挑戦状への返答!
チエカのカード紹介コーナー! 本日紹介しますのは『シュクレフィレ・クラウド』!!
《シュクレフィレ・クラウド》✝
ギア2 シュガー・マウンテン/マシン
POW4000 DEF10000
『常時』相手のギア2以下のマシンは行動できない。
かの試合において、終盤までシルヴァハートを追い詰めたロックカード! 単純明快な効果に加えて10000ラインのディフェンスを持つ優秀な遅延マシンです! こんな感じで防御に振ってるから終盤で打点が足りなかったりするわけですね!
決着の後の語らい。そういえばワタシはどうなってしまったのか? 気になる行方については本編にGo!!
「…………ぶっふぉああ!!」
戦いは終わり、シルヴァハートこと先駆千里が現実に復帰する。
と言っても、別にフィクション御用達の、フルダイブをしていたわけでは全くない。ただ画面に集中していただけだ。
だというのにこの没入感。
まるで現地に居たかのような感覚。
それは、現地での勝負がレースだから……座して超速をかけるからこそ、液晶の前に座す自分と違和感無く重なるのかもしれない。
(……この状態で、赤青のカクカクがやらかしたとかいうフラッシュを喰らったら俺はどうなっちまうんだ……?)
認識の齟齬はさておき、彼の恐怖は当たり前の感覚だった。
と。
「…………?」
画面の中で変化が起こる。
綿雲に運ばれ、遅れてゴールまできたマアラが、雲の消失とともに投げ出される所だった。
桃色の夜の下。
菓子のコースの上、呆然と横たわる獅子の少年が、絞り出すように呻く。
「ぼ、くは」
電子の涙が溢れている。
現実の彼も泣いているのか。
「僕は、晴れの舞台を、全勝、で……特に、宣戦、布告、には……でも、ぼく…………」
言葉の一つ一つが痛ましい。
心が弱っていた。
敗北により折れかけていたのだ。
コースに佇んだままのハートが近付こうとする。
「おい、大丈…………」
『待て』
シルヴァファイアからダイレクトチャットが飛ぶ。
『お前は目的の為にそいつに打ち勝った。ならば心配は余計だ。
なにより、勝者に慰められる以上の屈辱は敗者にはあるまい』
「でもよ…………」
『それに、だ。ヤツを慰めるのは向こうの上司の仕事だ』
「え?」
無き崩れる白き獅子。
その稜に。
「どうしました? マアラくん?」
不滅のヒロイン、チエカが降り立つ。
「チエカ、さん……」
その体にはダメージエフェクト一つ存在しない。
チエカは幾万人が一つの人格を共有している…………設定らしい。
レースに負けたのは彼女でもないし、全快の個体が来たのだろう。
「すい、ません……せっかく、今日は、ぐすっ、サプライズで……Ai-tubaを、代表しての発表で……なのに、僕は……」
「良いんですよ」
その眼差しに責めるような色は一切ない。
目を細め、頭を撫で、微笑みながら続ける。
「大丈夫。絶対王者じゃああるまいし、また次があります。
それに試練とは打ち破る為にこそ。アナタは正しく相手を追い詰め、それを挑戦者が正しく打ち破った。それだけではありませんか」
彼女はどこまでも優しく語りかけた。
「さ。まだまだ挑戦者は来ますよ。立ち上がり、出迎えるんです! それがワタシ達Ai-tubaの仕事なんですから!!」
「は…………は…い………! このマアラ、精一杯務めさせていただきます!!」
「よろしい!!」
とげは無かった。
話は終わった。
そして両者は対面する。
不滅にして不敵、偶像たる電子の怪物……御旗チエカ。
宣戦布告を突き付けた、本試験突破第一号……シルヴァハート。
夜桜色の空の下、かの日再戦を誓いあった二人が今一度対面する。
「……また。してやられましたね」
「心にも無い。倒れたのはゲストマシンのチエカだろ? それに、俺がマアラにギリで勝ってもなんの問題も無い事はよく見せてもらったよ」
「それでも」
チエカは気安く言う。
「この勝利はアナタのもの。であれば、ワタシには称える他の行動などあり得ないでしょう」
「なるほどな」
戦意が静かに衝突する。
鉛で圧しあうような覇気が響く。
会場が息を飲んでやり取りを見守る。
やがて。
「気になったんだけどよー」
ハートが触れねばならぬ核心に迫る。
「試練で入手するはずのウイニングチェッカーを俺は既に持ってる訳だが……これどーなるんだ?」
「あー、いけませんよねそれ。それを掲げられたら最終試練が台無しです」
チエカが、わざとらしく困ったように告げる。
「ですので……ちょっと取り返しましょうかと」
瞬間、ポップアップが飛ぶ。
「な!?」
それは同意を求めるメッセージ。
ウイニングチェッカーを交換に出すよう求めるメッセージだ。
「私が交換に出すのは招待状です」
チエカが意味深げに語る。
「どんな招待状かは言いません。しかしワタシから、アナタへ贈る招待状。今後攻略していく上でとっても重要なものかもしれません。
……さて、ワタシは見ての通り気分屋です。交換のチャンスは今しか無いかもしれませんよ?」
「きた……なくね、ただの紙切れかもしれないものと交換しろってのか!?」
「さーてどうでしょうね? ……さぁ、どうします? 交換に応じますか? 応じませんか?」
選ばせる。
見やると、観客席の多数にもポップアップが飛んでいた。
ここで回収する気か……邪魔と化したウイニングチェッカーを。
「くそ……」
戦わずして追い詰めるやり口に苦悶を覚えた所で、
「ほうほう。そういう事にござるか」
不意に、声が響く。
振り返った場所に居たそれは、おかっぱの少女のアバターだ。
「アル、ハ……?」
思わず本名を呼ぶが、本人は気にも止めない。
彼女もゲームにログインしていた。
そういえば、彼女もチュートリアルを突破していた。
まさか。
「お前……」
「中は改めさせてもらった。問題無いにござるよ。交換は今行う必要はござらん」
「アル……パール!? 躊躇わず交換したってのか!? 中身は一体……」
「最終試練の鍵」
「!!」
アルハ……アバター名Pearlは楽しげに語る。
「このゲームのどこかにある、最終試練の戦場に続く鍵にござる。決戦の為にはこの鍵は必須。
……であれば、チャンスが今しか無いというのは無いにござる。新規ユーザーを打ち切るのと同義であるゆえ」
「ハッハーン、そんな簡単に信用しちゃって良いんですか? 罠かもしれないのに。」
「問題はござらん」
煙に巻くような言葉にも動じない。
アルハはチエカをしかと見届けて言う。
「拙者はチエカ殿の事が大好きであるゆえ。その挙動の一切と合切を信用しているにござる」
まっすぐな言葉だった。
世界が静まった。
この世でもっとも無垢な思いに人々が震えた。
その言葉が、観客席含む、シルヴァーズの五臓と六腑に染み込んだ。
そして。
「う…………く、ふ……」
チエカが、何かを堪えたように仰け反ると。
吹き出す。
「ーーーーふぅ! はぁっはっは!! そこまで言ってくれるとは……ふふっ、専属Ai-tuba冥利に尽きるというものです」
「……御旗チエカ。悪いが俺はアンタの事はさっぱり信用できない」
笑い飛ばすチエカをやはり信じる事は無かった。
だが。
「だがアンタを信じるパールの事は信用できる! カードは交換しない。このカードは俺にとって、まだ攻略に必要だからだ!!」
「…………その言葉に、二言はありませんね?」
「ああ」
視線が交錯した。
だが誰よりもPearlの視線が強かった。
彼女の前で腹の探り合いなど無駄だと知った。
諦めたように、チエカが伝える。
「ハッーーーー大ッツ! 正解ッツ!! こちらも常設コンテンツ!! 交換はいつでも行なえちゃいます!」
胸のつっかえが取れた。
だが続く言葉は予想外だった。
「しかも可逆性! 変化させたカーテンはいつでも戻せます♪」
「は!?」
「しかし今日交換してしまった子にはソーバット!! ワタシ謹製のスタンプで変化スイッチを隠しちゃってます!! ゴメンナサイちゃっちいイヤガラセしちゃって!!」
「ほう! この可愛いらしい旗振り姿はそれ故か!」
無邪気に喜ぶアルハを見てハートが頭を抱えて喚く。
「え、これだけ!? 何このくっだらない流れ!? アイツが喜んでるから良いけど! 喜んでるから良いけどさ!!」
「だーってワタシやられっぱなしだと後のラスボスとして格好つきませんし。結局格好はつかないいまんまでしたけどね♪」
「自業自得!! つーか格好は十分付いてるよ恐ろしいわ色々と!!」
「やん♪」
わざとらしく身をよじると、耐えかねたように背面に異変が起こる。
「「へ?」」
二人同時に振り返ると、光の筋が空間を裂く所だった。
『はっは! 嫌がらせは失敗したようだなぁ? チエカ』
ジッパーが派手に開いていた。
見ると人影達が、ジッパーのゲートの向こうからやってくる所だ。
「ですね。ま、悪い事はできないって事ですか」
チエカの言葉に答えるように。
夜桜に似る空を背負い、Ai-tuba達が集結する。
その数は五。いや、チエカとマアラを含めて……。
「来やがったな、七魔衆…………!!」
数は七。
いよいよ両者顔合わせだ。
次回三章というか本作完結!?「結束……オールクリア・エピローグ」をお楽しみに!!




