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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 11.5 外伝封入。電子の海の一大バカンス!!
168/190

夏休み特別編〜電子の海にて会いましょう♪〜その2

※この番外編では初見の方でもある程度話がわかるよう、かつ致命的なネタバレは回避するように描写しております。既に読者だった方はご了承くださいませ。

時間は更に前日まで遡る。




「ラバーズサイバー方面に、極小の新エリア反応だと?」


「ええ。最終決戦前でなんだけど、マリスの野望のしっぽかもしれない。見過ごせないわ」


その会話は、とある喫茶店にて交わされる。


一見普通のお店、しかし時として貸し切り状態でスタンピードの関係者が利用し、陰謀まみれの会話がを繰り広げたりする。


そして語らうのは、電子世界の勇者と魔王だ。


「んな事有り得んのか? こっちはゲームを統括する鍵を半分以上持ってんだぞ。ゲームマスターもこのとおり……ここに居るし」


「えっへん。勇者サマにお褒め頂いて光栄よ」


「いや褒めてねーよ魔王様(ゲームマスター)


言って、顔を顰めるのは白い長髪を緩く縛った中性的な少年……名を先駆千里。


彼は訳あって目の前の真っ赤な癖毛の少女……鳥文良襖が創ったゲーム『カードレース・スタンピード』を攻略していた。


本来は普通に攻略していれば済んだ話だったが、彼らの間に悪意(マリス)を名乗る男が乱入したために拗れてしまっていた。


現在はマリスとの決着をつけるための最終決戦間際なのだが。


その直前に起こったトラブルについて、彼らは話し合う羽目になっていた。


「……で、どんな可能性が有り得るんだよ?」


「可能性は二つ」


千里の問いに、血色のオーバーオールを正しながら良襖がすらすらと語り進める。


運営権を乗っ取られた身とはいえ、彼女は元々ゲーム世界の創造主。起こりうる可能性は何もかもお見通しだ。


「ひとつは、あたしが過去に作りかけで放置したエリアを誰かが利用した場合……まあマリス一択だろうケド。これなら『新しく作った』扱いにならないから矛盾はない」


「うぇ……そんなジャンクデータみたいなの作ってたのか?」


「ええ。ざっと二ダースくらいは」なんて事無しに言ってしまう。「てかジャンクって……こんなのソシャゲじゃあるあるよ? データを作るだけ作って表に出るのはずっとあと、なんて。ホラ例の人理を修復するRPGとか、最初期からバックデータとしてはあったキャラを何年も後でいざ実装する時に『アニメ版と印象合わなくなったからボイスを収録し直した』……なーんて逸話があるし」


「おっふ……凄まじいのな。んでこの位置だと何が有り得んの?」


「まあリンクで紐付けすればなんでもありだけど……最有力はコレね」


ざっくりと裏事情を語った上で、テーブル上のノートPCをタタンとタップし画面を切り替える。


そして浮かび上がったのは。


「えーっと何コレ……『無限水源海岸・ラバーズオーシャン〜真夏の水上レーシング!!〜(仮)』……これってオマエ」


「見ての通り、水着イベントよ」誇るように魔王は。「スタンピードは六月ら辺にサービス開始だったからさ。流石に割と最初から水着来てもありがたみないじゃない? だから作ったはいいけど、来年まで封印するつもりだったのよね」


「あー、つまり表に出てないだけでほとんど完成してるパターン?」


「そーいうコト」


ふふんと画面を広げ、イベントの大まかな概要を語る。


「シナリオはこうよ。『七領域のひとつ、ラバーズサイバーの管理者ルイズ。その鉄鎧がトラブルで領域の外の海に落ちてしまった。力を失った彼女を救うべく、電子の看板娘チエカが立ち上がる。自身の分身を大量の光の砂に変えて足場を作り、回収した現地のデータから水場に適した装備を作成。鎧の落下が広範囲に渡ることから、プレイヤー達に協力を呼びかけ人海戦術でルイズの鎧の回収にかかるのだった……』ってカンジ。チエカとルイズのの水着版はもちろん、幹部と同格の新キャラも出す予定だったわ」


「おうっふ……よくそんな話何十個も思いつくな?」


「だってゲームマスターだもの。フレーバーテキストよろしくいくらでも思いつくわ。……舞台は海浜!! ジェットモービル仕様と化したマシンを駆り、電子の大海原を駆け抜けろ!! ……ってね?」


と、自信満々にキャッチコピーまで語ったところで方針を打ち出す。


「そーいうワケで、もしこのイベントをたたき起こしたのだとしたらシステム上は頭数がいる。情報も共有したことだし、とっとと他のメンバーにも声掛けましょ」


「……? 待て待てそれ大丈夫か?」


「へ?」


「だって現地は専用装備が要るって設定なんだろ? んで装備を作ってくれるチエカとは今敵対関係にある。制作者のオマエや()()を持ってる俺と違って、他のメンバーは現地の環境に対応できないんじゃ……」


「…………あっ」


いわば汚染された核施設に、防護服無しで向かうようなものではとの指摘。


当然の疑問にフリーズするゲームマスター。かつては相棒が居たから何とかなったのだろうが……これでは乗っ取られるのも致し方無しか。


代わりに千里が舵を取る。


「ったくしゃーないな……じゃーこうだ。まずは俺たち二人で現地を調査する。それで得られた現地の状況に合わせ準備をして、他のメンツを出迎える……そもそもこのイベントだと決まった訳でもねーんだ。細かいところは見に行ってから判断しよーぜ」


「そうね……焦りすぎた。アナタの言うとうりにした方がよさそうね」


と、ふらりふらりと立ち上がる。彼女も決戦に向けてカンズメ状態だ。判断の狂いは過労のせいでもあるのだろう。


本当に夏イベントのエリアなら、いっそ彼女を少しでも休ませた方が良いのでは……なんて思いを隠しつつ聞くべき事を訊く。


「……ああそういえば、可能性のもうひとつってなによ?」


「ああ、完全なバグ」


すっぱりと言い切る。


「その場合はサイアクよ。なんせこのゲームは、魂を操るトンデモ理論で動いてる。予期せぬバグなんてどこにも付き物だけど、このゲームだと特にね……タギー社のバックアップを受けられない今、バグで自壊なんて始められたらこのゲームは終わりよ」


「うっ……」


そう。


このゲームが乗っ取られたとして、ただのゲームならそこまでの問題ではなかったろう。


だがその実、魂を操れてしまう力……通称『チエカシステム』が絡んだせいで話が拗れた。


このゲーム作成時に『ちょっとした陰謀と偶然』が介入したせいで、文字通り画面に人の魂が吸い込まれる事態に陥ってしまったのだ。


現代において、電子画面から伸びる幽鬼の如き魔の手から逃れる術はない。


早い話……スタンピードの完全掌握に成功した者は、全人類の生殺与奪を握ることだって夢ではないのだ。


「……ま。いっそ崩れて無くなっちゃえば、世界サマを傷つけるリスクも消えるんだろうケドさ」


皮肉タップリに魔王は語る。


もはや力を大きく削がれた彼女に、かける言葉は多くなかったが。


「腐んなよ、良襖」


「……ッ」


「オマエが作った世界は、オマエが描いた物語は、間違いなく多くの人を楽しませてくれたんだ。その道筋を自分で否定すんじゃねーぞ」


「……たまにとんでもなく凄いこと言うわよね、千里」


「べーつに。俺がそうだってだけのハナシだからよ」


気安い会話で緊張を解す。


バカ騒ぎの会場に出向く前くらい、どこかすっとぼけた頭でいたいものだ。











「……って、話だったけど」


実際のところ、正解は前者だった。


ゲーム領域のひとつ、ラバーズサイバーの一角。


良襖が仮設定した場所ピッタリにポータルが出現しており、そこに飛び込むことで例の水着イベントエリアに出る事ができた。


だがそこで待っていたのは……。






『『『キシャー!! シャゲー!! ピギャーーーーーーーー!!!』』』


「痛い痛い!! 破ける! 色々破けますってばぁ!!」






「…………何コレ」


「あたしに訊かれても困るわよ」


千里達は、目の前の光景に呆然としていた。


一言で言うと浦島太郎の冒頭みたいな光景だが、その組み合わせは……


「あー、よくぞおいででオフタカタ? 出来れば助けて頂けるとサイワイで……んっ!!」


「え……てかオマエ、まさか……!?」


…………スタンピードには看板娘が居る。


このイベントの根幹にも関わる設定の、無限増殖する最強存在。金髪碧眼ナイスバディの……名を御旗チエカ。


目の前に居るのは間違いなく彼女のはずだが。


『『ピギャ、ピギャアアア!!!!』』


「ちょっ、やめ……水着!! 水着破けちゃいますってば……!」


何故かキラキラの水着姿で、ゲームモンスター 《キルハルピュイア》の群れ数匹に囲まれつつかれていた…………

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