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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode6 絡めとる状況。千里vsユリカ!!
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合宿のスタンピード。魔王暗躍す!?

「どういうつもり!? この合宿はなんの用事で開いたわけ!?」


「ふふっ、さーてね?」


スタッフルーム。


合宿の舞台、遥のネットブース。


その裏の裏とも言える真っ暗がりの場所で、良襖は魔王・ヤガミヒフミとして『部下』の遥に接していた。


「遥さんの混乱はもっとも。だけどここでは口出し厳禁よ」


「……まさか、また『番外の試練』ってやつぅ?」


「ビンゴ」


遥が残念そうに言うと、良襖は自信満々に答えた。


「場外戦術はもうコリゴリなんだと思ってたけど?」


「こないだは『タギー』にえらい目に合わされたんだもの。あたしだって然るべき手は打つわ。

この合宿の『意図』までは見破らなくて良い。だけどあなたの《試練》の意図は把握してもらわなくっちゃあね」


「はぁ……別にほっといても良い気がするんだけど」


楽観的な遥に、良襖は指差し答える。


「あれ見てそう思う?」


「あれ?」


ドアの隙間から覗いてみる。


修業は既に始まっていた。


「げ」






一泊二日のドキドキ。


大いなる好敵手へ挑むワクワク。


それらが、三人の愛すべき者達を突き動かした。


「カードゲームとは心。心が折れた奴が負ける」


「心か……」


まずは詩葉。


集いし五人の中では唯一の大人。その意見には期待をしたい所だが。


「ならその心はなにが支えると思う? 肉体だ」


「うんわかる」


「健全なる精神は健全なる肉体に宿る。ならばトレーニングが最も重要と考える」


「うん?」


「つまりはだ!」


千里が疑問符を浮かべたのは正解だった。




バサァ!!


ムキィ!!


バ キ ィ !!




「ナイスバルクという訳だァ!!」


「何故そうなる!?」


スタイリッシュ脱衣。


仮にも大人の女性だというのに、スポーツウェア越しの色気を筋肉が上回っている。


驚愕に構わず語る。


「絵描きには筋肉なんて必用無いと思われがちだがそうじゃあ無い。肉体を鍛える事はすべての行動に通ずる!!

お前だって一度くらい、カードゲーム作品で筋トレやったりする描写を見ただろう!」


「あれギャグでやってるやつだよな!? 流石にわかるぞイマドキの小学生舐めんなよ!?」


「悪いがオレはそうは思わん。身体を鍛えると同時にカードゲームへの渇望を刺激する!

実に合理的じゃあないか!! さあ手始めにオレが考案した腹筋ドロークリックを」


「遥さんヘルプ!! 詩葉の奴が旅行先テンションでおかしくなってる!!」


「姉上一体どうし……ッ!? 臭う!? 酒ッ!?」


なにやら熱く語りながら女店主に引きずられていくプロテインの貴公子(女性)。……どうやら背もたれの無い椅子に腰かけて上体反らし→戻し→マウスクリックを繰り返す運動のようだが、失敗したら背骨を負傷するとともにマウスコードを引きちぎる羽目になるだろう。良い子もわるいこもマネしないように。


額に汗を浮かべながら、目線が隠れた少年は言う。


「……心配するなよ千里。俺が持ってきたのはあんな突飛なものじゃ無いからさ」


「頼む傍楽、お前の備えが頼りだぜ!!」


続いては千里の級友、風間傍楽。


自他ともに認めるビビりの彼は、反面もしもの時に備えるスペシャリストでもある。


「俺が思うに……カードゲームとは知識。膨大な知識を積み重ねた奴が勝つと俺は思うよ」


「知識……」


合点が行く意見。


思わず納得してしまったため。


「というわけで、一先ず【重機王】のページを見かけたから読んでみたら良いんじゃないか?」


「ん?」


差し出されたスマホの画面をつい見た。


見てしまった。





【重機王】


《マッチメイク・タンクローリー》と《キャリアス・ロードローラー》の二枚の効果を利用したコンボデッキ。方向性としては【5ターンキル】に該当する。


[概要]


上記二体を合成し、超級の行動力をもつマシンを着地させて二ターンかけて走り切る事を目的としたデッキ。

この合成のためには五枚のギア1をかき集める必用があり、このデッキの行動は主にそれに費やされる。先攻を取る事で妨害を阻止するためファーストマシンは《アメシスト・イーグル》で安定。ギミックには【マニュアルターボ】の一部を流用する事になるが、他にも【ダブルギア】の利用や《シュガー・マウンテン》のマシンの利用、他にもステアリングの空き枠を利用したギミックも用いられる。重要なのが 《パイクリート・サイドライド》の立ち回りで、ギア1としても2としても扱う特性を生かしたーーーー






「うぇぼろらろろろろろろじじじ!!?」


「すまん吐いたか。物量が物量、それも仕方ないが」


専門用語の暴力。


幼き頭脳が情報量に耐えかねパンクしたのだ。


戦いの希望故に忘れがちだが、仮にも彼らは小5である。人は中学生くらいで脳の理解力の成長が終わるらしいが、果たして彼らの小さな頭に『黎明期のカードゲーム』のwikiが解読できるだろうか。


激しく暑かりし決闘者達には信じられないだろうが、大概のカードゲームのwikiはごちゃごちゃして読みずらい。ことバーチャルカードゲームはそれが顕著で、まともに編集されてないゲームもちらほら見受けられる。


申し訳無さそうに傍楽は言う。


「気にするな、実は俺も吐いてろくに読めなかうぇぼろらろろろろろろじじじ」


「自分ができなかったこと人に勧めるんじゃねうぇぼろらろろろろろろじじじ!?」


完全なる自滅。


男子小学生二人が嘔吐するのを、冷えた瞳で見る影があった。


「しょーがないわね」


「「ん?」」


同時にです振り返る。


そこに居たのは赤毛の少女。


いわば必殺仕掛人。


「あたしが手本を見せたげるわ」


策略の源泉。


鳥文良襖が立ち上がる。






ところ変わってゲーム世界。


「カードゲームとは蓄積。一気にどうにかなるものじゃあない。

自分でコンボを考えて自分の意思で戦う。本来はそれが正しい姿なのよ」


「つまり、戦うしか無いって事か? 確かさっきは『ただ戦うだけじゃ足りないからもう一声なにかしよう』って話だった気がするけど」


青の領域【ラバーズサイバー】のサーキット、その終点で二人は語らう。


「そう。ただ戦うだけじゃ足りない。……だから、データを集めたのよ」


二人の周りには、うず高く積まれたルイズビットの群れがあった。


《百人切りの試練》達成後の彼らの役割は、訓練用の案山子に等しい。


しかし訓練相手として開放されたその実力は、ヘル・ディメンションに集うモヒカン達に勝るとも劣らないという。若干プレイングが機械的な節があるが……自分の原状を知るのにはピッタリなんだとか。


「これ見て。あなたが現在の構築にしてからの成績が出せるわ」


「?」


「メニュー画面を開いて右端の……そうそこ。出てるでしょ?」


そこには戦績や残り走行距離の内訳が表記されていた。


注目すべき一つに『81%』の表記が。


「勝率81%……? そんなに勝ってたのか俺!?」


「ええ。あなたの実力は、もはやそこいらのフリーじゃ相手にならないくらい上がっているわ。それに」


「それに?」


「戦績検索で出せる事だけど……あなたが【重機王】を完成させたレースでは必ず勝っている。つまり?」


「ユリカ戦でも重機王の完成に集中すればまず勝てる……?」


勝利への方程式は見つかった。


いや、既に手にしていた。


「ま、そーいうことね。だからよりその切り札を出しやすく、かつ活かすような構築を極めれば勝利は確実ね」


「お、おう……?」


とんとん拍子で進む話。


千里はそこに違和感を覚え始めていた。


だが、構わず鳥文良襖は続ける。


「とゆーわけで……コレあげるわ」


「へ?」


ぽいと投げ出されたのは、四枚を束ねたカードの束。


電子の浮力で千里の元まで届いた、それには見覚えがあった。






《アメシスト・イーグル》✝

ギア1マシン スカーレットローズ

POW2000 DEF2000 RUN5

【エスコート(このマシンをファーストマシンとして置いてレースを始めた場合、自分が先攻を得る。相手も同様の効果を使う場合は攻守の合計が高い方を優先する)】

【このマシンをセンターから捨て札へ/レース中一度】相手マシンの走行または攻撃を一つ無効にする。






「コレは……詩葉と戦った時のテストカード!」


「第二弾パックのカードよ。つまりは無事実装されたようね」


「なんでコレを俺に?」


「理由は二つ」


電子世界の月を背負い、少女は語る。


「一つは、そのマシンを使いこなすにはそのカードが愛称ピッタリだってこと。

往復三ターン目に呼べる切札。先攻を取ることで三ターン目を取れば相手はルイズみたいなギア4もギア3チューンも使えない。確実に詰み込められるわ」


恐ろしい事を語る。


悪魔のような魔王のささやき。


「そしてもう一つは……面白そうだから、かな?」


「面白そうって……」


「目の前の戦士がどこまで強くなるか。見てみたくならない?」


ニヤリと笑む良襖を見て、曖昧な笑みを返す千里。


(あれ……この合宿そんな話だっけ?)


なにかに違和感を感じるも、小さなその身は感情の正体に気づけない。






(……なにか、妙にござるの)


そして、違和感を感じる人間がここにも。


「なにゆえか。妙に嫌な予感がする」


ゲーム世界を見据え、デスクトップに向かう二人を眺め。


おかっぱ頭の丁場或葉は、なにかを恐れていた。


そして思うのだ。


(拙者に、できることはあるだろうか)


誰よりも等身大な少女は、静かに立ち上がろうとしていた。

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