新たな景色
チエカのカード紹介コーナー! 今回紹介しますのは、ギア1チューンカード《必勝!ウイニング・チェッカー!!》
《必勝! ウイニングチェッカー!!》✝Winning_ran_checker…
ギア1 ステアリング/チューン
《コスト・センターを含め、タップ状態の三枚のギア1をセンターに重ねる》
《勝利の導き手チエカ》一枚を作成し、センターに重ねる。
やることのわりにシンプルなテキストの必殺技カード。この「作成」って言うのがミソで、このゲームで「作成」されたカードはそのまま残り続けるんですよねー♪
それを利用した錬金術は数あれど、レジェンドレアを作成できるカードはこのカードのみ! おかげで換金やNPCとの交換にお役だちです!!
このカードは見事少年の元へ。気になるその後は本編にGo!!
遊戯の景色の修復は、当たり前だが物理法則をガン無視していた。
サーキットに列車が突っ込むというあり得ない事故現場も、光の粒子に包まれるなりきれいさっぱり元通りになった。
「……コレが、このゲームのバトル……」
センリは静かにつぶやく。
駆け抜ける興奮。
遥か遠くの相手を抜き去る達成感。
だが何より。
「なんか……平和だ」
このゲームでは、不要なら別に相手を攻撃する必要は無い。
ただ相手より早く走る事。
それがこのゲームの勝利条件なのだ。
紙のカードなら「モノは言いよう」で終わるところだが。
最新レベルのポリゴンとシェーダーを駆使した表現が、この戦いは「レース」なのだということを言葉と共に心でわからせてくれた。
画像を超えて空気が染み入る。
「いやー、負けた負けた負けました!」
と、声と共に靴音が近づいてくる。
「チエカ……さん……?」
「おやおや妙にしおらしく? もっと自信持って良いんですよ、なんてったってワタシに勝利したわけですし!」
「……んーや、はっちゃけるのはもうちょい後にするわ」
「? なんでまた?」
「だってそうだろ?」
センリは、諦観したような顔で答える。
「アンタは本気だったけど……全然全力なんかじゃない。俺はアンタがデッキを組む時点で、事前に行った手加減のおかげで勝てたんだ。いつか全力全開のアンタに勝つまで、この勝利をひけらかしたりなんかしねぇよ」
「なるほど、一理あります。ですが」
チエカがセンリに歩み寄る。
「アナタははじめてのゲームで、ルールを学びながらも理不尽な程に執拗な攻撃に耐え、最高最善の手を打って試練を攻略した。…それは紛れもない事実です。だからひけらかす事こそ無けれど、誇りには思って良い筈ですよ♪」
チエカが右手を差し出す。
「……見事でした。そして歓迎します! 新たなるレーサーの参戦を!!」
「……ああ、ありがとよ。今後ともよろしく頼むぜ!」
その手を、センリが力強く掴む。
サーキットの客席から歓声が上がる。
それがどういう仕掛けなのかなどもうどうでも良かった。
彼女に貰った勝利の充実感。
それをただ、味わうのだ。
ーーーーこれは、ワタシを討つ物語。
眼集う至高の舞台で、ワタシを討つための物語。
まだ足りない。足りてはいない。
然るべき舞台はまた、いずれ。
「……って感じで凄かったんだぜ!! ゲーム自体見たことないシステムだったし、世界観とノリがもうサイコーなワケよ!」
「ふーん、グッドじゃん。つか羨ましいぞ綺麗なネーサンとイチャコラしやがってよォー!!」
「ヂュフフ。それこそがチエカ殿の策略にゴザルよ。自身をエサにゲームに人を引き込みつつ、自分はゲームの象徴としての独自性を受け取る……チャンネル登録して毎日チェックしている拙者にかかればお見通しにゴザル」
そんな感じで決戦の後。
この世の終わりみたいな光景の中、ボイスチャットが忙しなく交わされる。
約束通り、八時に《ライドボウル》に。
工事車両に乗り込んでサッカーするとかいう、意味不明のゲームに集った少年たちは語り合う。
友人の一人、アバターでも現実でもメカクレの少年がクレーン車でボールを打ちながら問う。
「んでよ、その換金用のレアカード? だっけ。使ったのかよォ?」
「おうよ。早速訓練用のカカシアバター相手に《生産》してきたぜ!」
センリが除雪車でボールを蹴りながら答えた。
あの握手の後、センリは既に《必勝! ウイニング・チェッカー!!》を手にしていた。
『一人一枚しか入手できない超貴重なカードです。よーく大切に保管しておいてくださいね?』
ウイニング・チェッカーは、バトルで使うと日に一度のみ《勝利の導き手チエカ》を生産する。
それを売却すれば、パック一つ分のゲーム通貨になるという仕組みだが……
「でも、売り飛ばすのはまだかな」
「ヂュフフ、何故にまた?」
「そらだって」
センリが当たり前という体で答える。
「デッキに同じ名前のカードは4枚まで入れられるっぽいし? まずは枚数確保しとかなきゃってぇな」
「フッフッフ。なんやかんや言ってチエカ殿を売り飛ばすのが惜しいだけにゴザル。最早骨抜き、沼の底まで沈む他無いにゴザルよ!」
「オイ恐ろしい事言うなよ!? 沈まない、俺は沼になんて沈まないからな!?」
なんて強がるセンリだが、おかっぱの友人と共に妙なアラームを鳴動させる。
「「むむ! 配信の時間にゴザルか!!」」
「きっちり沼にホールインワンじゃあねぇかっっ!!」
ツッコミの最中、制御を失ったボールが、キーパーのロードローラーに踏み潰された。
こうして、一つの戦いは終わった。
しかし同時にスタートラインでもあった。
「……ああ、良いわぁ。いい感じ……もしかしたら彼は……ふふ、ふふふ……」
世界のどこかで、yagami123は呟いた。
新たなる戦いの兆しは、すぐそばまで来ていた。
「ほうほう、アナタが新しく来たお仲間クンですか」
「は、はいっ!」
白を基調に、金色のラインが無数に流れる空間。
電子の箱庭の中、金髪ロングのレースクイーン少女御旗チエカの前に一人の少年が降り立っていた。
髪の毛はほわほわ。白い衣装はもこもこ。
小学高学年のセンリよりも、なお小さな体躯を奮い立たせ、少年は飴玉みたいに甘い、紅い瞳を見開き答える。
「このたび、スタンピードのシュガー・マウンテンの実況担当として配属されました、バーチャルAi-Ntubaの衣音魔荒です!」
また一人。
白いく幼い獅子を思い起こさせる少年が、戦列に加わる。
物語が、紡がれる日は近い。
◆
◆
『ではではまた次回お会いしましょう! ア・デュー!』
「ア・デュー!!」
すっかり沼に落ちたらしきセンリは、夜色の部屋でチエカの配信に酔っていた。
親しみやすくて、称えられる存在感。ボケやヨゴレ役然とした立ち回りを混ぜつつ、全てのフォロワーを満遍なく照らす太陽のような配信は、近所のカード屋を喪ったばかりのセンリを優しく照らしていた。
センリは思わず頭をかく。
「こりゃアルハもハマる訳だぜ……」
呟きながら、自身の兄との約束を守れるかが不安になってきたアルハだったが、
そこへ。
ーーーーピロン♪
軽い音と共に、一通のダイレクトメールが届いた。
「…………?」
鳴動源はスマートフォン。送られてきたそれは配信と共に彼女が利用するアプリ、Triperの機能の一つだ。
差出人不明。しかしウイルスを仕込む機能は無いはずなので特に迷わず開封する。
そこには。
『《スタンピード》ユーザー総員へ
このゲームには危機が迫っている。より長くアンテナを伸ばし、その事をしっかりと認識して欲しい』
「うわぁ……」
センリの面は嫌悪で埋まった。
ありがちなイヤガラセとして心のゴミ箱に捨てたが……縁に引っかかって落ちなかった。
センリはこのゲームの事をまだなにもわかっていない。
このメールさえ何も否定できない。
「……もっと知らないとな」
彼の目的は、安住の顔付き合わせる札戦場を見つける事。
何も知らない所で落ち着いては過ごせない。
まだ目的は果たされていない。
センリはスマホをいじると、通信アプリRuneの通話機能で友人を呼び出す。
出るのはわかっている。さきほどまで共に配信を見ていた仲だ。
『ムム。これはこれはセンリ殿。さきほどの配信の話でもしに……』
「まあそれもそうなんだけどよ」
頼れる友人に問う。
「このゲームの事、もっと知って置きたくてさ。いてもたってもいられなかったのよ」
「……ふふ」
「な、なんだよ?」
「いやなに、当初の拙者のような事をしておるなと思った故に」
「マジ?」
「マジにござる。であれば任せよ。電子の世界の歩き方含め、いろいろ教えようぞ」
「マジかサンキュー! よろしく頼むぜ!」
「よろしい。ではまず……」
そうして、夜はふけていく。
少年はより深くへ潜る。
いつの日か、彼が心の底から彼の地に身を預けられる日まで。
彼の走りは、減速する事はない。
新たなる戦いはすぐそばに! しかしその前にこのゲームへの理解を深めて置かなければ! おっと新顔クンの活躍も見逃せません! 次回「チエカと魔荒の初心者講座! 〜走行距離編〜」たまにはのーんびり、参りましょう!