表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 11.5 外伝封入。電子の海の一大バカンス!!
180/190

六者六様の戦局。全員総出のイベント攻略・中編。

ーーーーガガガガガガガガガガガガガガガガっガガガガっガガガガ!!!!




「……お、始まったカナー?」


「そのようにござるな」


騒音響く大本営。


最初の島に築かれた仮拠点だ。各敵拠点の攻略はここから見守る事になる。電子の物資が揃っているのが有難く、作業担当が楽をできるからだ。


「まーやってくれなきゃ困るわよね。このあたしがここまで気合い入れてやってるんだもの」


担当を担う真っ赤なくせっ毛の幼女魔王・良襖が鼻歌交じりに口ずさむ。


彼女の正面には半透明のキーボードが浮かび、そこより発するけたたましい響きが兵士を量産していた。


いくつものウインドウが状態を表示しているが……良襖がやっているのはいわば『裏口ログイン』だ。


「各拠点襲撃用の部隊、目標人数それぞれ一万……計三万人分のチエカの培養。それにイベント参加用のダミーアカウントを作成、同時進行で紐付け、召喚……ね。言ってるだけで疲れて来るわもう」


ーーーーゲーム内のNPC扱いであるチエカでは、本来ゲームの攻略は出来ない。


故に、レイドへ向けた尖兵にするには手間暇がかかる。


それでも彼女らを起用する理由はひとつ。頭数が絶望的に足りないからだ。


解決すべきは各拠点毎に百万もの撃墜ノルマ。当初の六名ぽっちの頭数では一年かかっても終わりが見えない。かといってこのイベントを一般プレイヤーに公開したら、現統括者のマリスに見つかって悪用されてしまうのは明白。


だからこそ彼女らの増殖能力に頼り、良襖が引き出すのだ。一万もの軍勢があれば一人頭のノルマは百戦。一戦10分弱としても1000分……16時間半ほどで各拠点の制圧が終わるという算段だ。


「色々と権限は与えてたケド……プレーヤーの権限与えるのは初めてね。ここまでしてもらっといて反逆とか起こすんじゃないわよ?」


ガガガガガガガ!! と凄まじい音を立ててキーを叩く。


言葉とうらはらの凶暴な笑み。


癖っ毛幼女の本調子。良襖の本気の本気が盤面に風穴を開ける。


近くで見守る或葉が不安げに問う。


「行けるのかの? いかなチエカ殿とはいえ、力を削がれた上で仕様外の動きをさせるなど……なんかこう、酷ではなかろうか」


「ダイジョーブ。ちゃんと寝る時間は作ってあげるし。……それにあたしを誰だと思ってるの? こっちはこっちで権限を削がれたとはいえ、このゲームを作った魔王サマよ? 明日の晩には全部のケリを付けてみせるわ」


そもそもこのゲーム世界は彼女が創造したもの。


本来の全力全開であれば、全てを思い通りにもできる権限があった。


故に刻まれ、引き裂かれすっかり萎んでもなお食らいつく。


様々な理屈で百倍に希釈しても、彼女という毒牙はなおこの世界に喰いこみ逃さないのだ。


「なるほど、ありがたい限りよの……おかげでこのような楽園に在れるゆえ……」


『『『ねーーーーー♡♡♡』』』


なんて言いつつ、チエカの群れに埋まる或葉……チエカを生涯推す彼女にとっては楽園であろう。


「なんていうか、役得よねー。……ま、チエカ側にとっても承認欲満たす相手になるからいいケド」


「ふむふむ……極楽ごくらく……」


とりあえずほっといても大丈夫だと判断し、戦局へと意識を戻す。


「さーて……頼んだわよチエカ。そして我らが大人サマ達」


信頼が趨勢を加速させる。


三つに別れた前線では、それぞれが知略と力を尽くして戦っていた……!!












「ほらほらっ、喰らいなさいってーのっ!!」


「ぐっふぉあああああああぁぁぁああああ!?」




WIN ユリカPOW16000vs10000DEFカイニネウス LOSE




脚襲の一撃。


舞台はルイズの右腕装甲。敵幹部の一角、暴虐姫カイニネウスを砕くべく、嗜虐の姫が踊り舞っていた。


「ヒトの事アゴで使おうってのは気に食わないけど……ま、この高みは悪くないから許してアゲル」


「テメェ……!! このカイニネウス様になんて真似を!!」


「ハイ語ってる暇ないからねーッ!!」


「ごふっ!! ぐふぉああああああああぁぁぁ!!」


とにかくハイパワーで押し潰しながら、嗜虐の姫は舞い踊る。


「てーか、結構気合い入ったの選んだのに見せ場無かったかなーっと……はいそこ遅延しなーい!」


お気にの黒水着を気にしつつ、口すっぱく指示を飛ばすのは電子の幹部の一角……ユリカだ。






《暴虐皇カイニネウス》✝

ギア3マシン ステアリング POW11000 DEF10000

【ワイルドステア】

【攻撃時】このマシンのパワーを倍にする。その後のターン終了時に、このマシンのパワーは5000になる。

【このマシンが相手の攻撃または効果で選ばれた時】このマシンを山札に戻す。その後山札からギア3のマシンを呼び出し、このマシンの代わりに選ばれ直させても良い。(この時【登場時】の効果は起動しない)。






「…………あー、Mikiで見て気の毒になったやつー。確かわたしの下位互換だっけ。てか小型版? どっちみち出番無いのは同じか」


「う、うっせぇ!! これから出まくるようになるんだよォ!!」


哀れみの視線が筋肉質の女を突き刺す。


仮にも電子の最高幹部。梵百の劣化個体に負けるつもりは無い。


「見た目通りの結構なパワータイプみたいだけど……おあいにくさま、あなたはギア3で私はギア4。格が違うの」


「くっ……ちっきしょう……ちきしょうが……」


ーーーー各敵拠点でのバトルは、彼女らが出してくる分身を倒さねばならない制約がある。


ここのキモは、選ばれた時に山札に戻ってしまうカイニネウスを如何に殴り倒すかだ。


「部外者の脳ミソで考えたら不可能だろうけど……だったら『選ばなければ良い』だけの事よね?」


カードゲームでは常識とも言える、解釈の穴の押し付け合い。


破壊耐性を()()()()()効果ですり抜けるような屁理屈合戦。電子の幹部である彼女はそれをよく理解していた。






《極上の乗り手ユリカ》✝

ギア4マシン ステアリング POW16000 DEF9000

【デミ・ゲストカード】【センターがギア4である】場のこのマシンをセンターに移動してもよい。

【バトル開始時/自分の下に置かれたカードを一枚疲労】対象が持つPOWとDEFを、バトル終了までこのマシンに加える。

【デッドヒート4(相手が【デッドヒート】以外で走行する度に、先に4走行する。デッドヒートは一つの走行につきひとつしか適応されない)】




《領域秘伝ヘルクラッパー》✝

ギア4アシスト【装備】 ヘルディメンション

【装備マシンの走行時】その攻撃力以下の守備力を持つ、露出した相手マシンを全て破壊する。その後、自分は手札一枚を捨てる。






つまりは全体除去。


後に千里が決戦の舞台でシイカを全滅させるのに使う事になるカード、そのヘルディメンションでの装備カード版だ。どんなに選ばれる事から逃げても、全体除去からは逃げられないという寸法だ。


「て訳だから、貴女達も全体除去でカイニネウスを倒すようにね!! うっかり効果で選んでデッキに戻られたら後がキツいわよ!」


『『『はーいなー♪ ちょっと頑張っちゃいますよー!!』』』


「くっそぉぉぉおおお!? やめろお集団でボコるなぁ!」


敵へと群れなし向かって行くチエカを見て、しかしユリカから懸念は消えない。


「にしても……見た顔なのに、見た気がしないスキルを持ってるのね……?」


「ギクッ!?」


「とりあえず報告するとして……貴女自身にもちゃんと聞こうかしら。ああ大丈夫大丈夫。質問のチャンスは後999999回もあるんだからね?」


「なんかコエーよアンタァアアアア!?」


恐慌と共に状況は進む。


三点のうちの一角は、順調に制圧が進んでいた……。













「ああもう! 今回は私が主役だって聞いてたのに……いや目立ちすぎるのもアレなんだけど!?」


「だったら後方に引いていれば……そもそもこのイベントでのアナタは囚われの姫みたいなものでしてね!?」


「頭数が足りないのよもう!! とりあえず倒れて!!! えいっ!!!」


「ぐはァああああああああぁぁぁ!!!?」





WIN 水着ルイズPOW20000vs15500DEFデオーネ LOSE




可愛らしい声と共に可愛くない威力の一撃が飛んでくる。


「ぐああああああなんですかこのバ火力どっから出てきましたああああああっあああああ!?」


こちらはルイズの左腕装甲。


守護するデオーネを圧殺するのは、彼女ことルイズの…………鎧も何もない、素手だ。






《麗蘭剣デオーネ》✝

ギア3マシン ステアリング POW15500 DEF5500

【ワイルドステア】

【センターに置かれている時/相手マシンの行動時】自分は手札を一枚捨てる。そうしたなら、対象の行動を無効にする。






倒した相手のステータスを確認し、小首を傾げるルイズ。彼女も電子の幹部の一角だが、見慣れぬものはあるようで。


「ワイル……なにこれ? まあ私に挑むには相性が悪いみたい。進路妨害じゃないからわたしはバトルしなくていいし、発動は強制。私のカードは手数が多いから手札いっぱい捨てさせられるし……」


「それ以前の問題が起きてますって! どうして……貴女攻撃力ゼロのはずでは……?」


「え、ああ確かにそうだけど……それじゃトドメを刺せないじゃない? それで新規を作ってもらおうかと思ったんだけど、なんとかするカードが既に私の亜種にあったっぽくって」


そうして、裏から出てきたのはこれまた愛らしい赤装束のルイズ。


たわわな果実を覗かせるそれは、見るからに攻撃力満点のサンタクロースだった。





《聖夜の運び手ルイズ・ファムファタル-サンタ-》✝

ギア4マシン ステアリング/ラバーズサイバー POW 0 DEF20000

【登場時】場の露出したマシン全てのP()O()W()()D()E()F()()()()()()()()()()()()()。そうしたなら自分の山札を、入れ替えた回数分めくり、表返して対象のマシン全ての下に一枚づつ重ねる。この効果を使ったこのカードはこのターン走行できない。

【進路妨害】【二回行動】






「ヒェッ……まさか僕の守備力がおかしいのもそういう……!?」


「ええ。だから悪いけど、容赦なく潰れて欲しいの」


ルイズの亜種は全て同じ、守備力全振りのステータスでできている。故に良襖がもしもの為に用意し、この有事に掘り起こされたコーデが力を与えていた。


心境の変化さえも。


「なんだ……あなたは何かが今までと違う!! 鉄仮面の演技とも、あなた本来のそれとも違うその感情はいったい……?」


「ちょっとね……今まで守ってばかりだった。それしかできないと思っていたし、それでいいと思っていた。でもこうして力を手に入れて、それを使うべき盤面に立ってわかった……」


言いつつ、拳を握りかぶりを振る。


余計な思い込みを振り払うように……


「いいえ思い出した!! あの子を、良襖を産む所まで漕ぎ着けたのは、私が攻めた人生を歩んだからだって!! あの人に出逢い、勇気を持って前に進む選択を続けたから今があるんだって!

だからあなたは私が止める。呼び覚ました熱意で、私は私自身を取り戻してその先の未来を掴む! あの子と歩む未来をッッッッ!!!」


「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいい!!!」


ドガバキグシャアアアアアアア!!!! ……と、かくして二万点の拳が麗剣士を粉々に砕く。


こちらも万事問題無し。


攻める事を思い出した母は、守りを棄てた攻めを以て障害を打ち砕く。













「ま、待って少し待って、話をね? 聞いて欲し」


「知った事か死ね!!!」


「ぐああああああああああああっあああああ!!!」


そしてルイズの大車輪パーツ上にて。


殺人姫ジャックリーナを踏み荒らすのは、唯一電子の幹部の称号を持たず指揮を執る詩葉だ。


「全く、なんで一般人のオレが一番難易度高い場所の担当なんだ……? まあ、他のトコもろとも順調だし良いが……」


各所からチエカ達の威勢のいい掛け声が響く。


大車輪の周囲は砂が溜まり広い戦場が広がっていた。他のパーツの付近もそのようで、巨大オブジェクトがある以外は最初の島と同じ規模のようだ。


(こっちの島も素のチエカを溶かして作ったのか? こっちからはなにも異常を感じないが……向こう二人がちゃんと俯瞰してくれているだろうか。……ん?)


と、物思いの隙を突いて撃破に伴うレアドロップが手元に転がる。






《殺人姫ジャックリーナ》✝

ギア3マシン ステアリング POW10500 DEF10500

【ワイルドステア】

【このカードを手札から捨てる】相手のギア2以上のマシン一台を破壊する。その後相手は山札から、破壊されたマシンとギア合計が同じになるよう、二枚以上のカードを選んで手札に加えても良い(このときギア0以下のマシンは選べない)

【このカードの破壊時】自分は手札を一枚捨てる。そうできたなら、このカードを破壊する代わりに手札に戻す。




(……こっちのクエストも、一弾からあるマシンカードがボスか)


ここのクエストはデオーネのそれよりも厄介だ。


手札が一枚でもあるとセルフバウンスで復帰してしまうジャックリーナ。その喉元を食いちぎるには先に全ての手札を捨てさせるしかない……のだが。


(シイカを使い倒しても良かったが……やっぱりいい気分でもない。ここはこういうので……だ)


やはり適材適所というものがある。


能力値をエンターテインメントに振った前者二人と違い、彼女は地味な作業に長けていた。





《副長絡繰トシゾー》✝

ギア4マシン ヘルディメンション POW14000 DEF6000

【登場時】相手の手札一枚を捨てる。その後一度だけ、相手ターンのドローフェイズ後に手札一枚を捨てさせる。




《暗殺絡繰ダンゾー》✝

ギア3マシン ヘルディメンション POW10000 DEF5000

【登場時】相手の手札一枚を選んで捨てる。




《相殺絡繰イゾー》✝

ギア2マシン ヘルディメンション POW4000 DEF4000

【登場時】このマシンを破壊してもよい。そうしたら、相手の手札一枚を選んで捨てる。




従えるのは手札捨てさせのプロ集団。


デッキから工夫していれば、ジャックリーナの解体能力も怖くない。上位の絡繰を解体したら下位の絡繰が出てきて手札を捨てる羽目になる以上、おいそれと除去に使えないのだ。


「しっかしなんだこれ……ワイルドステア? まあいいが。ドロップは有効活用させて貰うぞ。今後の戦いのためにな」


「そ、そんなぁ……ごふっ!!」


間髪入れずにもう一撃破。


相変わらず未来を見てるデザインのカードを手に、詩葉は更なる歩みを進める。










「えーなになに? 見慣れないスキルが付いてて確認もできない? ……オーライ。こっちでも調べておくわ。引き続きよろしくね、かあさん」


言って通話を切る。


司令塔は本来詩葉の役目だが、今はチエカの指揮のため前線に出ている。


それに今は謎の敵の解明が要る。解明の為にも、元創造主である彼女がまとめて担当するしかないのだ。


「……して、そういえば千里の姿が見えないようだが」


まどろみの中、安らぎっぱなしの或葉が疑問を投げる。この戦場の主人公はいったい何をしているんだ?……と。


「ん、ああ……千里ならホラ、先生やってるわ」


「先生とな?」


「ええ。大人達がチエカに教え込むように、千里はあの子達に教えるってワケ」


言って指さすのは、草葉を背負う砂浜の奥まった場所。


一人の少年が、一ダース程の怪鳥と屈んで向き合う構図。






『よーし、そんじゃ反省会始めっぞー』


『『『ウム…………?』』』






「アレが意外と重要なのよねー。あっちは彼に任せましょ。スカウトは専門外だし」


「う、うむ???」


脇道に見えて、大切な本命。


盤外の語らいこそが、戦いに満ちた彼らの『物語』を創るのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ