観察するスタートランナー!
チエカのカード紹介コーナー! 今回紹介しますのは《レッド・オポッサム》! ギアは1で、パワー4000、ディフェンス0、走力5! スクラップに置かれても自分ターンが来るたびに何度でも手札に戻ってきてくれるとっても良い子なんですよ! 今回はこの子が大活躍! 張り切って本編へGo!!
リーサルライド・ベーシック。
派手な見た目に合わず、そのステータスはパワー8000、ディフェンス7000と平均を取った一枚だ。
このカードはそれだけなのだが……
「ここでチューンカードのご紹介! チューンはレースを補助する為のカード!
マシン同様ギアが設定されていて、使用後は基本捨て札としてスクラップゾーンに置かれます!」
チュートリアルは続く。
講義とは思えない灼熱を帯びた講義は。
「ワタシはギア2のチューンカード《緊急サンプリング》を使用。手札のマシンカード《ブラッドハーレー》を捨てて三枚ドローします!」
「三枚……」
ここでセンリの目が光る。
彼はカードゲームと共に人生を歩んできたと言って間違いない。
センリは事前情報こそ見ない派だったが、プレイしながらこのゲームを地味に分析し続けていた。
このゲームにはマナプール…コストとして支払う為だけの存在が特にない。
そのため、ゲーム中で大きな行動を起こすにはその都度別口のコストを用意する必要がある。今のように、手札を捨てたりなど。
思えばギアを上げるだけでも多くの手札が要る。だからこそ、ただでさえどこでも強い手札補充はより強くなるはずだ。
処理は続く。
「とはいえそのまま手札には加えられません。ドローカードは公開し、コストにしたギア以下のカードは捨てなくてはいけません!
ワタシがドローしたのはギア2二枚にギア3の《リバイブ・クオーター》。コストはギア2のためクオーターだけはスクラップへ送ります」
「再生、かぁ…」
「そう、リバイブ。よーく覚えていてくださいね?」
ちょっぴり意地の悪い笑みを浮かべて計三枚のカードを破棄するチエカ。
アレは後で絶対に脅威になる。
「続いていでよ《メタルコートライダー》! この子はギア2ですが、センターに置けないデメリットがある分他の子よりちょーっと強いんですよ?
《メタルコート・ライダー》✝Metal_court_rider…
ギア2 スカーレット・ローズ/マシン
POW11000 DEF6000 RUN0
《ゲストカード(このマシンはセンターに置けない)》
《拘束(このマシンは場に疲労状態で置く。また、リペアフェイズにこのマシンは回復しない)》
◆『コスト・味方マシン一体の破壊』このカードを回復する。この効果は自分ターン毎に一度のみ使える。
「この手のカードはゲストカードって呼ばれています! そしてレッド・オポッサムも呼び出します!」
チエカの横に、赤い小柄のバイクと共にフルフェイスヘルメットを被った人間が乗ったバイクが出現する。
ステータスを確認する。
走力0は実質飾り。重要なのは11000もあるパワーと6000のディフェンスだ。
「さてと…では攻撃と行きましょうか! まずはワタシのホワイトエッグでアナタのホワイトエッグを攻撃!」
「!?」
「ここでバトルのルールをご紹介。攻撃側のパワーと防御側のディフェンスを比べて勝った方を破壊!」
Draw エッグPOW4000VS4000DEFエッグ Draw
「ホワイトエッグの攻守は共に4000なので、相討ちで両方を破壊ですね♪」
「? なんで、パワーの高いメタルコートが居るのにわざわざ相討ちを狙うんだ…?」
「気になります?」
互いの領域でホワイトエッグが爆散する。
「ホワイトエッグには破壊されたとき、手札を見せて場にも手札にも存在しないギアを持つマシンを手札に加える能力があるんですよ♪」
「げ!?」
センリは驚愕した。デッキの順番が同じなら自分の次のドローは最大三枚のカードを引ける《緊急サンプリング》のはずなのだ。
サーチを行うという事は、その後は当然シャッフルをしなければならないわけで……
(デッキトップが変わって引けなくなる⁉)
「まだ行動は固定中です! アナタはギア4の《ブラック・グリズリー》を加えてください。
そしてワタシは同じくギア4の、今回の賞品を先取りします!」
「ちょ⁉」
チエカの手札に加わったのは《勝利の導き手チエカ》。
「賞品って……アンタかよ!?」
「イエース! ナイスリアクションです! 前情報ナシの子は反応が良くてありがたい限りです!」
「ちらっとテキスト見たけどなんか強い事いっぱい書いてなかったか⁉ 二回行動とか走力20とか破壊から復活とか!」
「そらまあギア4ですし。看板も背負ってますし♪」
「……なー気になってたんだけどよー。ひょっとしなくてもさっきから不利な事ばかり起こってないか? ていうかぶっちゃけコレ……」
「勝てないようにできているのでは、ですか?」
「……!!」
「……ショージキそういう難易度設定だったんですよ」
「…………」
走る看板は語り始める。
「例えばRPGの途中で、こちらが出せる火力ペースの限界を超えて回復しながら襲ってくるラスボスのように。
例えばアクションゲームのシナリオで、HPバーの途中までしか削れない初見の敵のように。
ここでのワタシの役割は一度新規ユーザーを容赦無く倒し、その反骨精神を焚き付け火を灯す事。
ぶっちゃけこのチュートリアルだけではまだ情報が足りません。細かい穴埋めはゲーム中の別の方が担当し、ワタシはヘイトを引き付けゲームの奥の方に君臨するって寸法です」
センリは知らなかったが、スタンピードのチュートリアルの鬼畜加減ははネットでも語りぐさだった。
『残念賞を受け取る為にあるイベント』
『四ターンかけてじわじわ調理されてる』
『負けイベにも程がある』
などなど。
「しかし困った事に、現在ここでのリベンジを果たす唯一の機会……フリークエストのワタシは、サービス開始時点のカードプールで理論上最強のデッキを組んで立ちはだかります。
……だからこそ、このチュートリアルを攻略してさっさと賞品を受け取ってしまおうという方があとを絶ちませんね」
「うっわ…」
「って言っても実際は一度のチャンスで成功させるには無理ゲーですし、無理はしない方が賢明かと思います。
フリクエのワタシにはタダで何度でも挑めますし、他にここと同じ賞品を受け取る手段なら無くもありませんし」
「…………」
確かに、それは賢明な判断かも知れない。
ここでぐだ付くよりも、取り敢えず飛び込んでから実力を蓄えてリベンジするのは妥当な選択だろう。
だが。
それをわかった上で甘んじる事は正しい選択なのか?
「……ではでは最後の攻撃と参りましょう。メタルコート・ライダーでレッド・オポッサムを攻撃!
攻撃時のコストとしてワタシのレッド・オポッサムを破壊!!」
「うっ!?」
テンションを戻したチエカがレースを再開する。
WIN メタルコートPOW11000vs 0DEFオポッサム LOSE
爆散する。
「さ、ら、に手札からチューン《リサイクル・スパナ》発動!!」
《バイオマス・ブースト》
ギア2 ステアリング/チューン
◆このターンに破壊された自分マシンの枚数だけドローする(上限は二枚まで)。その後、自分はドロー枚数×5の距離を走行する。
「これで私は二枚ドローの10キロ走行。ちょっと先いってますね♪」
「…………」
チエカ残り走行距離……85→75
「これにてワタシはターンエンド! そして行動の拘束も解除! さあさここからは自由に戦術を組み立ててワタシに挑んで下さいね♪」
「……俺のターン、ドロー」
「ここでアナタのスクラップの《レッド・オポッサム》の効果が自動発動。アナタの手札に戻ります!」
センリは静かにカードを引く。
ドローカードはギア3《ダイナモ・アーミー》だ。
「……………」
冷静に、今までの情報を整理する。
このゲームの基本的な流れはこうだ。
センターマシンのギアを上げる。
↓
横にも強いギアを並べられるようになるので出す。
↓
センターを入れ替えながら走るor相手のマシンを攻撃して攻め手を削ぐ
↓
上の三手順を繰り返し、相手より先に100キロ走りゴールする。
このゲームにも基本的な戦術、定石と呼べる物はある。
それをこのチュートリアルで説明しきれているとは相手も思っていまい。
(いくつかあるよな。説明してない事も…ちょっとばかり無駄な物も)
センリは、己が乗る亀のようなマシンを睨んだ。
「俺はグリーン・タートルで疾走」
センリのマシンがぐっと進む。
「続いて、俺も《ゴールデン・ハイウェイキッド》を呼ぶぜ」
「なるほどそしてまたまた走りますと!」
「いや違う」
「はい?」
きょとん顔が映るディスプレイに言ってやる。
「アンタのセンターを破壊する!」
「!!」
「来やがれ、レッド・オポッサム!」
戦場に、再び赤く小柄なバイクが出現する。
「これで、アンタのセンターをぶっ倒す準備は整ったはずだ」
「まったまた〜ハイウェイキッドはパワーよりディフェンスの方が3000も高いんですよ? 同じカードの攻撃で倒せるわけが」
「連携攻撃」
「!」
「あるよなそのルール。センターを潰せなきゃ簡単に詰む以上、ステータスを上げる手段が他に無くっちゃあ嘘なんだ。
オポッサムのパワーは4000。ハイウェイキッドと連携すりゃあなんとか勝てるんじゃないか? ……ほら」
ハイウェイキッドでの行動選択画面に《走る》《攻撃》の他に《連携攻撃》の項もあった。
おそらくは二体以上並べて初めて出現する選択肢。気付かずハイウェイキッドだけで走っていたらそれまでだっただろう。
「ハイウェイキッドとオポッサム、二体でアンタのハイウェイキッドを攻撃!」
「へぇ!」
WIN 連携POW10000vs9000DEFハイウェイキット LOSE
オポッサムとキッドの合計パワーは10000。9000のディフェンスを一方的に破壊する。
と同時に、横に居たメタルコート・ライダーが手札に戻っていく。
「……センターのギアが下がると、それ以上のギアを持つマシンは手札に戻る、と……」
「あのー、ひょっとして今の狙ってやりました?」
「さーってな。続いて重ね来やがれ! センターにギア3《グレイトフル・トレイン》を設置!」
《グレイトフル・トレイン》✝The_great_full_train…
ギア3 スカーレット・ローズ/マシン
POW10000 DEF10000 RUN15
◆『自身がセンターである/コスト・自分の場のギア1を自身の下に置く』このマシンのステータスに、コストカードのステータスを加える。
「コイツにはいい効果があるな? 一ターンに一度、コース上のギア1を自分の下に重ねればそのステータスを吸収できる! 俺はオポッサムを吸収!」
長大な列車が君臨する。
それが赤いオーラを纏う。このターンのみ、トレインの走力は元々の15+5で…
「合計20キロ! いざ《走行》だ!」
「……ナイスです!」
千里残り走行距離……85→65
センリがチエカを追い抜く。
現在35キロ地点。
センリは山道の頂上付近まで来ていた。
景色が広がる。
「…………!!」
それは虹の国だ。
センリ達が走るコースの彼方、天上の太陽から七色の光が降り注ぐ。
見慣れた街並みがあった。
魔法の世界があった。
幾何学の未来都市があった。
古の遺跡があった。
将軍が住んでそうな城があった。
電子の領域があった。
「コレがこの世界の姿です」
チエカの声が響く。
「現在この世界は7つの領域に別れていて、それぞれの領域に一種類ずつ、ゲームを楽しむ為に必要なカードが隠されています」
「それってつまり、アンタのカード含めて……」
「そう。《必勝!ウイニングチェッカー!!》」
「!?」
「さっき見せたワタシ自身のカード《勝利の導き手チエカ》は残念賞。ホントに残念賞もイイトコなんですよ?
だってウイニングチェッカーは、レースで使うとワタシを一枚作成するカードですから。
それを売り飛ばし、獲得した通貨でパックを買う為に必要なんです」
「そんな……」
「同情はノーセンキューです」
言葉に重みが増す。
ゲーム内モニターに映るチエカの瞳の輝きが強まる。
「元よりワタシはゲームと運命を共にする、しがないバーチャルNtuba。
売り飛ばされる為の存在だからなんだってんです? 量産品上等。それでバズればオールオッケー!
ワタシは今、とびっきり『恵まれてる』んですから。
愛嬌アピールならいざ知らず、自分の分身が換金チケット扱いだからって、いちいち本気で悲しんでる場合じゃあありません!」
「アンタ……」
「……ちょっと、喋り過ぎちゃいましたね。さて、アナタは多くの手札を残して居ますが、まだ行動しますか?」
「いや、やめとくわターンエンド」
「ほうほう、なんでまた?」
「『ギア上げ事故は悲惨』なんだろ?」
「……ザッツライ!」
センリはふと、液晶の向こうがどうなっているのかが気になった。
これだけの会話を、簡単なAiだけで済ませられるとは思えない。
だとしたらやっぱり、液晶の向こうには複数の「魂」が居て彼女はそのうちの一人なのだろうか。
それとも。
もしかしたら。
「ではではワタシのターン! ドロー!!」
相手の事情を気にしている場合ではない。
戦いは続く。
おそらく次が正念場。
彼女が来る。
笑顔をもって討ちにかかる彼女の分身がやってくる。
「まずは捨て札のレッド・オポッサムを手札に戻しそのまま呼び出し。そして……」
「待っただぜ? グレイトフル・トレインの効果発動! アンタのレッド・オポッサムをトレインに重ねるぜ!」
「あっちゃー……それやられちゃいましたか」
チエカが困ったような、何故か少し嬉しいような、曖昧な表情を灯す。
戦うからには全力だ。
「ではワタシはこのままグリーン・タートルで走行!」
チエカ残り走行距離……75→70
チエカが進む。
センリに迫る。
「続いて重ねいでよ! センターにギア2《クリスタル・ミラー》! 当然走ります!」
チエカ残り走行距離………70→60
センリを追い越す。
「続いて捨て札の《リバイブ・クオーター》の効果! 自分のセンターのギア2が行動に成功した場合、捨て札のこのマシンを重ねて呼び出せます!」
「!!」
警戒していた通りの展開になった。
「復活せよ、リバイブ・クオーター!」
それは古錆びた四輪。
首をもたげる巨大な作業車両。
《リバイブ・クォーター》
ギア3 スカーレット・ローズ/マシン
POW10000 DEF10000 RUN0
◆『自分のギア2センターが行動終了/このカードが捨て札に存在する』このマシンをセンターの上に重ねる。
◆『このマシンがセンターに置かれている/他のマシンが存在する』????????????
走れるとは思えないそれは、やはり走力0だった。
「リバイブ・クオーターはパワー・ディフェンス共に0。ここは動けませんね」
だが置かれたことに意味がある。
「そしてここらで呼び出し! 先程手札に戻った《メタルコート・ライダー!》」
「?」
再び戦場に現れたフルフェイスメットのライダーを見て、センリは訝しむ。
「そいつは味方一体を破壊しないと攻撃できないんじゃ…?」
「正確には、センターまたは行動してないマシン一枚ですね。確かにこのまま攻撃するのは難しいですが無駄とは限りません!
リバイブ・クオーターには、味方のマシンが一枚でもあれば「ギア4扱いになる」能力が備わっているのです!」
「マジで!?」
基本ルールの一つ。ゴーストマシンにはセンターのギアを超えるマシンを置けない。
センターにギア4があれば、もちろん隣にもギア4を置ける訳だ。
ギア4。
彼女が来る。
「ではでは、待望のお披露目と行きましょうか! 呼び出しいでよーーーー」
「来るか!」
「ーーーーギア4のワタシの分身! 《勝利の導き手チエカ》堂々散臨でっす!!」
戦場に。
二人のチエカが並び駆ける。
「さあさクライマックスはもう目前! 終幕を楽しんで行きましょう!!」
「ったく…ずいぶんと早いクライマックスだなオイ!!」
情熱が赤熱を帯びる。
鼓動が高まる。
感情が爆裂する。
鮮やかな桃色の空の下で。
決着は、もうすぐそこだ。
ゴールまでの距離……チエカ60キロ
センリ65キロ
次回、「決着。センリvsチエカ」。ワタシ達の走り、見届けてください!