肖像の切り売り。 シルヴァvsユリカ後編!!
《剛鬼の狩り手ルイズ》✝
ギア4 ステアリング/マシン
POW 0 DEF20000 RUN15
【デミ・ゲストカード】【二回行動】
【ゴールキーパー(相手が残り走行距離を0にするとき、このマシンを手札から呼び出せる)】
【このカードの登場時】相手の残り走行距離を40増やす。また、このマシンは三度目の戦闘まで【進路妨害】を得る。
ビルをも超える巨影に圧倒される。
「あれが…………ルイズのカード」
「どうだ!! 圧倒されたか!! 向かい合うと更にヤバイ迫力だぞ!!」
「スゲー予想付くわ……初対面が味方側で良かった」
「そりゃあ何より。……じゃあ行くぞユリカッ!!」
一瞥。
ユリカへと鋭い視線が飛ぶ。
「ルイズの効果! お前を40キロ後方に投げ飛ばす!!
《グレイテスト・スロウッッッッ》!!」
剛腕が彼方に向かう。
錆狼が豆粒に見える程の拳が迫る。
「む」
ユリカが乗る錆鋼の狼が投げ飛ばされる。
「…………ふーん?」
ユリカ残り走行距離……5→45
遥か高みを超す飛翔。
落下し、数度横転しかけるも、持ち直し走行を再開する。
その行く手に、巨影が立ち塞がる。
「チ……」
キィ…………とブレーキをかける。
そこには瑠璃色の巨躯がギッチリ詰まっていた。
「…………同僚とここまで真正面から打ち合う職業も珍しいわ」
忌々しげに吐き捨てた所に、シルヴァフィアからの声がかかる。
「……これでお前は走行不能!! そしてこのマシンしか攻撃できない!! このマシンが存在する限りデットヒートも無効だ!!」
「確かに、ちょっと厄介かもね」
しっかりと見据えながら、それでもハッと笑い飛ばす。
「でもまだまだよ!! ーーーー虐げるは愛の鞭。支配するは抱擁の両碗。
千遠火よ恐怖せよ! 女君主はここに有り! 地獄の炎に恐れおののけッッッッ!!」
爆炎が漲る。
巨龍の首が二つ這い出る。
そしてその背に。
「現われなさいあたしの肖像。《極上の乗り手ユリカ》ッッ!!」
短髪姫の分身が現れる。
《極上の乗り手ユリカ》✝
ギア4 ヘル・ディメンション/マシン
POW16000 DEF9000 POW20
【デミ・ゲストカード】
【自分のセンターがギア4である】このマシンをセンターに重ねる事ができる。
【バトル開始時/センター一枚を横に】バトル終了まで対象の攻守と走力を追加で得る。
【デットヒート20】(相手の場に《進路妨害》が存在せず、相手が走行するたび、自分の残り走行距離を20減らす。【デットヒート】は最も高い数値のみを適用する)
千里が恐れ慄く。
「デットヒート20……流石Ai‐tubrってわけか」
「あたしの効果発動!! センターの下に置かれた《スケイル・ケイロン》をタップしてそのステータスを得る!!」
ユリカATK……16000+10000=26000!!
「これで踏み潰してやれるわ!! あたしの攻撃! 《フレイル・ヒール・ヘル》ッッッッ!!」
分身が飛び立つ。
空の彼方で反転し、加速墜落すると共に、着弾地点にしもべの龍たちの炎がかかる。
一閃。
ーーーーZUGAAAAAAA!!
ヒールの一撃は赤熱した装甲を砕き、道を切り拓く。
Ai−tuba対決は彼女に軍配。
蒼き鋼の雨をかいくぐり詰め手に移る。
「これで最後よ! スティージュ・ローラーで走行!!」
ユリカ残り走行距離……45→25
再びの逆転。
大悪魔の上から、豪速が駆ける姿を見下ろすシルヴァフィア。
次で終わる。
その確信はあった。
しかしあっさりと。
「これで……あたしはターンエンドよ」
あっさりと、ターンの手網は離された。
「……ふーん?」
「………………………………しの……………いだ?」
状況をよくわかっていない千里には、絶対絶命のピンチをしのいだようにしか見えない。
「凌いだんだ! すげぇよ……ユリカさんのデットヒート値は20! でも走らなきゃいけないのは25! より多くの走行距離があるままターンを終わらせたんだ!! 後は鬼デカいスペックの大悪魔で走るだけだ!」
「…………」
「詩葉……さん?」
「千里」
はしゃぐ彼とは対象的に。
詩葉は全てを理解していた。
だからただ、静かに。
シルヴァフィア……詩葉が千里の顔を真っ直ぐに見据え言う。
「見逃すなよ。これから起こることを良く覚えておくんだ」
「…………?」
託すように言う。
そして。
「オレのターン、ドロー……ウイニングラン!! 大悪魔サタンで走行!!」
そうして決着をつける一手が打たれ。
ザク…………と。
ユリカの胸部から刃が突き出た。
「!?」
唐突な光景に当惑する。
詩葉のカードの仕業ではない。
犯人はーーーー彼女の愛機。
巨大な口と、圧し潰すようなローラーが目立つ骨と腐肉の紅き怪物。
《スティージュ・ローラー》✝
ギア4 ヘル・ディメンション/マシン
POW10000 DEF13000 RUN20
【デットヒート10】
【一ターンに一度/【デッドヒート】を持つ自分マシン一枚を破壊】次の相手ターン終了まで、対象のデットヒート値を自身に加え、このマシンは破壊されない。
「まさか……アンタまさか!!」
「そーよ……あたしは自分自身の肖像……《極上の乗り手ユリカ》をローラーの破壊対象にしたの」
分身が消失する。
骨触碗一本に突き下げられたユリカの体が、スティージュ・ローラーの口元まで運ばれ…………
「スティージュ・ローラー…………喰らいなさい!!」
ーーーーバクン!! バギグジュゴグチャア!!
「あああああああああぁああああ!?」
ローラーDH値……10→30!!
「くべやがった……!? 自分自身のカードを、他のしもべに!!」
「……これが、大人のやりかたよ…………。時に、なんで最新のスキルを、初期実装のあたしが持っていると思う……?」
「!? ……あ!?」
口元からの問いに驚愕するも……言われてみればそうだと思った。
時系列が合わない。デットヒートが後にから作られたのなら、彼女が持っているはずないが……いや。
「まさか……逆なのか。デットヒートは『アンタの固有効果』だった……!?」
「ごめーとー。就任の時に自分のイメージ書いてくれって言われてね。このカードはそのイメージを元に作られたカードよ」
ちょっとばかり寂しげにユリカは言う。
「でもその効果が、このゲームのイメージにドンピシャだったみたいでね。
固有能力が【デットヒート】に再定義されて独自性を失うって言われたとき…………あたしはとっとと手放したわ……。独占する事は、このゲームの為にならないからよ………」
「でも……それじゃアンタ自身の立場が!」
「そんなのはどーだって良いのよ」
意思は揺るがない。
胸を突かれ、咀嚼され、血を吹き血を吐きながらも、大アギトの内から睨める目は真っ直ぐ相手に向いていた。
「一つ教えてあげるわボーヤ! 『大人になる』ということは! 自分のイチバンの為に己を切り売りをできるようになると言うことよ!!!
あたしの今のイチバンはお店そのもの! それを守るためなら心血くらいリッター単位で注いでみせるわ!!」
「ユリカ……さん…………」
凄まじい覚悟に圧倒される。
そうして結末は訪れる。
「デットヒートウイニング!! 《スティージュ・ローラー》で疾走ッ!!」
大悪魔の飛翔に合わせ剛輪が駆ける。
大悪魔に追いつかれる事は無い。
伸ばしたその手は届かない。
その影はわずかに先をゆく。
「ーーーーーーーー遥……っ」
悔しげな声が最後だった。
ユリカ残り走行距離……DHにより25→0=GOAL!!
一手の差こそが圧倒的。
七天の一人は、その力を遺憾なく振るい勝利した。
「ーーーーーーーーブラボー!!」
嬉しげなマアラと、一応はと傍楽が拍手を送る中。
観客席から、一人の少女が勝利を讃えた。
長らく応援していたファンのように。
あるいは…………彼女を雇う主のように。




