魔王との品評会。海原の決戦前会議!!
「ハイみんなMiki見たでしょ。全員シューゴー」
呼びかけに従いメンバーが集結する。
彼らが囲む折りたたみ式テーブルの上には、詩葉が回収してきた 《大海の守り手エレン》のカードとMikiの原文が上がっていた。
「……ていうか。即興でよくこんなに書けるもんだな」
「創造主を舐めないでってーコト。Miki記事のいくつかはあたしが書いてるのよ? もうざっと200以上は」
「にひゃ……それほとんど全部じゃね!?」
「ジョーダン。個別のカードを書くだけが記事じゃない。カードゲームにどんだけの用語が、カテゴリがあると思ってるワケ? ひとつのコンテンツを成立させるに、おびただしい数の柱が必要なのよん」
「は、はへー……」
相変わらずチートじみた創造力だと関心しつつ話は次へ。
「さて大事な事はあらかた説明しちゃってるケド……重要なのはこのマシンの性能ね」「エレンのメタ能力は、アンタに一番ぶっ刺さんのよ千里」
「うぐっ……」
「アンタのデッキは【グレイトフル・トレイン】【赤単ドラッグレース】【積みチエカ】の三種を混ぜたようなもの。特に今はチエカが抜けてるんだからカバー力下がってるのよ? 対策用にデコイは必須ねー。……例えば、こんなのとか」
ヒョイと差し出すソレは、恐ろしい程今の状況に見合っていた。
《エクスチェンジ・キャリー》✝
ギア1マシン スカーレットローズ POW 0 DEF5000
【進路妨害(相手は走行できず、進路妨害を持つマシンしか攻撃できない)】
【登場時】手札を一枚捨てる。そうできたなら、カードを一枚引いてもよい。
「おー……おーおーいいじゃん! なんかしっくり来る」
目を輝かす程にフィット。まるで最初からデッキに入ってたかのような手応えが千里に伝わる。
「だっしょ? 捨てるのは強制だけどスカロは手札余りやすいし、いつ引いても手札交換に役立つと思うわ」
「なる、コイツならデコイにしつつデッキも回せるってワケなー!」
「あ、あのー」
納得に割り込むように、ここで遠慮がちに手をあげるのはルイズだ。
「あのー。私が盾になるってのはどう? 私系列のカードなら返り討ちにできるって書いてあったし……」
恥ずかしげに顔をカードと手で隠しながら、自身と同じ水着姿のカードを差し出す。
《海辺の守り手ルイズ・ファムファタール/アクア》✝
ギア4マシン ラバーズサイバー POW 0 DEF20000
【進路妨害(相手は走行できず、マシンで攻撃する場合は【進路妨害】を持つマシンしか攻撃できない)】
【手札を二枚捨てる】手札のこのマシンを場に出し、カードを二枚ドローする。こうした場に出たこのマシンは、次のターン終了時まで【二回行動】を得る。
「論外」
「ひっ!?」
おずおずと差し出したマシンをすっぱり切り捨てる。
「悪いけど『合わない』のよねー。確かにかーさんの防御性能なら、エレンの猛攻も余裕を持って受けきれる。そう書いてある。……ケド、千里のデッキはギア1のマシンをサーチできるしその方が確実。あと切り札の 《クライマックスラン》とクラスが合わないのがめちゃ痛い。バランスも何も無くなるわ」
「そ、そんなぁ……」
「…………」
しょんぼりするルイズに反して、千里はどこから考え込む。
「とにっかく! アンタのデッキの特性上、ギア1デコイの採用は必須だからね。つまらない事故で爆死されても困るしさ」
「……………………」
「千里? もしもーし?」
「どうしたのー、千里君?」
可能性の検討。
返事をするのも忘れ、三枚のマシンを見回す。
思考を巡らせ動かないが、やがて。
「……仮に、コイツってーデコイを用意するとしてだ」
「うん?」
「相手もそれは承知の上だろ? だったら……専用の対策、メタのメタが飛んでくるんじゃないか?」
「…………ッ」
そう、今回挑むのは単なるイベントボスでは無い。
自らの意志を持ち、倒されるつもりもない化け物だ。
「過剰な心配かもしれない。だがそーじゃないかもしれない。もしもヤツが何らかの手段で妨害を取り除こうとした時、それをやりやすいのは軽くて雑魚いマシンだ。ギア1の盾役なんか真っ先に消し炭になるんじゃねーのか?」
「確かに……このステじゃあ火力型のカードを詰まれたら終わりカモ」
一旦は否定する。
そのうえで俯瞰し、五分の立場から見つめ直す。
「でも、サーチしやすいギア1の盾を使うべきだってのも一理ある。いざって時に型通りの対策もできないのは話になんねー。……俺たちとエレンの最大の違いは『軸になるカードがわかってるか否か』に見える。だがそーじゃない。相手も『わかられてることがわかってる』んだ。他のシーンに対応できる余地を残したら、一点に尖りきったバケモンには敵わないんじゃあねーのか?」
哲学のような問いかけが芯に迫る。
他の可能性を考えなくて良いのは楽だ。目の前の相手に刺さらないカードは最初から積まなくてもいいのだから。
ならば。
「確かにヤバいケド……ならどうするワケ?」
「……相手がどう出てくるか決まってるのに、やれ凡庸性だの言ってる場合じゃない。少なくとも、今は……!」
一瞬躊躇い。
しかし覚悟を決めるように、提示された二枚を手に取り立ち上がる。
「『両方』だ! 採用するべきはよォ!! ガチガチにメタを固めて、勝つべくして勝つのが正解だ! 褒められた手じゃあないがソレが最善だ。……だろ良襖?」
「ま、そーね……勝つためだけのデッキってのは気に食わないケド」
「元からボスキャラって『対策される側』だもの。これもひとつの『正しい形』だと思うわ」
「サンキューっス、ルイズさん」
今回の決戦は、以前の『試練』のような『楽しいゲームが必須』といった条件は特にない。
正真正銘の攻略戦。心を鬼にし、最も効率の良い手を打つのが得策だろう。
「わりーけど誰か、デッキ回すの手伝ってくんねースか。さっき 《ルイズ》は試したが……ギア1のデコイ混ぜて回るかの確認はまだなんで」
「よし、ならオレが行こう」
ここで立ち上がるのは、ここまで沈黙を守っていた詩葉だ。
「さっき『誰か』がドロップしたエレンのカード……コレをオレが手にしたのは偶然じゃないと思いたい。コイツを使って試してみよう」
「ウッス!!」
「はしゃぐのはいいケド夜更かしはほどほどにねー。チエカ達がレイドボスを食いつぶしたら即、エレンを狩りに行くから」
「わーったよ……っと」
推定予定時刻は午後八時ごろ。下手に今日頑張りすぎると眠気が襲う時間帯なのはわかる。
だがここでふと疑問。
「じゃー明日の晩に備えるとして……アレ? それまで何すんの? てか……」
ギリギリ……と、ぎこちなく。現在攻略まっしぐらのはずの詩葉やルイズを見て。
「よく考えたら、なんでアンタらここに居るんスか……? 確かチエカ達率いてたはずじゃあ……」
「「うっ……」」
「あーソレなんだけどさ……」
ぽりぽりと、頬をかいてる裏から最後の一人が。
「あっと、カイニネウスの攻略部隊も安定して周回できるようになったから来てみたんだけど……」
「ん? えっと……ユリカ、さん……?」
「まあつまりは、そーいうコトよ」
バカバカしさたっぷりに、呆れ顔で語り出す。
「元から素質タップリのチエカ素体。起きたてホヤホヤの目を冷ましてやれば、あとは勝手に仲間内で情報共有し合って成長、安定するのはわかりきってた。……端的に言うと、見張りや指揮官なんて要らなくなっちゃうの」
「えっと……つまり? 明日はチエカ待ちってことか? て言うか……」
いやさすがにもうちょっとなんかあるだろう、と辺りを見回しても何も無い。気まずげな大人と幼女魔王、視界の橋でじゃれつく水着チエカの群れと或葉が見えるくらいだ。
そして、言い訳みたいな笑顔で頬をかいて良襖が。
「まあ…………ね。ぶっちゃけ、ヒマになるわ」
「………………………………………………………………あー…………」
つまりは決戦前の特大ブレーキ。
気の抜けた返事が、状況のマヌケさ加減を表していた。