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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
Episode.4 試練開幕! ???vsユリカ!!
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決着整理。バトルログ・チューニング。

「詩葉ァ!!」


「だから……こっちで本名呼ぶなって…………」


ゴール地点。


廃虚の街のゴール地点で詩葉を出迎える。


届かなかった。


詩葉が全力を出しても足りなかった。


彼女の力はそれほどまでに凄まじかった。


彼女の戦いは決してずさんなものでは無かった筈だ。


大悪魔を軸とした立ち回り。その取り回しは見事であった筈だ。


ただ。


威風堂々と佇む女王が、それを上回っただけだ。


「さて」


切り込むように彼女が言う。


「試練の合否判定に移らせてもらうわよ?」


ハッとした。


そうだ。この試練は勝敗で決まるのではない。あくまでも『ユリカがレース内容に満足すればクリア』なのだ。


だが。


(正規ルートとは違う誘いに乗っちまった詩葉さんに、合格は)


「本来、あたしの誘惑に屈した時点で合格の権利は無い。…………でも今回、それについては不問とする」


目が覚めるような回答。


ユリカはそのまま続ける。


「勝ちの目の無い戦いに自ら挑み……袋小路を承知で、あたしがキッカリ決める未来の為に最後の走行に踏み切った。

その根底には、己の身を崩してでも目指す未来を掴まんとする思いを感じた。その尊い精神には敬意を表するわ」


「じゃ……じゃあ」


「だ、け、ど」


その上で、ユリカは突き放す。


「最後の方でアナタは相棒の方を向いていた。対戦者のあたしじゃない方を。

レースは常に一対一の真剣勝負。『事情』は理解して余りあるけど…………やっぱり、寂しかったかな」


刹那、表情が揺れた。


「ーーーーま、トーゼンよねぇ?」


語るのは、千里と同じく観客席から降りた良襖だ。


「誰だって、ゲームの最中に他所に気をやってたら気に触る。

千里。アンタだってゲーム中に電話されたりオヤツ食べだされたら嫌でしょ?」


「……そりゃあな」


「そゆこと♪」


どこか楽しげに、良襖は()()()()()()()()()()()()()()()促す。


「さ、ユリカさん。()()()()()()()()()()()()()()()()、結果は出ました。言っちゃってください」


「……そーね」


ため息一つ、()()()()()()()()()()()()からのパワハラもどきに答える。


どのみち結果は変わらない。


「ーーーー結論。《娯楽恐悦の試練》は『失敗』よ」


残酷な帰結。


されど、それに異を唱える者は居なかった。






そしてリアルに帰還する。


思えばカオスな絵面である。千里は美少女と化しているし詩葉も普段よりちょっぴり女っぽいし、マアラに至ってはゲームまんまのコスプレ中だ。地味にサッカーユニフォームまんまだった傍楽も妙に痛い。うつむいた遥を他所に、良襖はカフェラテを啜っていた。


だがこの気まずさは、その視覚情報を持ってしても相殺しきれたかどうか。


「……………帰るぞ」


気まずい空気の中、詩葉は告げる。


「もうかなり遅い。一旦家に帰り、体制を立て直す必要がある」


「あの……」


「何も言うな、千里」


後ろめたげな声。


なまじ一度希望を得てしまったが故の落差。己の姿勢に染み付いた過ちが今、彼女を内から責め立てていた。


有効な言葉は出ない。


言えたのは一言。


「そっすね……」


ただ、同意する言葉だけだった。





夜風吹く中彼らは歩く。


「なー、お前運営の肩持ちすぎじゃねー?」


「かーもね。あのスバラシー論文とアップデートの真摯さに感動しちゃったものー」


「ったく……或葉の心がかかってるんだぞ?」


「べっつに。なんとかなると思うけどねあたしは。……じゃ、あたしこっちだから」


星空の下。


良襖と別れた千里と詩葉は、黒に落ちた住宅街を歩いていた。


既に傍楽やマアラの姿は無い。傍楽は習い事に行くため駅に向かったし、マアラに至っては逃げるようにタクシーを呼んで帰ってしまった。


勇気を出して、千里は相棒に問う。


「詩葉さん……」


「なんだ」


「さっきの、彼女云々の話ですけど…………」


()()()()()()()


忌々しげに詩葉は言う。


煙草の箱を叩き、一本取り出す。


「と言っても『元』だがな。だいぶ前に別れちまったよ」


「元……? なんで。店に来た時は抱き合うくらい仲良かったのに……」


「愛する『イチバン』が別に居るからだ」


一服ふかし、詩葉は言う。


「オレは或葉。あいつはあの店。お互いに別の物をイチバンに置いてて上手く行くはずもない。

……どちらからともなく別れていたよ。たまに会うくらいが丁度良かったんだ」


「そんな調子で……大丈夫っすか、これからの戦い」


ただでさえ拗れた関係に、追い討ちをかけるようにのし掛かる『遥=敵幹部ユリカ』の事実。


居心地の悪さは想像が及ぶ筈もない。


それでも。


「大丈夫だ」


煙草を深く吸い込み、語る。


虚勢を張るように。


「オレは、大丈夫だ。オレよりもお前自身の心配をしろ。お前は勝たなきゃなんだからな」


詩葉は大人として、己を切り売る道を歩んでいた。


だが、千里はそれを見て思うのだ。


(そっくりだ)


一途で気配り屋。通す我にしても誰かに向けたもの。


己の損害を省みず、持てる能力を尽くして事態を切り開く。


(或葉とアンタ。やっぱり姉妹だよ)


なんとかしなければならない。


性分として、彼女達は逃げられない。このまま放っておいたら、この姉妹は事態の重さに耐えかねて潰れてしまう。


だが。


(いったい、どうすれば良いんだ……?)


少年は、その答えをすぐには出せなかった。

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