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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
Episode.4 試練開幕! ???vsユリカ!!
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百合花舞う出会い。詩葉と或葉に捧げる追憶!

チエカのカード紹介コーナー!本日紹介しますのは《メランジェ・ホールタンク》!!



《メランジェ・ホールタンク》✝

ギア3 シュガー・マウンテン/マシン

POW8000 DEF11000 RUN15

『このマシンが破壊された時』自分の空いているマシンゾーンの数だけコインをふる事ができる。そうした場合、表が出た枚数だけ《コイン・ホイール》(ギア1/シュガー・マウンテン/POW・DEF0/RUN5)を作成し場に呼び出す。



素のスペックはちょっぴりたよりありませんが、退場時の効果で5✕4=最大20キロ分の走力を確保できちゃいます!

しかもギア1を必要とする各種コンボにも対応! 使いこなすほど強くなる一枚です!


さーて前回思わぬ才能が開花してしまった千里君。果たしてこれからどうなってしまうのか! それでは本編にGo!!

「ま、つもる話は後でって事で。まずはこの店の空気を味わってもらおうかしら。……何か飲む?」


「あ……俺……じゃなくて、ジブン、オレンジジュースで」


「りょーかい」


言って、遥は歩き去る。


詩葉と二人っきりになる。


男性アバター同士で向き合っていた時と違い、ちょっぴり意識してしまう。


気まずさを誤魔化すように、千里は話題を振る。


「し……しかしよくこんな高そーな店行けるっすね。或葉やアンタ自身の課金分込みでさぞ稼ぎが良いと見える」


「おう。なんせあたしの腕は評判だからさ。ホレ」


「?」


言って、自信満々に見せられたものは……


「これは! この美麗なイラストの群れはッッ!」


「おーさ。昨年度このラノ絵師ランキング12位、sihaとはあたしの事さ」


「スっゲぇすよ業界トップクラスってことじゃんすか!!」


「ま、たまたまその年の流行りに乗れたってだけだ。ちなみに或葉の奴も養われっぱなしじゃあない。

副業(サブ)の電子マネーの購入のアドバイスやあたしの構図の粗の彫り抜きで正当なオコズカイを得ている。アイツ理数や美術にムチャ強いからな」


あの地味な同級生の顔が浮かぶ。


精神からして怪物だったが、そこまでとは。


「スゲ……怪物姉妹じゃねーすか」


「お褒め頂きどうも。……ただま、最近のゴタゴタでどうも筆が乗らんのだ。ったくあのトンデモ運営め……」


負のオーラを吐き始めた詩葉から目をそらし、千里はこの店に思いを馳せる。


装飾は落ち着きを与えるように構築されていた。どこかのバックスよりも、一段だけギアを落としたような空間。


ちょっぴり特別。だけど気取らなくて良い。


そんな空間づくりが、さり気なさの裏から滲み出ていた。


「だからここに来たんだよ」


詩葉は語る。


「今、必要なのは癒やしだよ。あたしにだけじゃない。あんたにも。これからの戦いは厳しいものになる。休息地点の確保は必要だろうさ」


「確かに。こりゃ癒やされるわ。実家のよーな安心感とはよく言うが、ここはそれ以上すよ。

『気を使わなくていいように気を使ってる』。全身の力を抜いて休めるんすね」


「ああ。………ま、お前は気も落ち着けない女装姿だけどな?」


「ぎにゃ!? せっかく忘れてたのに!!」


ハハッと笑い声一つ、詩葉は立ち上がる。


「ま、忘れるくらい良くできている店という事さな。……それじゃ、あたしは上の階の様子を見てくるよ。PCの調子を確認しないといけないからな?」


「……気になったんすけど、これ毎回女装入店っすか」


「いんや、一度一階に顔を通せば次からは外階段で入店できる」


「おっと、ネットだけじゃないのよ?」


会話に入ったのは、店長の遥だ。


「屋上にはちょっとしたスポーツができるくらいのスペースがあるもの。ちょうどフットサルで遊んでいる子たちも居るし。……はい、オレンジジュース」


「うっへぇ……とんだ非日常の総合住宅っすわ」


出されたオレンジジュースを受け取りながら、千里は屋上に思いを馳せる。




傍楽はここに居た。


「こっちこっちウオオオオオ!?」


「その気になればよぉ! 止められる!! うおおおおお!!」


「シュートシュート!!」


「左方向に送る!!」


…………上記の中のどこかに。




「……じゃあ行ってくる」


「うぃーす。行ってらっしゃいっす」


カッコ良くて素敵な背中を見送る。


良襖はまだ居たが、どうやら眠って居るらしく。


「これをこーして……絵柄はこうで……ふふっ、ふふふふふふ……」


なんだか寝言でぶつぶつ呟いているので、目を反らすと。


店長と目が合う。


涼詩遥。


この店の主。


「えーっと……素敵なお店、ですね……」


「ふふっ。ありがと」


場を繋ぐように,口調に気を使いながらつぶやくと。


「ここはね。詩葉の為に作ったお店なの」


「えっ……」


店長……遥は意外な言葉を語りだす。


「彼女……丁場詩遥。ここの外だと凄くオトコノコっぽいでしょう?」


「はい……すごく」


「彼女のオトコノコっぽさはね、鎧みたいなものなの。頑丈で壊れにくくて着心地も悪くは無い。

……だけどちょっと重くて、脱ぐのにすごく苦労する、いつの間にか着込んでしまっていた鎧」


「鎧……」


「そ」


彼女は、バラードを歌うように語る。


「彼女達の『両親』……数年前に行方知れずになっててね」


「えっ……」


瞬間。


さっき聞いたばかりの言葉の意味合いが変わる。


「紛争地帯にね。夫婦してボランティアに行ってたの。その時から詩葉はちゃんとしてたし、知り合いに声もかけてたから大丈夫ってね」


「え……待って、それ……ひょっとしてテレビでもやるような」


「そ。当時は酷く悲しんでたわ。もう絶対に戻って来ないんだって。

それに人間は薄情なもの。頼みの知り合いは旗色が悪いと見るや雲隠れよ」


「…………!?」


残酷を知る。


善意を踏みにじる流れが平然と繰り広げられる事実を知る。


「だから、まだ高校生だった詩葉は、妹ちゃんを守るために必死こいて働いたわ。

なんとか暮らしていけるようにはなってたみたいだけど……代わりに、知らないうちにあの子は鎧を着込んでいった」


「……………………」


過剰とさえ思えた愛情。


だがその話を聞いては意味合いが別になる。


詩葉の妹。丁場或葉は、天才的な才能を持つと共に慈愛に満ちた少女だ。


彼女の優しさは、間違いなく姉にも向けられただろう。


もしも彼女が、詩葉にとっての「希望」だとしたら。


それを守らんとする感情の狂おしさは、誰の想像をも超えるものではないのか……?


そして、それを知る彼女は。


「あたしはね? そんな鎧を解いてあげられるような場所を作りたくて、このお店を作ったの」


「…………遥さん、あなたは一体……?」


そんな時だ。





上の階から悲鳴が上がる。




「!?」


「なーにーごーとー?」


遥が駆け出す。


千里が続く。


階段を登り上階へ。


何かが迫っている。




平和を阻む危機が、ここにも迫ろうとしていた。

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