだ走る訳にはいかない。
ここで。
「俺は《当然のマニュアライズ》を使用する!」
ギア3のチューン、ギア1三枚を引き入れるカード。
しかし通じない。
「だったらマストカウンターよ! このチューンを捨て札に送り、その発動を無効にする!」
マストが倒れ右手を撃つ。
カードがこぼれ闇に消える。
だが千里は止まらない。
「だったら……手札から《クッキー・ボードソルジャー》を手札からだす!!」
「なんですって?」
《クッキー・ボードソルジャー》
ギア1 シュガー・マウンテン/マシン
Pow2000 DEF2000 RUN5
『このマシンの登場時』このマシンはセンターのギアの数だけ増える。
三体に増えるギア1。
だがそこで止まらない。
「更にセンターの《ゴールデン・グース》の効果! センターの下から一度のみ引っ張り出せる!」
《ゴールド・グース》✝
ギア1 スカーレット・ローズ/マシン
POW2000 DEF2000 RUN5
◆『レース中一度のみ』このマシンをセンターの下から場に呼び出す。
「へぇ?」
「さらにバトルだ! バラルライドでハイウェイキッドに攻撃!」
LOSE バラルライド8000vs9000DEFハイウェイキッド WIN
センターが砕け散る。
だがこれでいい。
中から出てきたのは。
「……これで、さっき呼びだしたパイクリートが表に出る。そしてコイツは、ギア1として扱う事もできる!」
《パイクリート・サイドライド》✝
ギア2 スカーレット・ローズ/マシン
POW8000 DEF8000 RUN10
《ダブルギア1(このカードはルール上、ギア1としても扱う。また、コントローラーの任意で片方のギアとしてのみ扱う事もできる)》
◆『常時』センターがギア2でない場合、このマシンのステータスは半分になる。
ギア1が五体。
条件は整った。
そして口上は述べられる。
「ーーーー無限の未来に突き進むため、大地と空に風穴を穿つ!!
吠えろ日常。唸れ世界! 束なる力が溢れる夜をぶち砕く!!」
五体が二台へ。
二台が一台へ。
成長は連なる。
誰をも超える、最強の重機君主が大地に降り立つ。
そして。
「ーーーー来やがれ最強ド有能ッッッッ!!
堂々完成!! 《重機王ローディエゴ》ッッッッ!!」
かくて巨人は立ち上がる。
【重機王ローディエゴ(コンボ名)】
ギア3 スカーレット・ローズ/マシン
ATK22000 DEF13000 RUN25
◆《四回行動》
◆『このマシンの破壊時』一度のみ無効にする。
◆『登場時』お互いの走行距離を100増やす。
強いことしかかかれていない。
これが禁じ手の圧力。
「これで、決めるぜ」
血涙を流しかねない表情で睨み付ける。
「俺が叩き直す。外れかけのネジをしめ直す! そのへらついた顔をぶっ壊してやる!!」
千里の怒りが爆発する。
魔王は笑みを崩さない。
破滅向かう戦場は、一息に終末を迎えようとしていた。




