見据えるはうら甘き尖兵! 同士達との特訓へ!
チエカのカード紹介コーナー! 今回紹介しますのはギア4マシン《大魔女愛機 キルケー・ピグレット》!
所属クラスはマジック・サークリットで走力20。パワー14000ディフェンス11000はワタシと同値ですね♪ 使ったチューンをセンター下に吸収する効果の他に、相手センターにチューンが重なっていた場合はコントロールを奪う効果も!
クラスが違えば戦術も変わる! 気になる新顔さんの活躍はーっ、本編にGo!!
「店員さん、《アーキタイプ・フレーム》二パックたのんます!」
「ハイハーイ、二パックですね♪」
スタンピード……正式名称《カードレース_スタンピード》でのパック購入は独特だ。
ゲーム内の街を歩き、またはホワイト・エッグで走り回り、店まで出向き自らの声で注文するのだ。
広大な街に比例してショップの数も膨大。ショップごとに違う単品売りがあったりするし、同じカードでも違う値段だったりするが……それを気にできるほどシルヴァハートこと千里はベテランではない。
それはそれとして。
「いやー、毎日来てくれるもんだから嬉しいったらないですよええ!」
店員はチエカ。
「ハイハーイ、ヘル・ディメンションセール中ですよー!」
電子のビラを配るのもチエカ。
『本日午後7時からは初心者必須のクエスト『若葉の試練』を開催します! まだクリアしてない方は予約にGo!』
気球のグラフィック表面に映るのもチエカ。
「ハイハイどーぞどーぞ。本日は心が安らぐハーブティーを……」
その辺の喫茶店で飲み物を出すのもチエカ。
単体では非の打ち所がない美少女でも、大軍となってしまえばある種の恐怖を感じずにいられなかった。
「……冷静に見ると本気でチエカばっかッスね」
「だろ? わかったらとっととヘル・ディメンションに行くぞ。気が滅入る」
「はいよっす」
パックを受け取り、シルヴァーズは店を後にする。
「毎度、ありがとうございましたー♪」
見送りの暖かな笑みが、逆に怖かった。
移動をオートパイロットに任せ、シハとセンリのシルヴァーズはパック開封作業に移る。
「……チ。ブタか。課金分の三パックまで全滅と来た。……お前はどうだシルヴァハート」
「俺は……お、レジェンドレア来た!」
「何ィ!?」
「ってんだよヘル・ディメンションの《大悪魔サタン》かよ使わな……待てよシルヴァファイアさん話が」
スッ……ドン! と差し出されたのはデッキ程もあるカードの束。
「言わずもがなだ。そのカードとこのカード全部と交換してくれッ!」
「ちょダース単位で来たし!? んなスゲーのコレ?」
「そらレジェンドレアだからな。ルシファーや……チエカ達に並ぶレベルのド有能と言えばわかりやすいか?」
「ルシファー……それにチエカか!」
昨夜の対戦。空覆う四体の悪魔と化した一枚を思い出す。
そして、圧倒的だったチエカの立ち回りも……
「……もう一枚だけつけてもらっていいっすか?」
「良いだろう。何を所望だ?」
「その……《リーフ・エンブレム》を」
「ほう。レジェンドに次ぐゴールドレアをご所望とは良き図太さだ」
「そらま。必要だと思ったんで」
お互いに異論は無い。
トレードは即時決行された。
「どうやら、昨日出しておいた宿題はサボらなかったようだな」
「そりゃもう。自分の無力と無知が身に染みたもんで」
シルヴァハートは冷えた目で答える。
それは昨日の出来事。
ヘル・ディメンションでの練習レースでの事だ。
「……っダァ!! また負けたし!?」
「これで五連敗……そろそろ原因に気がついたんじゃあないか?」
「ああ……コンボが決まらないんだ」
「正解」
雲空の下、シルヴァファイアがハートを撫でる。
「お前のテストレースでのヤバイ立ち回りは、不足していたコンボパーツ《当然のマニュアライズ改》が供給されたからこそできた事だ。
だが残念ながらアレの実装は厳しいだろう……強すぎてテストを通過しないからだ」
「で、ですよねー……」
「だが諦めるのはまだ早いぞ?」
シルヴァは楽しげに語る。
「アレの下位にあたる《当然のマニュアライズ》なら既に実装済みだ。あれを上手く使えば同じことはできる」
「マジっすか!?」
「ああ。今から言う事を良く聞いておけ。聞くだけでいい。あとは脳が勝手に処理する。それと平行して」
シルヴァはあるカードリストを広げた。妙に強そうなのばかり並ぶが……。
「これは?」
「軸札……パワーカードのリストだ。グレイトフル・トレインだけでは辛いだろう。せめてもう一枚、柱となるカードを選んでおく事だ」
「……リーフ・エンブレムか。良いカードを選んだな」
「ええ。使えるんじゃないかと思ってはいたんすけど……これで四枚揃ったんすよ。デッキに組み込む準備が整ったってわけっす」
「もう一つの宿題は」
「もち、バッチリっすよ! 一晩寝て思い返すだけですらすらと!」
「よろしい」
と、道の先。
渦を巻くゲートのようなものが見えた。
ヘル・ディメンションとこちらを繋ぐゲートだ。
「であれば、後は試すのみだ!」
二人はゲートを通過する。
そして。
「学校が終わって則ログインとは、とんだ廃人よね彼らも」
「趣向が趣向。それも仕方ないだろ? なにせあいつらは」
「ハイそこまで」
「おっと」
語るのは、センリの友人のラフマとボウラだ。
最近アルハとセンリが学校終わりにすぐ一緒に帰る為に、残る二人で共に帰る訳だが。
ボウラの悪い癖が出る。
「なんか……このまま会わなくなったりしないよな? 怖くね? メチャ怖くね!?」
「相変わらずのビビリくんよねあなた。ま、こんなの風邪みたいなもんでしょ。私はこのままでもいいけど」
「やーだーみんな一緒じゃないと寂しい!」
「はいはい」
かの日、アルハが想いを語ったのを彼らは見届けていた。
入る余地はないと、確かに思った。
「やっぱり強かったわね、アルハ」
「だな。そらそーよな。ゲームの中でどれだけ離れてても、リアルで隣に座っていたセンリの話に知らんぷりを貫いたんだ。あの神経の太さはバケモンだよ」
「ふふっ、あなたは素で気づかなかったようだけど?」
「う、うっさいな!?」
なんて会話。
二人はどちらともなく天を仰ぐ。
「これからどうなるんだろうな。アイツら」
「さあね。ただ……今はただ、生暖かい目で見守るだけよ。でしょう?」
「……そうだなぁ」
当たり前の会話が、日常の通学路に流れた。
目の前には、モヒカン頭の世紀末集団。
ギャハハと笑いながら黒の荒野に集う彼らを見てハートが問う。
「えーと一応聞くな。ナニアレ」
「見たまんまだ。アイツらの頭はヒャッハーしてるのさ」
シルヴァファイアも苦笑していたが……けしてバカにはしなかった。
「だが、ありがたくも愛おしい存在だ。あいつらは今走ることしか考えていない。云わば究極の『フリーお願いします』があの姿だ。
カカシ相手じゃ気づけないアレコレに気づかせてくれる。それでいてその過程を喜びとする……俺達カードゲーマーの成分を濃縮したようなヤツラなんだよ」
「……へぇ」
確かにあれほどわかりやすい好戦的アピールも無い。
遠慮はいらない。
気負いも要らない。
勝っても負けても清々しく有れそうだ。
「まずは100戦、走る事だ。その中でデッキを調整し、不要なパーツを取り除いて行こう」
「オッス!!」
言って、シルヴァハートは一人のモヒカンの前に立つ。
「ちっと100キロ。ひとっ走り付き合ってくれます?」
「控えめだな。1000キロでどうだ?」
「すぐだな」
そうして戦いは始まった。
曇天の元声は響く。
「ギア3チューン、《リーフ・エンブレム》! このカードをセンターの下に重ねる!!」
「もしか……そのカードは!?」
「コイツの上が効果の無いマシンだった場合、敷き札二枚をタップする事で行動後に一度回復できる!」
「つまりバニラの二回行動化ってワケダ……だがそいつはステアリング! そいつを入れて決め札を突っ込む余裕はあるのか?」
「心配には及ばねーすよ」
センターに黒塗りの高級車が重ねられる。
「ギアアップ! 《ブラック・グリズリー》! コイツの二回行動でウイニングランだ!!」
「のわあああああああ! なるほどおおおお!!」
ハート残り走行距離……40→0=GOAL
「……っつはあ!! ちくしょう! 負けた! ヒャハハハ!」
「ヒューすっげー、負けたのに全力で笑い飛ばしてやがる……!
「心配するな、すぐ慣れる」
ハートの中にも、彼らへの尊敬の念が育ちつつあった。
状況は彼らを待たない。
「次は俺とだぜ!」
早速次を望む声が上がる。
「いや俺と」「馬鹿オレだって!」「アタイと戦いな!」「私も!」
ハート戦績……WIN10□□□□□□□□□■2LOSE
快進撃を嬉しむハートと対象的に、そろそろと顔が険しくなるのはファイアだ。
「じゅんちょーじゅんちょー! このまま行けばボス戦もなんとかなるんじゃあないか?」
「はたしてそうかな?」
「へ?」
不穏な呟きを補完するように、声が響く。
「覚えた」「慣らしたぞ」「そーゆーことね完全に理解した」「その剣、覚えた……」「だいたいわかった」
「え? え?」
言葉の意味はすぐに染みる。
「キルケー・ピグレットの効果! 相手センターにチューンが置かれているなら、センターのマシン一枚を剥がしてコントロールを得る!」
「んだとぉ!?」
「これで邪魔は消えた……ウイニングラン! 大魔女愛機キルケー・ピグレットで疾走ッツ!!」
「何っつ!?」
モヒカン残り走行距離……20→0=GOAL
ハート戦績……WIN15□□□■■■■■■■30Lose
「はっはっは! 愛してるぜ大魔女サマ! 俺達の勝利だ!!」
「なんだ? なんか負けが込み始めたぞ!?」
「そりゃあな。誰だって、不意を打たれちゃそりゃ弱い。だが慣れ始めれば相応の対応をするしメタも張られる」
「メタって、そんなのどーしようもなくないっすか!?」
「そこをどうにかするのさ」
シルヴァはゴーサインを出す。
「そろそろ教えたコンボを使ってみろ。今日のボス戦までに仕上げるぞ!」
「オッス!」
言って、少年の戦術に変化が起こる。
「ば、ばうっ……!?」「あんまりだああああ!?」「ごっバァ!!」「できる……」「オマイガーーーーッ!」
ハート戦績……WIN35□□□□□■■■■■35LOSE
「お前……そのコンボは!」
「おーよ。テストカードが教えてくれたコンボを、そこなシルヴァファイアさんが仕上げてくれたのよ! これで俺は…………」
戦機が集う。
一斉行動が始まる。
「……超! 強くなる!!」
ハート残り走行距離……50→0=GOAL
ハート戦績……WIN60□□□□□□■■■■40LOSE
「くっはぁ!! 楽し……めたぜ…………」
いうだけ言って、モヒカンたちは倒れた。
……たぶん、仮眠か食事のためにログインままに落ちたのだろう。
「勝率六割。一夜漬けでここまで仕上がれば上々だろう」
「アンタのおかげっすよシルヴァファイア! このデッキ超使いやすいですもん! 超爆速で回る回る!!」
「楽しめてもらって何よりだ。お前こそ、良くデッキを使いこなしていたぞ」
「サンクっす!!」
信頼関係。
短い期間で、彼らの間には鉄の結束が生まれていた。
そして、導くようにシルヴァファイアは言う。
「さて…………次は試練の時間だ」
シルヴァはもと来た道を睨む。
ぼちぼち、試練は始まっている頃の筈だ。
「ウェ……エエエエイ……? ナニコレ? なんでこんな勝てないのよぉ………?」
「インチキではありませんよ? ただの実力です♡」
次の試練。
幼くも獰猛な……白い獅子が、待ち構えている。
攻略ガチ勢シルヴァーズととマアラくんのレースが遂に始まる!としかしその前に語るべき事を語らなくては! 次回「チエカとマアラの初心者講座〜クラス編・急〜」をお楽しみに!
 




