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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
Episode.3 開戦の狼煙。シルヴァーズvsマアラ!
19/190

新しい朝……開幕、Ai-tuba会談!!

チエカのカード紹介コーナー! 今回紹介しますのはギア4マシンの《ブラック・グリズリー》!

所属クラスはスカーレット・ローズ!特に効果はありませんが、パワー16000、ディフェンス10000、走力20はなかなかのステータスです!

かの最強マシン《マスター・フォーミュラ》すら上回る力を秘めたこの子も何故か現環境では腫れ物扱い。おかしいですねーふっしぎですねー? 気になるその理由については本編にGo!!

時間は少し巻き戻る。



それはある領域での出来事。


「俺のターン、ドロー!」


センリ後攻一ターン目、手札……


ギア1(オポッサム) ギア1(タートル) ギア1(オアシス) ギア1(パトライド) ギア4(グリズリー) ギア4(クライマックスラン)



「キエエエエエエエエ事故ッタアアアアアア!!」


「ま、そうなるわな」


「ナンデ!? 今までうまく行ってたのにナンデ!?」


「ビギナーズラックって奴だろう? これからはちゃんとデッキバランスにも気を付けるんだな」


「うわああああああああああん!!」


夜のヘル・ディメンションに泣き叫ぶ声が響いた。




「と、言う具合で彼らの修行は難航中にござる」


『報告ありがとうですよPearlさん♪』


電子の包囲網は完璧だった。




……というのはもちろん建前で。


「悪いなアルハ。情報誘導なんか頼んで」


「なに。拙者はありのまま、事実を伝えるまでにござる」


二人ぼっちの丁場邸では、そんなやり取りがかわされていた。


これも戦術。


今はまだどうってことない相手だと思わせておく。流石に名が売れる前に過剰に警戒されてはBANが飛びかねない。


「だがその後の改善策を伝えなかったろう」


「それについては知らぬ。なにせ配信に夢中になっている間の出来事ゆえ」


「目の前に、その情報源が居るわけだが?」


「聞く術など持たぬ。拙者はシハよりずっと非力ゆえ」


「非力、なぁ……」


ベランダに続くガラス戸を見やる。


時刻は夜。鏡と役を変えたガラス戸に姉の姿が写っていた。


白の綿パンに黒のトレーナーという雑ないでたちに、背は成人男性より高く、未練たらしく伸ばしたポニーテールはボサボサ。細身ながらがっしりした体付きの上に乗るのは睨みの相で固定された可愛げのない顔だ。


女を捨てきれてない女……そんな表現がしっくり来た。


向き直って、呟く。


「非力、ね。アルハ、だからお前は強いんだ」


「?」


小首を傾げる強かな妹を見やる。


埋もれてこそいれど、女子らしさの種は燦然ときらめいていた。平均より低い背や大きな瞳など、掘り出して磨けばどこに出しても恥ずかしくない程の可憐さを手に出来るはずなのだ。


勿体無い、とアルハは思う。


「気づいてないかもしれんが」


シハは妹に告げる。


「お前は無力さを武器と振るっている。その所業は女のそれだぞ? 別に男がやるのが悪いとは言わんが……その強かさに手を付けず自ら埋もれさせるのは勿体無いと思うんだ」


「ムム?」


「なあシハ。お前がいろんな道を知って、それでも今の道を進むってんなら、オレはもう止めはしない。それがお前の意思ならな」


シハは。


或葉の姉、丁場詩葉は優しく語る。


「だから、さ。一度くらい、他に目を向けるのも……自分に何があるのかを確かめてみるってのも良いんじゃあないか?

あの世界だけがこの世の全てじゃない。世界はさ、本当に広いんだよ」


「…………」


アルハは暫く黙っていたが。


やがて。


「拙者には、いまだわからぬ」


「アルハ……」


「確かに、これから学ぶべきものは山ほどあろう。……であれど、この小さき身の上には、まだ道などという長く険しいものは入りきらないにござるよ」


「…………」


「厶。もう日付が変わるか。では拙者はもう休む故、また事づてがあれば言ってくれるにござるよ?」


言って、アルハは自分の部屋に帰ってしまう。


「……やっぱり強いよ、お前……」


一人残ったシハは、力なく呟くのだった。






そして時刻は再び現在。



「ではでは、第19回スタンピード領域管轄定期会議、始めちゃいたいと思います!」


そこは白と黒の領域。


光量設定の狂った世界がで会議はかわされる。


「こちら《シュガー・マウンテン》。皆様今日も楽しげに過ごしてます!」


「知ってます♪」


「はうっ!」


小さくか弱い影がびくつく。


始まりの街(メインシティ)であるシュガー・マウンテンには多数のチエカが配置されている。仕事の容易さを見ても難易度的な意味でも、ここに配置されるのは新入りであることが多い。


「こちら《サイエンス・サンクチュアリ》。環境に片足かけていたメンツが折れ始めたようだ。早くも一人遊び(ソリティア)が加速し、連携攻撃がキモのこちらを圧しつつあるのが原因と思われる」


「いけませんね。定期アンケートの結果は?」


「遅延札の追加を望む声が多数。特に手札破壊(ハンデス)を望む声は高い。自身がコンボ型だから他所に使われたくないというのが本音だろうが」


クールなやり取りを返すのは、シャープな雰囲気の少年。


光量が狂い影しか映らない中でも、その双峰だけは蒼白く輝いていた。


「いけませんねー。メタ札を取り込んだ環境デッキとか悪さしかしませんからね。……その辺りは詳しい筈ですよねテスト担当さん?」


「まーね。都合の良いオモチャを貰ったデッキの動きはまあ酷いものよ」


答えるのは、桃色の髪の色香纏う大人の女性だ。


「特に《当然のマニュアライズ改》。ありゃ過ぎたシロモノよ。

あんな手札増強術(ターボコンボ)を受け止められるほどこのゲームは成熟しちゃ居ないわ。ねぇスカーレット・ローズ担当さん?」


「やん! あれでも調整したほうなんですよ?」


それまで場を回していたチエカが答える。


「今の所、スカーレット・ローズには飛び抜けた切り札ってのがありませんからねぇ。開発順の都合って言いますか……技の一号、力のヘル・ディメンションってんです?」


「たしかに、私の方には良いのが入って来てるけど? だったらそっちにもデカブツ放り込めば良いんじゃない?」


「待たれよ若いの」


言葉を遮ったのは、巨大な椅子……に座す小さな影だ。


「弱点を潰し均一化すれば良いという事でも無かろう。個を均した先に待つは虚無薫る退屈であることは、今の世が示しておるのじゃ」


「さっすが良いこと言いますねぇサムライ・スピリット担当さん! そちらの世界はいかほどで?」


「ふむ。皆良く技を鍛えておる。この領域の『味』をわかっておるようなのじゃ」


『待ちなジジー』


キツイ口調で切り込んだのは、電子尖らせる巨大な鎧の怪物だ。


『考えが古くせーのよ。味がどーのとか言ってたら世間サマについていけねーぞ?』


「随分な物言いだな《ラバーズ・サイバー》担当。確か今の環境トップはお主の所だったか」


『だからどうした?』


「果たして今誇る力はお主の力なのかな? 虎のいを借りる狐になってはいまいか。その調子ではついていった世界が滅んだときお主も共に果てるのではないのかな?」


『ん、だ、とジジイもう一度言ってみろ!!』


「はーいはいそこまでー。内ゲバでスキャンダル突かれるとか勘弁ですよー?」


『あぁ??』


気の抜けたような声で仲裁に入ったのは、魔女のようなシルエットの女だ。


とはいえ、とんがり帽子の魔女とは少し違う。ふわりとした長髪に糸結びのティアラを載せ、周囲に頭蓋骨を侍らせるその姿は……どちらかと言えばシャーマンに近いか。


名はシイカ。自身のカードには《死骨の愛で手シイカ》と記載されている。


「何がどうなろうと、我らがメタ担当の《マジック・サークリット》が緩衝剤になりますから。そんな滅ぶ滅ばないなんて物騒な話なんて必要ありませんよ」


「ふむ……その思考こそが今をぬるま湯に漬ける現況だとわしは思うのじゃが?」


「それでそこの鎧ちゃんをいたぶってなんになります? もっと建設的な話をしないと。例えば……混成デッキの後押しとか。

ですよねぇ派生にうってつけのラバーズ・サイバーさん?」


『ふん』


鎧が黙るのを見届け、魔女シイカは語りだす。


「……現在このゲームでは混成デッキの構築は困難です。同一クラスのカード間のシナジーが強すぎるというのもありますが……このままでは他所の落ち目のカードゲームの二の舞三の舞。

ーーーー故に、クラスの壁を超える怪物の存在を所望します」


領域にどよめきが走る。


「怪物だと? コンボで科学反応を起こすだけではだめなのか」


「このゲームのイチバンのクレーム何かご存知ですよね?」


科学の少年の反論にシイカは即切り返す。


「『コンボが長い』ですよ。のっけからこのゲームは難しくしすぎました。ちょっとシナジーを強くした結果がこの始末です。

コンボのダイエットをする意味でも、終点にあたる絶対的な切り札は不可欠……かと」


「む、ムゥ……」


引き下がらせる。


「……確かに、クラスを超えた切り札は欲しい。しかしさらなる暴走を呼ぶ危険もある……」


議長役のチエカがうーむと悩み……そして軽く言った。


「とりあえず……マスターの意見を聞いてみますか」


「んー? ちょっとチエカちゃーん? 一旦持ち帰るってのは悪しき文化だって何度も言ってるでしょー?」


一転シイカが気の抜けた声で問い詰める。気斉のオンオフが彼女の武器ではあったのだが。


「ええ。ですので……聞いてますよね、マスター?」


「え」


驚愕が向いたその先には。


確かに、幼気なバニーガールの姿があった。



「…………あら、気がついてたの」


言ってすぐ。






影が、舞い降りる。






それは影の羽衣を纏う黒兎。


狂気湛えし幼き君主。


その面は常に喜悦。二尾をもたげる頭蓋は常に揺れ動く。


彼女の君臨に総員が礼を示した。


彼女こそ頂点。


その名も。


「こんにちわゲームマスター……Yagami123(ヤガミヒフミ)


「ええ、ええ。こんにちわチエカ。それと皆さん?」


「こ……こんにちわマスター・ヤガミ。……あの、クラスを超えた切り札の件ですが……」


「もちろん、承認いたしますよ」


「……え?」


提案した魔女シイカの方が驚くぐらいのあっさりさだった。


「今は芽吹きつるを伸ばす最中。足踏みをしている場合ではありませんもの♡」


「さっすがゲームマスターです! 早速制作に取り掛かるので?」


「ええ。もちろん……やる事をやってからにはなりますが……」


言ってどこか遠くを見るヤガミ。


新規カードデザインも彼女の役目だ。


当然、その他の役割もこなす。


「マアラ。本日の《若葉の試練》予約件数を」


「は、はい! 今日だけで56件! うちいくらかは、やはり完全攻略に闘志を燃やす方も居ます!」


「あら」


画像が中に浮かぶ。


その中に。


「……………まあ」


あの、二人のシルヴァの姿もあった。


「いいでしょう……相手になってあげなさいな」


「は、はいっ!」


小柄な雄姿が、答えた。


「よろしいので? ぼちぼち危険な輩も出てきてますよ? 昨日もなんか宣戦布告されましたし……ほれこんなのも」


動画が流れる。


シルヴァの件など、軽く流される程度なのだ。


これらに比べれば。



『ーーーーウェエエエエイ!! 今日は一部界隈で盛り上がってる《スタンピード》を攻略してみた! って事でね! なんか進行不能とか言われててジブン頭に来る訳ですわ! ですんでこの不祥「努課金(ドカキン)」が正義の介入おーーーー』



ピ。と画像が止められた。


「聞くに絶えんな」


「全ては些事、ですよ」


科学の少年に対しヤガミは返す。


「何かを統べるとはそういうこと。苦情の山も積み上がるでしょう。

ですがそれで角を折っては娯楽にあらず。突き抜けてこその非日常でしょう!?

恐れる事はありません。故に座し、迎え撃つ道を取るのです」


君臨者Yagami123。


その顔に、一切の動揺は無かった。


「さぁ……迎え撃ちなさいマアラ。いきり立つ一切と合切を焚き付け、焦らし、抱きしめ……そして飲み干すのです。良いですね?」


「わかりました。不祥マアラ、全力で相手してきます!」


「よろしい」


君臨者然とした対応に、シイカも目を細める。


「ひゅー。トップがしっかりしてると我らも手早く動けて有り難いかぎりですね」


「役割分担、でしょう? 私の手の届かない果てをあなた方が。あなた方が届かない天を私が掴む……という」


「……ごもっとも」


誇張ではない。


全ては彼女から始まったことをシイカは知っていた。


ひとまず「今は」おとなしくしていよう。魔女はそう心に決めた。


「……では、次の案件を……チエカ」


「ハイハーイ! 続いてはワタシのコマーシャルの出演オファーがーーーー」


「受けて来なさいな。貴女ならどんな仕事だって」


「ラ○ドール界隈から」


「前言撤回。却下で」


「ですよねー♪」


流石の黒兎も、引くべきところは弁えていた。


そして議論は次の話題へ。


「では続いて…………このゲームの《最終目標戦(グランドクエスト)》について」


一斉に。


議論者達総員の目がギラついた。

次回「うら甘き尖兵」! お楽しみに!

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