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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 11.5 外伝封入。電子の海の一大バカンス!!
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和睦と未来への教導。全員総出のイベント攻略・後編!!

「あのレースな……実はオマエらが勝ってたかもしんねーんだ」


『ナ、ナンダト?』


海岸の一角。


或葉からそこそこ離れた所では、ハルピュイアの群れを相手に講義が行われていた。


並んだ盤面は先程のレースと同じ。攻撃力10000・守備力5000の 《ミスター・トレーラー》を相手にした怪鳥のラストターン。


トレーラーを如何に退け、サーチを阻止するかが命題のハズだったが……ハルピュイア達はドローが芳しくなく、そのまま何もせずターンを終えた。


諦めてしまった。


それでは浅いと千里は指摘する。


「この最終盤面だが…… 場にあった《咎木の手押し車》の確定ドロー使えたろ? キルハルピュイア関連ならなんでも持ってこれるヤツだ……ソイツで他でもない、オマエら自身を持ってくる手があったよなーぁ?」


ぱちり、ハルピュイアのカードを重ね置く千里。


『ナンダト? ソンナ事ヲシテナンニナル……?』


『引イテ出シタダケノ我々ナンテ「くそざこ」ッテヤツダゾ?』


『無駄ナアガキデハナイノカ……?』


なんにもわかってない様子のハルピュイアにじっくりと教え込む。


「そーじゃないんだよなー。いーか良く聞け。俺のトレーラーは守備力5000。んでオマエらハルピュイアの攻撃力も5000。……なら話は簡単だ。自爆特攻させればミゴト相打ち。延長戦に持ち込めたんじゃーねぇの?」


『アッ!?』


盤面を見て唖然とする。


怪鳥達は補助カードで完全体になる(マグネスイッチを押す)ことに気を取られて、自身の高いポテンシャルを見失っていた。


補助カードとの連携で付くドローがなくとも、呼びやすい5000打点の進路妨害持ち……というだけで十分強いのだ。


特に攻撃の制限もなく小回りが効き、そこそこの打点で見た目以上の被害をたたき出す……だからこその暴れっぷり。同じ凡庸ドロー持ち盾役ユニットでも、某所のベルの天使とは馬力が全く違うのだ。


「そーなりゃあとは泥沼よ。サーチが出来なきゃ俺は手詰まり、勝負はまだまだわからなかったんじゃあないか?」


『ナ、ナルホド……』


「……と見せかけて、だ」


『???』


しかし千里はイジワルに笑む。


反応を見て楽しげに、手札から悪夢のような一手を切る。


「あの時の俺の手札は 《死骨の愛で手シイカ》を含む二枚。シイカは自分ごと手札を捨てることで、枚数×3000までの守備力を持つマシンを破壊できる」


『エッ』


ぱちり、ぱちりと二枚を捨て。


「二枚捨てれば6000まで焼ける。守備力5000のハルピュイアを狙えば……」


『ア、アア……!?』


「みごとお陀仏!! シイカは自分の効果でトレーラーの上に重ね出るし、お前の最後の手札も捨てちまうわけだ」


ハルピュイアは捨て札に。


千里は手札一枚を失うも、捨てたばかりのシイカが場に戻り場に残る。一方の怪鳥たちは、正真正銘全てを失ってしまった。


『ッ!! 騙シタカ!? コレデハドウアガイテモカテナイデハナイカ!!』


「おーよ騙したぞー。そしてオマエラはあっさり騙された。だーかーらー鳥頭ってんだ。一瞬前も記憶できないせいで考え一つ自力で纏められず、わかりやすい言葉に釣られちまうんだからなぁ?」


『グ…………!? ソレハ……』


『エト、アノ……』


『ソノ、ウン……』


悪びれもしない凶悪な笑み……それを咎めようにもぐうの音も出ず、黙り込んでしまう。


それに手応えを感じつつ、千里は悪魔の面で先に進める。


「そして、()()()()()()()()()()()()。上に乗ったシイカが邪魔で、どっちみちトレーラーのサーチは使えなくなる。シイカ単体じゃあ勝負は決まらない。お互い手札がゼロだから、ここから先はドロー勝負になる』


『エッ……?』


「それでも巨大マシンを使える俺の方が有利には違いないが……」


お互いの山札を捲っていく。お互い決定的なカードが出ない中で。


きらり。


最後に捲られた怪鳥のデッキトップで、至高のレジェンドレアが輝く。





《無限氷焔王シヴァ・ル・ウォー》✝

ギア5マシン ヘルディメンション POW15000 DEF15000

【自分のメインフェイズ/捨て札の同名マシン四枚を山札に戻す】このマシンを手札から呼び出す。

【手札からの登場時】相手の場の、ギア5以下のカード一枚を破壊する。その後このターンに山札に戻ったカードの枚数まで追加で破壊してもよい。

【バトルフェイズ毎に一度】自分がレース中一度でも 《無限氷焔王シヴァ・ル・ウォー》を呼び出していたなら、このマシンを捨て札からセンターに置いても良い。

【二回行動】






一発逆転の切り札が、彼らの勝利の可能性を示していた。


「諦めなけりゃ、チャンスは何度でもやってくる。最後の最後まではな」


『…………、』


「なあハルピュイア。俺はお前らに訊きたいんだ。何を武器にして何を求める?」


『ム……武器……?』


銀髪の悪魔はチャンスを逃さない。


動揺の隙を突く本質的な問いかけ。


シンプルすぎる彼らの思想にメスを入れる。


「タダで手に入るモンはそうそうないと思う。でもって何を手に入れるか決めてないと、目的は永遠に果たせない。満たされないんだ……カレー食いてー時にラーメン幾ら喰っても食った気になんねーみてぇによー。動かないのは確かにマズイが『間違った動き方』もヤバいんだ、多分よ」


『満タサレナイ……』


『間違ッタ……動キ方……』


「昨日のオマエラは復讐を願った。それが本心なら俺たちは戦うしかねー。でもそれ以上の本音があるならそっちに全力出すことを勧める」


じり、と。


盤面越しに身を乗り出して問う。


「重要なのは『自分で自分を諦めない』事だろ。この道しか無いと突き進み、行き止まりに突き刺さって二度と動けなくなる……そーいうのを回避するのがイチバン重要なんだ!

だからお前達自身のこれからの為に訊く!! 目の前の行き止まりを前に、オマエらは何を思う? 壁か自分の五体のどっちかがぶっ潰れるまで挑むか……それとも別の道を探るか!!」


『ワ、我々、ハ……』


『ウ、ウヌゥ……』


ヒソヒソ、ヒソヒソ。


怪鳥たちによる自分同士の語らい。


復讐は手段か、目的か。


その議論にケリをつける所だろうか。


そして、並行演算の果てに。


『……結論ガ出タ。我々ノ復讐ハ……』








『「目的」デハナイ。我々ハ…………モット広イ空ヲ飛ビタイノダ……!!』






本来の願いがこぼれる。


同じ思考を共有する怪鳥たちが一気に旗色を変える。


『ソウダ……ソウナノダ……我々ハ一ニシテ全、個体ニシテ群体!!』


『群レ成シテ生キルコトコソ我々ノアイデンティティ!! コノ孤島デハアマリニ狭スギル!!』


『ヨリ広イ大地ヲ、コノ翼ヲモッテ舞ウ!! コノ翼コソガ我々ノ武器ナノダ!!』


「そうか……そうか……!!」


喜び勇むハルピュイアを前に、千里も乗っかって。


「そーか! そーかそーかそーか!! その意気だぜハルピュイア! 自分をしっかり持って話せば、通る願いもあるってもんだ!!」


『ウムウム!!』


わーいわーいと輪になって喜ぶ。


ーーーーその心中、冷や汗をかくのは実は千里だ。


(あっぶねー……ガチでルール無用の反逆されたらネット文明に勝ち目ねーからよー。大人しく交渉する方に向かってくれて御の字だぜ)


『意志を持つプログラム』の対処を、現代社会は未だにできてない。


彼らが本気の敵意を持ってプログラムを破壊にかかればれば、全国の病院を停止したり、発電所を潰す事だってできるのだ。そうなったら人類はひとたまりもないだろう。


とはいえ。


だからこそ。


(まーそーなったら、こいつらも一緒におっ死んじまう。人が電気を供給しないとサーバーは動かねーからなー)


『ムムム? ドウカシタノカ?』


「何でもねーよ。なんでも」


思考停止の復讐。その果てには共倒れの破滅しかないと目に見えてる。


千里ももちろん死にたくないが、彼ら自身の為にも彼らを止める必要があったのだ。


でなければ平等なバッドエンドに突入する。


馬鹿馬鹿しくふざけた結末。


それだけは御免だ。


(誰も得しない結末なんてまっぴらだ……仲良くしよーぜ、キルハルピュイア)


心中にて手を伸ばす。


いずれは心の内までさらけ出し、五分の付き合いができると信じて。












「よしよし。しっかり手なずけてくれちゃってまぁ……これなら事後処理も心配なさそうね」


「うむうむ」


遠巻きに見守っていた二人だが、結果を見てほっと胸を撫で下ろす。


さすがに、無尽の兵隊を相手に出来る者は居ない。千里の結果次第では覚悟を決めねばならなかったかもしれなかった。


とはいえ。


「……しかし、ああも上手く立ち回られると……拙者としては無力を晒すというのもやるせないものよの……」


この結果が堪えるのが、唯一なにもしてない或葉だ。チエカのファンとしてフォロワーとして信者として、彼女らの自尊心を保つ助けにはなっても……それはそれとしてちゃんと活躍はしたいのだ。


そのセリフを待ってましたとばかりに、幼い魔王が。


「あら……あるケド? あなたにしかできないことが」


「??? 本当にかの!?」


「ええ。こっち……ひそひそ……」


「ウム? ほうほう……なるほどなるほど……」


耳打ちのプライバシー。


二人きりの瞬間が、ガチリと最後のピースを嵌める。


「なるほど確かに心当たりがある。それは拙者にしか出来ぬことよの……心得た」


「アラ頼もしい。じゃお願いねーーーー♪」


「ん? ……あ〜!! またワタシたちに秘密の話してますねーー!? なんですかなんですかなんなんですかぁもー!!」


「ふふふ。時にはヒミツを抱えるのも良きものよの」


当然感ずかれて非難を受けるも、それすら楽しむように或葉は笑う。


そうした影で。


(まったく……頼もしいったらありゃしない。ズイブンと恵まれたものよね、あたしも)


自嘲するよう、に創世の要たる良襖は独り心を転がすのだ。






ーーーーかくして進み続ける状況。


停滞していた流れは、少しづつ快方に向かっていた。











「ん、コレは……?」


……と、詩葉の戦場にて。


不意に、ひらりひらりと舞い降りた一枚が不安を煽る。






《大海の守り手エレン》✝

ギア4マシン ステアリング POW12500 DEF12500

【デミゲストカード】【自分の場のステアリングカード一枚を破壊】このマシンを場か手札からセンターに置き、ターン終了まで【進路妨害】を与える。

【このマシンによる、ターン最初のバトル時】バトル相手の名前を記録する。その後このマシンは、記録したカードと同名のカードが相手の場にある限り何度でも回復できる。






「エレン……? このエリアの親玉っていうあの……?」


周囲を見回すが、辺り一帯乱戦が過ぎてどこから飛んできたかわかったものでは無い。


「一体誰がドロップした? いや、部下が親玉のカードをドロップするわけが……いや」


チラリ、金髪の兵隊達を睨み思考する。


「……………………………………………………まさか、な」


ありえない可能性と断ずる。断じてしまう。


彼女が彼女たる所以はこういう所なのだが、だからこそ自覚に至れない。

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