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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode6 絡めとる状況。千里vsユリカ!!
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原点への回帰。枕飛び交うリブート!

「うっへーい…………あたしまだまだ行けるぞ……」


「べろべろじゃない……どこで飲んで来たんだか」


詩葉を介抱する遥。


しばらく前、まだ一緒にくらしてた頃はよくこんなふうにしてたっけ、と思いながら今に想いをよせる。


ーーーー仮にも小学生相手に、己の意見を右に左に転がす現状は正しいのか。


幼女君主に振り回される自分を嘆く遥だったが、そこに店員の一人がやって来た。


自分より若い女性スタッフだ。心配かけさせまいと振る舞う。


「ん、なに?」


「あの……ここにあったアイスティー、なんかものすっごくお酒臭いんですけど」


「え?」


それは詩葉が飲んだはずのアイスティーだ。


思えば、詩葉が妙な事を言い始めたのはこれを飲んでからな


確か頭数分を幼女君主に託したはずだったが。


まさかと思い、冷蔵庫をあける。


私物の火酒(ブランデー)の封が開いていた。


いくら詩葉でもそんなことまではしないし、場所も知らないし必用も無い。


心当たりは一人。


「何が狙いか知らないけど……そこまでするか」


遥は眉をひそめる。


あの幼女のわるーい笑みが、うんざりするほどくっきり浮かんだ。




修練所での計測からしばらく。


うずたかく積まれたのは、四人で練りに練った作戦書類。


流石に小学生が作ったものなので分厚さのわりに中身はスカスカなのだが……それでも四人で作り上げた対策の束だ。


だが。


「…………」


千里はその束を素直に受け入れる事ができなかった。


(なんか違う気がするんだよな……なんだこの違和感?)


時刻は既に夜。


合宿は一泊二日。明日は日曜であり、当日に遥=Ai−tubaユリカとの決戦が控えている。


その彼女は。


目の前に居た。


「ここはうちの店員が吹雪だの徹夜作業だのして帰れなかった場合に使う場所。今日は朝まで利用者は居ないからきがねなく使って」


「サンクス遥さん。……その、詩葉は」


「なんか知らないけど酔ってたわ。……全く、どこで飲んで来たんだか。……ねー良襖ちゃん?」


「さーてね」


童女と店主のやり取りの後、それじゃと彼女は去る。


「なあ」


「なーに千里?」


「今度挑む《試練》ってよ……『ユリカを楽しませたらクリア』……ふだったよな」


「そうね」


書類の中身の傾向はそうではない。


如何に効率良く勝つかのプランがいくつか載っていた。


もちろん、一番勝利に近いのは【重機王】を組む事だが。


「ほんとに……あの勝ち方で良いのかなってよ。勝つのにせいいっぱいで、あの人を楽しませる事なんてできないんじゃ無いかって不安になって来るのよ」


「そこはホラ。余力無き者に娯楽なしっていうか。相手を楽しませる余裕を作るには強くなきゃでしょう」


「…………」


否定はできない。


だが何かが違う。


しかし、そのなにかがわからない。


「よし、俺は寝るよ」


「あらおやすみ」


級友はもう眠る。


このまま、遥の前に冷たい鉄の塊を付き出して良いのか。


なにも答えを出せないまま、彼の期限は尽きようとして……








ボ ス ッ 。








「……………ん?」


気のせいかと思った。


しかし鈍い痛みがそうではないぞと告げていた。


「枕?」


「難しい顔をしていたゆえ。解そうではないかと思ったしだいにござる」


決意の眼差し。


丁場詩葉の目は、大いなる理不尽の連鎖に立ち向かう覚悟を決めていた。


「解すって……こんなもの投げられても」


「何をいうか。出先で枕投げの一つも行わずしてなんとする」


或葉は語る。


「いかんせん、先刻からどうにも深刻な顔ばかりしているように見える。そんな顔していては楽しむものも楽しめまい」


「でも……でもよ? 次の試練は『楽しませる事』が重要なんだぜ?」


「だからこそにござろう」


こともなげに或葉は言う。


「顔を突き合わせるカードゲーム。楽しむつもりも無い相手と戦い誰が楽しめようか」


「……あ」


言われてみればそのとおりだった。


ひょっとしたら、彼女は答えに最も近いのではないか。


いや、ひょっとしたら…………


「…………いい台詞じゃない。感動的ねぇ?」


そこに、水を差すような良襖の声。


「でも高く付くわ」


フンッと、喧嘩を売った代償を払わせる動きが飛ぶ。


しかし、飛翔した枕は或葉に掴み取られる。


「受け止めた!?」


「詩葉の筋トレに付き添うは誰と心得る。あの姉にしてこの妹ありと知るにござる」


「へぇ……ガチでやる気?」


「基準はわからん」


そうして、二人同時に枕を投げる。


シュ……ドゥ!!


「ぐっふ……結構良いの投げるじゃない」


「良襖こそ。なにやら信念を感じる投擲にござる」


騒ぎ出す彼らを見て。


現状をぶっこっわす糸口がそこにあるように感じられた。


なので。


「……よっと」


ヒュン……ドスッ。


「「…………うん?」」


手袋がわりに、枕をガッツリ投げつけてやる。


「俺も混ぜろってーの!!」


「無論、歓迎する!」


「かかってきなさい! オトコノコ相手だって負けないんだから!!」


幼き命のノリは良い。


三つ巴の戦いが始まった。





(或葉は、この枕投げで、心の解きほぐし以上の、俺達では伝えられないなにかをも伝えようとしている……)


騒がしさのなか、傍楽は状況を冷静に見ていた。


(なら……俺がやるべき事は一つ)


心中語り、枕飛び交う戦場から一時撤退する。


逃げたわけでは無い。断じて。

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