【本編更新中断中】業火の試練開幕。千里vsホムラ再戦・前編A‼
カードゲームとはインフレを起こすものだ。
かつては猛威を振るったカードも、後から出現したカードの影に隠れ出番がなくなることが多々ある。
割と気軽にエラッタを行えるカードレース・スタンピードでさえ、最初期に出た大魔王シリーズがまとめて 《一方的勝利ブラッドサガーン》の影に沈んだ前例があるのだ。歴史は常に塗り替えられ続け、今日を過去にする切り札は刷られ続ける。
だからこそ、誰もが意識しておく必要がある。
無数のカードがぶつかり合った末に、昨日までの常識を超える一手が生まれる可能性は常にあるのだ…………と。
試練は千里の先行から始まる。
「俺のターン、ドロー‼ 手札から 《アドバンス・フォーミュラ》を呼び出してファーストマシン 《コズミック・エッグ》を疲労させることで培養できる‼
更にここで 《ハイブリッドブースター》を設置。コイツを代わりに疲労させることでコズミックは疲労しない!」
一切の遠慮がない号令が飛ぶ。
ここまでの道筋で鍛え上げた戦術が牙を立てる。
《コズミック・エッグ》✝
ギア1マシン ステアリング POW 0 DEF 0
【潜伏/1ターンに一度/自分がギアマシン1を呼び出した時/このマシンを疲労】同一のマシンを一枚作成し、空いているマシンゾーンに呼び出す。
《アドバンス・フォーミュラ》✝
ギア1マシン スカーレットローズ POW 0 DEF 0
【常時】自分マシンの走行距離は全て+1ずつされる。
《ハイブリッドブースター》✝
ギア1アシスト【設置】 スカーレットローズ
【自分マシンの、走行や攻撃以外での疲労時】手札からこのアシストを発動し、対象の代わりに疲労させてもよい。
【自分のターン開始時】このアシストを破壊して、一枚ドローする。
スカーレットローズの基本戦術の一つ、ギア1を用いた戦術。
先制パンチとしては十二分の号令が飛ぶ。
「二台の効果で全マシンの走力+2‼ 合計9点の走力で走行する‼」
卵の殻を破ったようなフォルムのバイクが唸りを挙げる。
試練の仕様でついた距離を更に突き放す。
千里残り走行距離…………20⇒17⇒14⇒11
走行は素通り。
ここまでは順調と、少しばかり拍子抜けした気になりながらも。
「俺はこれでターンエンド」
「儂のターン、カードドロー‼ 儂は 《懐古の大車》の上に 《仙狐ホムラビット》を重ねて呼び出す!」
ターンは移る。
《懐古の大車》✝
ギア1アシスト サムライスピリッツ POW 0 DEF 0
【潜伏(このマシンが露出してなくても有効)/このカードがセンターに置かれている自分ターン終了時】往復ターン数を1増やす。
《妖狐ホムラビット》✝
ギア2マシン サムライスピリット POW5000 DEF5000
【自分のターン終了時】このマシンをアシストゾーンに置いても良い。そうしたら、次の自分ターン開始時にギアと攻守を倍にして疲労状態で置く。
「そして走行! その走行時、手札から 《神速・居合い返し》を使用する」
「……? 始めて聞くカード……?」
何の気なしにホムラが使ったアシストカード。
なんだろうと思い確認する。
「え」
絶句する。
《神速・居合い返し》✝
ギア2アシスト サムライスピリッツ
【自分マシンの走行時】カードを一枚引き、このカードを裏返してアシストゾーンに残す。
【クイックドロウ2(往復2ターン目以内にこのアシストを使ったなら有効)】上の効果に加え、発動条件になったマシンは前のターンに相手が走行した距離の倍、走力を得る。
「ちょ…………なんじゃそりゃぁッ!?」
前のターン、千里が走行した距離は9。
それを倍にして、更に基本の追加走力とホムラビット自身の走行能力を足すと……
ホムラビット走行能力……2+9×2=20!!
通常のゴールまでの距離ぴったりの走行。
「必殺技はターンごとに一度。もちろんこのターンも殺しにかかるぞ小童め」
「く……そッ!? 手札から 《速度制限ーゾーン3ー》を発動!!」
ここで対応策を握っていたのは、単なる幸運だったのかもしれない。
ともあれ出すしかなかった。
《速度制限ーゾーン3ー》✝
ギア1アシスト【設置】 ステアリング
【常時】お互いに、一度に走行できる距離は3までになる。
【このカードが置かれてから二度目の相手ターン終了時】このアシストを破壊する。
ホムラビット走力…………20⇒3
ホムラ残り走行距離…………40⇒37
「マジ……かよおいッ!?」
急な事態に、山札に三種類しか入れられないステアリングを切ってしまった。
それでも使わなかったら、かつハンデが無かったら、今の走りで終わりかねなかった。
(甘かった……!?)
ゴールしてからが本番だなんて、見通しが甘かったのだと自覚した。
(あると思わなかった……このゲームに、後攻ワンターンキルなんて……)
「更に」
「ッ!?」
十分すぎる敵意を、しかしホムラは緩めない。
「手札から 《秘術・焔映し》を発動。今走行したホムラビットの複製となって場に置かれる。さあ走行と行こうか!!」
「イッ…………!?」
《秘術・焔映し》✝
ギア1アシスト サムライスピリット
【自分マシンの走行終了時/場札二枚を疲労】このアシストは発動後、ターン終了まで発動条件になったマシンと同じステータス、同じ強化を引き継いだマシンとして空いているマシンゾーンに置かれる。こうして置かれたこのカードは他のあらゆる効果を無視するが、一度疲労したら回復できない。
「!? ちょっと待て、お前の場のカードで疲労してないのはさっき裏返した 《居合返し》だけだろ!? 二枚の疲労なんてコスト払える訳……」
「不可能など推し通るまでよ。手札の 《シンセティック・クォーツ》をターン終了まで公開することで、支払いの一つを肩代わりする!」
「ああくそ、なんでもアリか!?」
ホムラの底力は想像を超えていた。
とにかく連携は繰り出され、圧倒的な走力ははじき出された。
《シンセティック・クォーツ》✝
ギア5マシン ステアリング POW15000 DEF15000
【自分が場札の疲労または破壊でコストを支払う時】手札のこのカードをターン終了まで公開してもよい。そうしたら、発動条件になったコストの支払いを一枚減らす。
【∞リロード(このカードが場か捨て札にあるターンの終了時、このカードを手札に戻してもよい)】
ホムラ残り走行距離…………37⇒17
「………………………、」
本気の殺意を見た。
(気ィ抜いてると、ガチで瞬殺される…………!!)
「これで儂はターンエンド!! とともに複製含む二枚のホムラビットは効果でアシストゾーンに移動する!!
そして懐古の大車の効果で、往復ターン数のカウントを一つ進める。……さぁ、お前のターンじゃぞ小童め」
無駄も容赦も一切無い。
次にターンがホムラに渡ればその正面にはギア4が。
その上に先程のギア5を重ねれば、今度はギア5の超必殺技を撃てるようになる。
その容赦のない戦術に千里は。
千里は。
(いいや……それがいい)
歓喜していた。
紛れもなく、己の中に経験値が蓄えられていく事を歓喜していた。
この戦いは、いわば最後の敵を討つための修行に近い。
なればこそ、迎え撃つ戦術は強ければ強いほどいい。
なにより。
(感じるぜホムラ。アンタがこのゲームに乗せたむき出しの感情を。そうだ。そう来なくっちゃ、この戦いを挑んだ意味がねぇ!)
この神速の戦い、真のゴールは彼の子にして首魁、マリスを理解した上で倒すこと。
ならばこそ。
(まずはアンタを理解する。アンタ自身が気づいてない隅々まできっちりと!! あの時以上にッ!!!!)
「俺のターン、カードドローッッッ!! この瞬間ハイブリッドブースターの効果が起動し、自壊と共に一枚ドローする!!」
決意を込めて引き入れた二枚。
その一枚は。
(……来た)
彼の日、魔王に託された切り札。
世界を砕き尽くす魔王の配下を握りしめ、千里は戦場を睨む。
(……今この試練でやるべき事は、次のターンに飛んでくるはずの重量級の必殺技を阻止すること。
そのためには台座になるギア5マシンの登場を止めなきゃで、ギア5はギア4の上にしか呼べない。そして今出しやすいギア4のアテ筆頭候補はアシスト置き場で寝てるホムラビットだ)
冷静な分析で答えに迫る。
これまでの経験で、年季の入った猛者に食らいつく。
(つまり今最も有効な攻撃は……アシストゾーンをぶっ飛ばすこと!!)
「ああそうだよな……アシストゾーンのカードを全て破壊する効果……ここ以外でいつ使うって話だ……!!」
打つ手は決まった。
一度退けてなお恐るべき相手に、千里は敬意を持って突き進む。