礎のデットヒート。シルヴァvsユリカ前編!!
烈風が吹きすさぶ。
豪速の世界での戦い。
「……一時間につき税抜き500円、三時間割でも1000円ちょい、か。ゼータクな決戦だぜ」
並走する観客席の上。
千里はぼやきながら、二人の決戦を眺める。
眼下では、因縁の二人の決戦が始まっていた。
短髪姫が高らかに叫ぶ。
「先攻は頂くわ!! あたしは《絶桃のラッシュシード》で疾走!!」
ユリカ残り走行距離……100→95
「ターンエンド! ラッシュシードのデメリットで手札を一枚捨てる!!」
《絶桃のラッシュシード》✝
ギア1 ステアリング/マシン
POW3000 DEF3000 RUN5
【自分エンドフェイズ時】可能なら、自分の手札一枚を捨てる。
【デットヒート10】
「……………?」
並走する足場の上。確認したカードテキストを見て、千里が疑問符を浮かべる。
大したスペックでも無いのに、何故毎ターン手札一枚という重いコストが必要なのか。三枚しか入れられないステアリングの枠を、貴重なファーストマシンの枠を潰してまで入れるべきカードなのだろうか?
だが気になるのは見たこと無い効果……【デットヒート10】の記述だ。
「なんだ? デメリットが霞むくらいスゲー効果なのか……?」
「オレのターン! ドロー!!」
ターンが移る。
詩葉=シルヴァフィアのターンだ。
「オレは《スカル・スクラップ》の効果を使用。手札を一枚捨てて二枚を引く!」
《スカル・スクラップ》✝
ギア1マシン ヘルディメンション
POW3000 DEF3000 RUN10
【1ターンに一度/手札を一枚捨てる】カードを二枚ドローする。
「更にセンターに重ねいでよ《ガードナ・ケルベロス》!! 続いて並べ《デスブラッド・インジェクター》!!」
《ガードナ・ケルベロス》✝
ギア2 ヘル・ディメンション/マシン
POW5000 DEF5000 RUN10
【手札一枚を捨てる】《ガードナ・ケルベロス》一枚を生成し、場に疲労状態で置く。
【常時】《ガードナ・ケルベロス》は場に三枚までしか設置できない。
《デスブラッド・インジェクター》✝
ギア2マシン ヘルディメンション
POW4000 DEF7000 RUN10
【ゲストカード(このマシンはセンターに置けない)】
【常時】自分の場にマシンが疲労状態で置かれた場合、対象を走力+5して回復する。
「ガードナ・ケルベロスの効果! オレの手札二枚を捨てて新たにケルベロス二体を作成!
そしてデスブラッド・インジェクターの効果で強化回復する!!」
古びた救急車から飛び出したのは、巨大な注射器を構えたゾンビナース達。
疲労したケルベロス達に突き刺す。
目が紅く漲る。
ーーーーーーーRUOOOOOOOOOON!!
咆哮。
悩むような一拍の間。
「……?」
その意図を千里が察しないまま、詩葉は覚悟を決めたように動く。
「……行くぞ。強化回復したケルベロスで走行!!」
シルヴァの大狼が跳躍するとともに。
ユリカのマシンが加速する。
「…………え?」
ユリカ残り走行距離………………………95→85
シルヴァフィア残り走行距離……100→85
「!?」
詩葉の走りが反映される前にユリカが動いた。
抜かされまいと駆けるレーサーそのものだ。
両者が並ぶ。
駆動音が共鳴する。
「なんだ…………何が起きた!?」
「…………」
困惑する千里とは対照的に、詩葉は冷静に次の手を打つ。
「続いて最初に設置したケルベロスで走行!」
「はんっ!」
詩葉のケルベロスがが入れ替わり駆ける。
やはりピッタリ付いていく。
廃墟の街を二台のマシンが並走する。
骸が跳ね飛ばされていく。
ーーーーKIIIIIIIIII…………………!!
ユリカ残り走行距離……………………85→75
シルヴァフィア残り走行距離……85→75
コーナーを曲がったところでユリカが語りだす。
「……お店の経営ってケッコーしんどいのよね。監視を緩めたらすぐトラブル起きるし、自由な時間も経営方針の事で頭イッパイになっちゃうしー」
「?」
「でもそれって、そのぶん誰かの気が休まるってワケでしょ。そーやってそこそこ世間サマに貢献できたら、それはそれで悪くない人生じゃないかなって、そう思うのよッ!!」
シルヴァの疑問を置き去りに、ユリカが更に前にゆこうとする。
「チ……させるか!! 最後のケルベロスで走行!
同時に手札から《バリアブルグリップ》を起動!! ケルベロス二体を選択して効果を得る!」
《バリアブルグリップ》✝
ギア2チューン ヘルディメンション
【自分マシンを任意の数選択】コストカードをエンドフェイズに破壊する。また、選択枚数によってこのカードは以下の効果を得る。
●一枚以上・コストカードのうち一枚の走力を5追加する。
●二枚以上・自分は破壊したコストカードの枚数分ドローする。
●三枚以上・次の自分ターン開始時、山札から名前に『大悪魔』を含むマシン一枚を選んでセンターに重ねる。この効果はセンターがギア3以上でなければ使用できない。
「効果により二枚のドローが確定! 更にケルベロスの走力をアップする!!」
「ふーん?」
ユリカも食い下がるが…………詩葉のほうが走力が高い。
ようやく突き放し、先へとかけていく。
ユリカ残り走行距離……………………75→65
シルヴァフィア残り走行距離……75→55
「ハァ……俺はこれでターンエンド! 二体のケルベロスは破壊されて二枚のドロー。残りはルールにより手札に戻す!!」
爆散。
荒れ狂う粉塵の中、忌々しげに吐き捨てる詩葉。
その流れに、千里はついていけてない。
「今……何が起こってたんだ?」
ゲームは続く。
一人の少年を置き去ったまま。
「ーーあたしのターン! カードドロー!!」
前のターン、ユリカは特にカードを切っていない。
ここからが彼女の本番だ。
「まずは《絶桃のラッシュシード》で走行!」
ユリカ残り走行距離……65→60
「さあ、来なさいあたしのしもべ達! センターに《スケイル・ケイロン》! さらに《キルハルピュイア》!!」
奇声が上がる。
奇っ怪な鳥女と骨だけの半人半馬が現れる。
「そして設置チューン《咎人の樹》! これでこのカードが場にある限り、ハルピュイアだけは何度破壊されても再出現する!」
「!!」
大樹のシルエットが浮かぶ。
ひらり舞う木の葉をハルピュイアが啄んだ。
《キルハルピュイア》✝
ギア2 ヘル・ディメンション/マシン
POW5000 DEF5000 RUN5
【進路妨害(相手は進路妨害持ちを優先して攻撃する)】
【このカードの破壊時】カードを一枚引く。
《咎人の樹》✝
ギア1チューン【設置】 ヘルディメンション
【使用コスト・手札一枚を捨てる、または場にキルハルピュイアが存在】
【設置(このチューンは場に残る)】
【ターン開始時/自分の場に《キルハルピュイア》が存在しない】《キルハルピュイア》一枚を生成し呼び出す。
《スケイル・ケイロン》✝
ギア2 ヘル・ディメンション/マシン
POW10000 DEF6000 RUN10
「相手もヘル・ディメンション……」
女王であれば当然の事。
本家本元へ挑むミラーマッチ。
この一戦はあらゆる意味で無謀だった。
「さあ行くわよ! 《キルハルピュイア》で走行!」
怪鳥女の背に乗りユリカが飛ぶ。
ユリカ残り走行距離……60→55
詩葉に並ぶ。
「ッ!!」
「まだまだ!! ケイロンで走行!」
ユリカ残り走行距離……55→45
あっという間に突き放す。
「チャオ☆」
ユリカが彼方へと飛んでいく。
「さあ、ここからが本番よ! 重なり来なさい!!」
人馬骨の上から鋼が湧き出る。
赤錆の獣が降り立つ。
「ーーーー吠え滾りなさい!! 《インフェルノ・ウォルフ》!!」
ーーーーーGOOOOOOOOOOONNNN!!!
《インフェルノ・ウォルフ》✝
ギア3マシン ヘル・ディメンション
POW10000 DEF10000 RUN10
【自分ターンに一度/自分マシン一枚を破壊する】ターン終了までこのマシンは《二回行動》を得る
【デッドヒート10】
詩葉が乗っていたケルベロスの二回り以上巨大な赤狼。
「また……デッドヒート……」
未知という恐怖。
電子の世界で、千里はビリリとした空気を肌で感じていた。
と。
「……なーんか、自分ついていけませーんって顔してるわね?」
「?」
声に振り返ると。
二人の少年を引き連れた、赤毛の少女が降り立つ所だった。
声でわかった。
「良襖…………」
「説明、して欲しい?」
未だ仮面の女君主。
その視点は、未だ遥か高みからのものだった。




