向かうべき道。勧善懲悪のスタート!!
《百人切りの試練》の攻略に挑んでから数時間後。
詩葉のタダ券を使わせて貰い、一人用ブースでしっかりと仮眠を取った千里は再び《ヘル・ディメンション》を訪れていた。
そこには、思わぬ人物が居た。
「……しっかし。まさかここにお前が居るとはな良襖」
「しゃーないでしょ? なんでか顔出せって言われちゃったんだもの」
「『フレンド四人以上の参加が必須』……だもんなぁ……はてさてどんな難題が来ることやら」
赤毛の少女とともに待つ黒の荒野。シュガーマウンテンと違い、あまり人が居ないのは純粋に『戦うためだけの場所』だからだろうか。
「他のメンツは? 傍楽と或葉も来てるはずだけど」
「ああ、傍楽なら気合い入れておめかししてきた或葉の尊さに一撃ノックアウトされてた」
「は?」
「詩葉もその対応に追われてる。手作りお菓子の差し入れもあるって話だし、俺も覚悟決めないとな」
「……………………あの子、そんなにヒロインモンスターなの?」
「うん」
「うわぁ……」
身内がどんどん進化していくことに戦慄する良襖。もちろん一番のリアルモンスターはこのゲームを運営している彼女なのだが。
ともあれ。彼らは今、女王ユリカからの試練が降りるのを待っている状態だった。
一体何が来るんだろうなとワクワクを膨らませる千里に対し、試練の概要を知ってる良襖は気楽に構えていた。
(ま、今回は気軽に楽しませてもらうけど? なんせこの『かぐや姫の難題パート』はあたしの自信作だもの)
仕掛け人は心中で語る。
(序盤に訪れる街に配置した観光クエスト。手間と時間はかかるけどやりがいはあるし、各領域の紹介にもなる。
ま、一発でクリアできるかは五分五分だけど……まああんたもせいぜい楽しみなさいよ)
資質と精神は一人前。
誰かを楽しませようとする志は本物だった。
ただ経験が足りなかったり、幼い身体が労働に耐えられなかったり、幼女の労働自体が法律に引っかかるだけで…………彼女は本物の天才だったのだ。
そこへ。
轟音を鳴らし、女王が君臨する。
犬岸ユリカ。ヘル・ディメンションを統べる女王。
二人の前にバイクを止め、彼女は問う。
「……っと。元気にしてた? しもべ達」
「ああ元気してたよ。お陰様で」
「ごきげんようございます、女王」
ところで、と良襖が問う。
「それはそうと、あなたユリカさんじゃないわよね」
「な……………なーにいってんのよ。あたしこそがヘル・ディメンションの女王! しもべ達を優しくきつーく」
「今彼女の拠点からログインしてるんだけど」
「…………」
そうなのだ。今彼等が居る防音ブースはユリカこと遥も利用する収録スタジオなのだ。本物は今も下で忙しなく働いているはずだ。
だから、千里は代理が来るものと思っていたが…………
バリィイイイイ!!
「そうだす! ワタスが変な御旗チエカだす!!」
「お前かよ!?」
このゲームの看板娘の出現に辟易する千里。いや出てきてもいいが別のキャラを破りながらはやめてほしかった。
「なんでそんな事すんだよ驚くだろ!?」
「そりゃ驚かしてんだから驚いて貰わなきゃ困りますよ♪」
「失望したはチエカのファン辞めるわ」
「待てや!」
なんて茶番劇を、GMの良襖は砂を吐きながら見ていた。この下りは彼女の仕込みなのだ。
(……あんまし面白くないな次からやめよう)
「じゃー正体もバレちゃった事ですしさっさと試練を下しますね?」
居住いを正し、チエカが改めて試練を言い渡す。
彼女には難易度『強』のルートのどれかを紹介させる手筈だ。そこで失敗するも良し、是非はともかく気合い入れた観光として利用できれば…………
「星が終わるまで行ったり来たり。これなーんだ?」
一瞬、彼等が固まる。
「…………え、なにそれナゾナゾ?」
なんとか返す千里だったが、続く言葉は想像を絶した。
「この質問の答えを『現実の世界を巡って』」もって来て貰います!!
……………?????????????????
「ちょっと待った。そんなゲームあり?」
「では制限時間についてですが……」
「おいちょっと待てやオラァ!?」
千里の怒号に彼女は答える。
予定を乱された良襖も怒り心頭だ。
「ハイなんでしょう?」
「今日せっかくの休日だったんだぞ!? ガッツリプレイする気まんまんだったんだぞ!?
ムカつくぜなんで気持ちよくクリアさせねぇんだ!? 俺はスカッとするゲームをプレイしたいんだよ!!」
「あたしからも異議ありッッ!! なーにいってくれちゃってんの(゜Д゜)ハァ?!?」
「いうてワタシはこの試練を伝える為に来ただけですしねぇ?」
すっとぼけるチエカに良襖が詰め寄る。
小声で問い詰める。
(何やってんのよ予定と違うじゃないの!?)
(と言われても上の指示ですしねぇ……)
(あ? 上?)
(あー、今回のこの『かぐや姫の難題パート』ですが)
まとめるように、チエカが告げる。
(『支援者』サマ曰く「クリアさせる気は無い」との事です♪)
直後。
空白。
発火。
(ア"ッッッッッッ!??!?)
(もちろん理論上はクリア可能です。しかしジョーシキ的に考えて無理ですよねってだけで)
(同じでしょーがあ何処のた○しの挑戦状だってのよおおおおおおおお!!)
支援者。彼女がゲームを運営できるのもサーバーなどを用意した別の人物が居るからだ。
玉座が揺らぐ感覚。
積み上げたものが足元から抜き取られる恐怖を覚えた。
そんな事はお構いなしに、チエカは数歩下がり立ち去ろうとする。
(じゃ、試練の付き添いよろしくお願いします。ついでにパックカードのラフ案も練ってきて下さいね♪)
「いや待って、いやいや待て待て待ちなさい!! そんなクエスト認められるわけ……」
「ではではワタシはこのへんで。アデュー☆」
「あ゛っ!?」
声とともに消えてしまうチエカ。
立ち尽くす。
黒の荒野に、二人立ち尽くす。
どちらからでもなく、お互いを見やる。
「…………ねえ千里」
「どしたよ良襖」
「今の納得行く?」
「行くわけねーだろどちゃくそ馬鹿野郎」
脳細胞が爆裂する。
硬直が怒りによって溶ける。
「…………あッッッッッッッッッたま来たッッッ! こんなゴミクズ以前のクエストぶっ潰すわよ千里ッ!!!!」
「おーよ上等だ。あっちがその気ならその鼻っ面全力でぶっ壊す!!!!」
お互いに右手を出す。
「誓ったからには全力で行こうぜ。嘘ついたらハリセンボンな!!」
「いーでしょう。束の間の握手よ!!」
ガシィ! ……と。
二人の手と手は力強く握られた。
…………誰にも内緒の、歴史的なひととき。
勇者と魔王、その手が結ばれる瞬間である。
「…………ところで、なんで束の間?」
「あ? なんとなくよ」




